Googleの次世代スマートフォン「Pixel 10」シリーズの心臓部となる、完全自社設計チップセット「Tensor G5」の性能を測る新たなベンチマーク結果がリークされた。未発表の折りたたみモデル「Pixel 10 Pro Fold」で実行されたとみられる今回のテストでは、現行のTensor G4から最大で36%という大幅な性能向上を確認。製造パートナーを長年のSamsungから半導体製造の雄、TSMCへ切り替えたことによる成果が、具体的な数値として表れ始めた格好だ。

しかし、そのスコアは競合の最新チップには依然として及ばない。これは単なる技術的な遅れなのか、それともGoogleが描く独自の戦略の表れなのだろうか?

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ついにベールを脱いだ「TSMC製Tensor」の実力

今回、ベンチマークアプリ「Geekbench 6」のデータベースに登場したのは、16GBのRAMと次期OSであるAndroid 16を搭載した「Pixel 10 Pro Fold」とみられるデバイスだ。そのスコアは、シングルコア・スコアで2,276ポイント、マルチコア・スコアで6,173ポイントを記録した。

この数値が持つ意味は大きい。現行のPixel 9シリーズに搭載されているTensor G4のスコア(おおよそシングルコア1,900ポイント、マルチコア4,500ポイント前後)と比較すると、シングルコアで約20%、マルチコアで約37%という、世代交代としては極めて大きな飛躍であることがわかる。特に、複数のコアを同時に使用するマルチコア性能の向上は、多くのアプリケーションを同時に、あるいはバックグラウンドで処理する現代のスマートフォンの利用シーンにおいて、体感速度の向上に直結する重要な指標だ。

過去にリークされたTensor G5の初期サンプルとみられるスコアは、これよりも遥かに低いものだった。しかし、今回のスコアはクロック周波数が安定しており、スロットリング(過熱による性能低下)の兆候も見られないことから、より量産モデルに近い、成熟した状態のチップである可能性が高いと考えられる。

性能向上の立役者、TSMCへの移行とその戦略的意味

この目覚ましい性能向上の背景には、製造ファウンドリの変更という、Googleにとって極めて重要な戦略転換がある。初代TensorからG4まで、GoogleはSamsungのファウンドリ部門に製造を委託してきた。しかし、Tensor G5では初めて、業界のリーダーである台湾のTSMCにその座を移したのだ。

この変更は単なるパートナー企業の鞍替え以上の意味を持つ。今回Tensor G5に採用されたとみられるTSMCの「N3E」と呼ばれる3nmプロセスは、その性能と効率の高さもさることながら、極めて高い歩留まり率(製造したチップのうち良品となる割合)で知られている。一部報道では90%を超えるとも言われ、これはSamsungの同世代プロセスの歩留まり率(一説には50%程度)を大きく上回る。

高い歩留まり率は、高品質なチップを安定して、かつコスト効率よく量産できることを意味する。これは、Googleがより野心的な設計のチップを、性能のばらつきを抑えてPixelデバイスに搭載できるようになったことを示唆している。今回の性能向上は、TSMCの先進的な製造技術という強力な追い風を受けた結果と言えるだろう。

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明らかになったTensor G5の内部構造:新GPUへの期待

リークされたデータは、Tensor G5の内部構造も明らかにしている。

  • CPU構成: 1+5+2の8コア構成
    • プライムコア: Arm Cortex-X4 @ 3.78 GHz (1コア)(最高性能を担当)
    • パフォーマンスコア: Arm Cortex-A725 @ 3.05 GHz (5コア)(高負荷処理を担当)
    • 効率コア: Arm Cortex-A520 @ 2.25 GHz (2コア)(低負荷処理で省電力に貢献)

この構成は、単一の超高性能コアで瞬発力を、多数の高性能コアで持続的な処理能力を、そして省電力コアでバッテリー持続時間を稼ぐという、現代のモバイルチップにおけるトレンドを踏襲したものだ。

注目すべきはGPUだ。これまでのMaliシリーズに代わり、Imagination Technologies社の「PowerVR DXT-48-1536」が新たに採用されている。Imagination社のPowerVRアーキテクチャは、かつて初期のiPhoneにも採用されていた歴史を持つ。Googleがこのタイミングで新たなGPUパートナーと組んだ意図はまだ不明瞭だが、グラフィックス性能やAI処理における独自の強みを追求している可能性が考えられ、今後のゲームやAR(拡張現実)体験にどのような影響を与えるか、今後のベンチマークテストの結果や実際の使用感で見てみたいところだ。

