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時間は1次元ではなかった?アインシュタインの時空概念を覆す「3次元時間」理論が物理学の最終統一に繋がるかもしれない

Y Kobayashi

2025年6月24日11:36AM

私たちの知る宇宙の常識が、根底から覆されるかもしれない。もし時間が未来へ向かう一本の川の流れではなく、縦・横・高さを持つ「空間」のようなものだとしたら?アラスカ大学フェアバンクス校(UAF)のGunther Kletetschka准教授が提唱する「3次元時間理論」は、まさにそのような革命的な世界観を提示し、Albert Einstein以来の物理学の根幹である「時空」の概念に真っ向から挑戦状を叩きつけている。

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物理学に残された「最後の宿題」- なぜ世界は不完全なのか

20世紀、物理学は二つの偉大な理論の柱を打ち立てた。一つは、星や銀河といった巨大な世界の振る舞いを記述するEinsteinの「一般相対性理論」。もう一つは、原子や素粒子といったミクロな世界の奇妙な法則を解き明かす「量子力学」だ。

この二つの理論は、それぞれの領域で驚異的な成功を収めてきた。しかし、両者の間には深い断絶が存在する。巨大な質量が一点に凝縮されるブラックホールの中心や、宇宙が誕生したビッグバンの瞬間のように、極小のスケールで巨大な重力が働く場面では、二つの理論は互いに矛盾し、破綻してしまうのだ。

この断絶を乗り越え、巨大な世界とミクロな世界を一つの言葉で語る「万物の理論(Theory of Everything)」を完成させること。それが、現代物理学に残された最も大きく、そして最も困難な宿題とされてきた。これまで、弦理論やループ量子重力理論など、数多の天才たちがこの難問に挑んできたが、決定的な答えはいまだ見つかっていない。

この膠着状態に、全く新しい角度から光を当てようとしているのが、Kletetschka准教授の3次元時間理論なのである。

アラスカから届いた挑戦状 – 「時間はキャンバス、空間は絵の具である」

2025年4月、物理学誌『Reports in Advances of Physical Science』に掲載されたKletetschka准教授の論文は、常識を大胆に反転させるアイデアを提示した。

従来の物理学では、宇宙は3次元の空間(縦・横・高さ)と、1次元の時間(過去から未来へ)が織りなす「4次元時空」という舞台の上で成り立っていると考える。しかしKletetschka准教授は、これを根本から覆す。

「これらの3つの時間次元が、すべてを描き出すためのキャンバスなのです」と彼は語る。「空間もまた3つの次元を持ちますが、それはキャンバスそのものではなく、その上に塗られた絵の具のようなものなのです」

つまり、この理論では宇宙の最も根源的な構造は「時間」であり、「空間」はそこから副次的に現れたものだと位置づけるのだ。合計で3つの時間次元と3つの空間次元、合わせて6次元の時空を考えることになる。

では、「3次元の時間」とは一体どのようなものなのだろうか。

  • 第1の時間次元 (t₁): これは私たちが日常的に経験している、未来へ向かう一方通行の時間。論文によれば、この次元は「量子スケール」に対応し、素粒子の質量生成などを司る。
  • 第2の時間次元 (t₂): 道路を歩いている自分を想像してほしい。t₁が前に進む動きだとすれば、t₂は同じ「今」という瞬間に留まったまま、横にスライドするような動きに例えられる。そこは、もしかしたらほんの少しだけ違う選択をした「もしも」の世界かもしれない。この次元は「相互作用スケール」に対応し、量子的な効果や素粒子の世代間の相互作用を媒介するという。
  • 第3の時間次元 (t₃): 第3の次元は、これらの異なる可能性の層(t₂)の間を上下に行き来するような動きと考えることができる。この次元は「宇宙論的スケール」に対応し、宇宙全体の進化や重力現象と深く関わっているとされる。

この理論の驚くべき点は、3つの時間次元がそれぞれ「量子」「相互作用」「宇宙」という物理学の根幹をなすスケールに自然に対応していることだ。これは、理論が単なる思いつきではなく、宇宙の構造そのものを反映している可能性を示唆している。

