Appleが最新のMacBook ProおよびiPad Proに搭載した新SoC「M5」のGeekbench 6ベンチマーク結果が公開され、その詳細な性能が明らかになった。結果は、シングルコア性能でApple Silicon史上最高スコアを更新し、マルチコア性能においては、わずか10コアの構成で3年前に登場した20コアのワークステーションクラスSoC「M1 Ultra」に肉薄するという、半導体技術の進歩を感じさせるものだ。

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Geekbench 6が明らかにしたM5チップの初期性能

今回確認されたベンチマークは、主にM5を搭載した14インチMacBook Proのものであり、その性能を測る上で重要な指標となる。

  • Apple M5 (MacBook Pro):
    • シングルコア: 4,263
    • マルチコア: 17,862
  • Apple M5 (iPad Pro):
    • シングルコア: 4,138
    • マルチコア: 16,366

前世代のM4チップ(MacBook Pro搭載版)がシングルコア約3,770、マルチコア約14,700であることから、M5はシングルコア性能で約13%、マルチコア性能で約17%の向上を達成していることがわかる。 この着実な世代間の性能向上は、Appleの設計思想の一貫性を示すものである。

MacBook Pro版とiPad Pro版の性能差

注目すべきは、同じM5チップでありながら、搭載デバイスによって性能に差異が生じている点だ。MacBook Pro版は最大4.61GHzで動作する一方、iPad Pro版は4.43GHzに抑えられている。 これがマルチコア性能において約9%のスコア差となって表れている。 この差は、MacBook Proが持つアクティブ冷却ファンと厚みのある筐体による、より高い熱設計電力(TDP)許容量に起因するものと分析できる。薄型でファンレス設計のiPad Proでは、持続的な高負荷時の熱を処理するために、最大クロックが意図的に制限されているようだ。これは、SoCのポテンシャルを最大限に引き出す上で、筐体の熱設計がいかに重要であるかを明確に示している。

M5のアーキテクチャと性能効率の分析

M5のベンチマーク結果で最も注目すべきは、旧世代のハイエンドチップとの比較である。特に、2つのM1 MaxダイをUltraFusion技術で接続したM1 Ultraとの比較は、M5のアーキテクチャの進化を理解する上で欠かせない。

チップセットCPUコア数 (P+E)シングルコアスコアマルチコアスコアL2キャッシュ
Apple M510 (6P + 4E)4,26317,8626MB
Apple M1 Ultra20 (16P + 4E)2,38718,7924MB

この比較から、いくつかの重要な技術的ポイントが浮かび上がる。

マルチコア性能のパラドックス:なぜ10コアでM1 Ultra(20コア)に比肩するのか

M5のマルチコアスコアは17,862であり、M1 Ultraの18,792に対してわずか4.9%低いだけである。 M5が10コア(6P+4E)、M1 Ultraが20コア(16P+4E)であることを踏まえると、これは驚異的な効率の向上を意味する。M1 Ultraのパフォーマンスコア(Pコア)は16基であるのに対し、M5は6基しかない。つまり、M5はM1 Ultraの半分以下のPコア数で、ほぼ同等のマルチコア性能を達成していることになる。

この性能効率の飛躍は、単一の要因ではなく、複数のアーキテクチャ改良が複合的に作用した結果であると推察される。

  1. IPC(クロックあたりの命令実行数)の大幅な向上: M5のパフォーマンスコアは、M1世代のコアから根本的に設計が見直され、命令のデコード/実行ユニットの拡充、分岐予測精度の向上、アウト・オブ・オーダー実行能力の強化などが図られた可能性が高い。これにより、同じクロック周波数でも処理できる命令数が大幅に増加したと考えられる。
  2. L2キャッシュの増量: M5ではL2キャッシュがM1 Ultraの4MBから6MBへと50%増量されている。 L2キャッシュはCPUコアが頻繁にアクセスするデータを高速に保持するための重要なメモリ階層であり、その容量増加はキャッシュヒット率を向上させ、低速なメインメモリへのアクセス頻度を低減させる。これにより、メモリアクセスのレイテンシが削減され、実効性能の向上に直接的に寄与する。
  3. メモリサブシステムの最適化: IPCが向上し、コア数が増えると、メモリ帯域幅がボトルネックになりやすい。M5がこれだけの性能を発揮できている背景には、システムレベルキャッシュ(SLC)の効率化や、DRAMコントローラの改良など、メモリサブシステム全体にわたる最適化が行われていることが示唆される。