「周回遅れ」の現実 ― 競合との埋めがたい差

目覚ましい進歩を遂げたTensor G5だが、スマートフォン市場の頂点を見据えたとき、その立ち位置は依然として厳しいものがある。競合の最新フラッグシップチップと比較すると、その差は歴然だ。

  • Google Tensor G5: シングルコア 2,276 / マルチコア 6,173 (本記事執筆時点でのリークに基づく)
  • Qualcomm Snapdragon 8 Elite: シングルコア 約3,070 / マルチコア 約9,251
  • MediaTek Dimensity 9400: シングルコア 約2,597 / マルチコア 約8,109
  • Apple A18 Pro:シングルコア 約3,400 / マルチコア 約8,500
  • Apple A17 Pro:シングルコア 約2,900 / マルチコア 約7,200

ご覧の通り、Tensor G5のスコアは、QualcommやMediaTekの現行世代フラッグシップチップに大きく水を開けられている。その性能は、むしろ一世代前の「Snapdragon 8 Gen 3」(Galaxy Z Fold 6などに搭載)に匹敵するレベルであり、市場投入時点では「周回遅れ」と評されても致し方ない状況だ。

さらに、2025年末から2026年にかけては「Snapdragon 8 Elite Gen 2」や「Dimensity 9500」といった次世代チップが登場する。その時、性能差はさらに拡大することになるだろう。

主要スマートフォンチップセット Geekbench 6 スコア比較

モデル (想定)チップセットシングルコアマルチコア発売時期
OnePlus 13Snapdragon 8 Elite3,23610,0492025年
Galaxy S25 UltraSnapdragon 8 Elite (for Galaxy)3,0609,8332025年
Vivo X200s MediaTek Dimensity 9400+2,8779,2152025年
Oppo Find X8 ProMediaTek Dimensity 94002,6498,0632025年
iPhone 16 ProApple A18 Pro3,4518,5722024年
Galaxy S24 UltraSnapdragon 8 Gen 32,1196,6512024年
iPhone 15 ProApple A17 Pro2,8927,1802023年
Pixel 10 Pro Fold (リーク)Google Tensor G52,2766,1732025年
Pixel 9 Pro FoldGoogle Tensor G41,9334,5282024年

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ベンチマークスコアが全てではない ― Googleの「Tensor哲学」

では、なぜGoogleは純粋な処理性能の競争でトップを追わないのか。

この疑問を解く鍵は、GoogleがTensorチップに込めた設計思想、いわば「Tensor哲学」にある。Googleの製品管理チームの幹部は過去に、「Tensorはベンチマーク記録を破るために設計されたのではない。特定のユースケースやユーザーの課題を解決するために作られている」と語っている。

この思想はGoogleという企業文化そのものを反映しているようだ。Googleは、膨大なデータから意味を抽出し、複雑な問題をAIで解決することを得意としてきた。その思想はチップ設計にも貫かれており、TensorはCPUやGPUの生(なま)の性能以上に、AIと機械学習の処理能力を担う「TPU(Tensor Processing Unit)」にこそ、その真価がある。

リアルタイム翻訳、高度な音声認識、そして何よりPixelの代名詞であるコンピュテーショナル・フォトグラフィ(AIを用いた画像処理技術)。これらの体験は、ベンチマークスコアには直接現れないが、ユーザーが日々「Pixelらしさ」を感じる機能の根幹を支えている。Tensor G5もまた、この路線をさらに強化し、より高度でシームレスなAI体験の実現を目指していると考えるのが自然だろう。

Pixel 10シリーズへの期待と課題

今回明らかになったTensor G5のベンチマークスコアは、Googleのチップ開発における大きな前進を示すものだ。TSMCへの移行は成功し、前世代から確かな性能向上を果たした。これは、Pixel 10シリーズの基本的な動作がより快適になることを約束する、喜ばしいニュースである。

しかし、その性能が競合のトップに及ばないという事実もまた、厳然として存在する。純粋な処理性能、特に高負荷な3Dゲームなどを最高設定で楽しみたいユーザーにとっては、物足りなさを感じるかもしれない。

おそらくGoogleは、次期「Tensor G6」でTSMCのさらに先進的な2nmプロセスへ移行するという長期的なロードマップを描いている。一足飛びに頂点を目指すのではなく、一歩一歩、着実に自社の思想を反映したチップを進化させていく戦略なのだろう。

最終的にPixel 10シリーズの価値を決めるのは、ベンチマークの数字ではない。Tensor G5という新たな心臓部が、どれだけ革新的で、実用的な「体験」をユーザーに届けられるか。その一点にかかっている。


Sources