シングルコア性能の飛躍:アーキテクチャとクロック周波数の両輪

M5のシングルコアスコア4,263は、M1 Ultraの2,387を178.6%も上回る。 これはAppleシリコンとして、また市場に出回るあらゆるチップの中で最高クラスのスコアだ。この飛躍的な向上は、前述のIPC向上に加え、4.61GHzという高い最大ブーストクロックの実現によってもたらされている。最新の3nmプロセス技術の採用が、より高い動作周波数を優れた電力効率で達成することを可能にしたと考えられる。

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競合CPUとの性能比較とAppleシリコンの現在地

M5の性能は、PC市場の競合製品と比較しても極めて競争力が高い。

Armアーキテクチャ対決:対Qualcomm Snapdragon X2 Elite

Qualcommが投入したSnapdragon X2 Elite(最上位モデル)は、リファレンス機でシングルコア約4,080を記録している。 M5はこれを上回るスコアを、より低い4.61GHzのクロック(Snapdragonは5.0GHz)で達成している。 これは、クロック周波数あたりの性能効率(IPC)において、Appleのコアアーキテクチャが依然として優位性を持つことを示唆している。ただし、Snapdragon X2 Eliteは最大18コア構成であり、マルチコア性能ではM5を上回る。

x86巨人との比較:対Intel Core Ultra 9 / AMD Ryzen 9

IntelのCore Ultra 9 285KやCore i9-14900KS、AMDのRyzen 9 9950X3Dといったデスクトップ向けハイエンドCPUと比較した場合、M5の立ち位置は明確である。

  • シングルコア性能: M5はこれらのx86系フラッグシップCPUに匹敵、あるいは一部を凌駕する性能を持つ。これは、Webブラウジングやアプリケーションの起動といった日常的なタスクの応答性において、極めて優れた体験を提供することを示す。
  • マルチコア性能: コア数が16〜24コアに達するこれらのCPUに対し、10コアのM5は当然ながらマルチコア性能で及ばない。 しかし、これはあくまでベースモデルのM5での比較である。今後登場が予想されるM5 Pro、M5 Max、そしてM5 Ultraが、より多くのパフォーマンスコアを搭載してくれば、この差が縮まる、あるいは逆転する可能性は十分にある。M5の単一Pコアの性能が非常に高いことから、コア数をスケールさせた際の性能向上には大きな期待が持てる。

M5が示すAppleシリコンのロードマップと今後の展望

今回のM5チップの登場は、AppleのSoC開発戦略における重要なマイルストーンである。M1 Ultraという、かつてのハイエンドSoCの性能を、わずか3年で、より少ないコア数を持つベースチップが達成したという事実は、Appleのアーキテクチャ開発能力の高さと、そのロードマップの着実な実行力を証明している。

このM5の高性能なPコアをベースとして、今後、コア数を増やし、メモリ帯域を拡張したM5 ProやM5 Maxが登場することは確実視される。M5のPコアが持つポテンシャルを考慮すれば、M5 Maxや、その先にあるであろうM5 Ultraは、現在のPC向けワークステーションCPUの性能を大きく塗り替える可能性がある。

M5は、単なる性能向上に留まらず、電力効率とパフォーマンスの両立というApple Siliconの基本理念をさらに高いレベルで実現したSoCである。この技術的優位性は、プロフェッショナルなクリエイティブワークフローからAI開発、そして日常的な利用シーンに至るまで、あらゆるコンピューティング体験を再定義する可能性を秘めている。今後のM5ファミリーの展開は、PC市場全体の性能指標を牽引する存在として、注目したいところだ。


Sources