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単なる数学ではない – 驚異的な「予言」と検証のシナリオ

これまでの多次元時間理論の多くは、純粋に数学的な構築物であり、実験による検証が困難という壁に突き当たってきた。しかし、Kletetschka理論が世界中の物理学者から注目を集める最大の理由は、その「検証可能性」にある。彼の理論は、具体的な数値で現実世界を「予言」し、その正否を実験で問うことができるのだ。

その予言の精度は、まさに驚異的としか言いようがない。論文によれば、彼の理論から導出される素粒子の質量は、実験で測定された値と恐ろしいほど一致するのだ。

  • トップクォークの質量:
    • 理論予測: 173.2 ± 0.9 GeV
    • 実験測定値: 173.21 ± 0.51 GeV
  • ミューオンの質量:
    • 理論予測: 105.6583755 ± 0.0000023 MeV
    • 実験測定値: 105.6583745 ± 0.0000024 MeV
  • 電子の質量:
    • 理論予測と実験測定値は、小数点以下8桁までほぼ完璧に一致。

この一致は、単なる偶然と片付けるにはあまりにも正確すぎる。さらに理論は、これまで未解明だったニュートリノの質量まで予測している。そして、その真価を問うための具体的な検証シナリオが、すでに動き出しているのだ。

加速器が狙う「新粒子」の影

理論は、私たちの知らない新たな素粒子(共鳴状態)の存在を予測している。その質量は M1 = 2.3 ± 0.4 TeVM2 = 4.1 ± 0.6 TeV。これは、現在稼働中の世界最大の加速器LHC(大型ハドロン衝突型加速器)の性能向上版であるHL-LHCや、将来計画されているFCC-hhで到達可能なエネルギー領域だ。もしこのエネルギーで未知の粒子が発見されれば、理論の正しさを裏付ける強力な証拠となる。

宇宙からの「ささやき」を聴く

Kletetschka理論は、重力波の伝わり方にも微細な影響を与えると予測する。具体的には、その速度が光速からわずかにズレる(Δv/c = (1.5 ± 0.3) × 10⁻¹⁵)というのだ。この極めて微小な変化は、次世代の重力波観測所であるLIGO+や宇宙重力波望遠鏡LISAの感度ならば捉えられる可能性がある。

宇宙の果てを観測する「巨大な目」

理論は、宇宙の膨張を加速させている謎のエネルギー「ダークエネルギー」の性質や、銀河が連なる「宇宙大規模構造」の分布にも、特有の痕跡を残すと予測する。これらの予測は、宇宙望遠鏡ユークリッドやヴェラCルービン天文台といった次世代の観測計画によって、2025年から2030年にかけて検証される見込みだ。

物理学の長年の謎は、こうして解けるかもしれない

もしKletetschka理論が数々の実験的検証を乗り越えたなら、それは物理学の景色を一変させるだろう。長年、物理学者たちを悩ませてきた数々の謎が、この新しい「キャンバス」の上でエレガントに解き明かされる可能性があるのだ。

  • なぜ素粒子は「三世代家族」なのか?
    私たちの世界を構成する素粒子には、なぜか性質が似ているが質量の違うグループがちょうど3世代存在する。標準模型ではこの理由を説明できないが、Kletetschka理論では3つの時間次元が、自然に3世代の素粒子構造を生み出すという。
  • なぜ自然は「左利き」を好むのか?(パリティ対称性の破れ)
    弱い相互作用が関わる素粒子の崩壊では、なぜか「左巻き」のスピンを持つ粒子が優先される。この宇宙の奇妙な「利き手」も、3次元時間の幾何学的な構造から自然に導かれると理論は説明する。
  • 因果律は守られるのか?
    「原因が結果より先に来る」という因果律は、物理学の大原則だ。従来の多次元時間理論では、この原則が破れてしまうという深刻な問題を抱えていた。しかしKletetschka理論は、より高度な数学的構造を用いることで、3つの時間次元が存在しても因果律が破れないことを保証している
  • Einsteinの重力理論との関係
    この理論はEinsteinの理論を否定するものではない。むしろ、3つの時間次元のうち2つの影響が無視できるほど小さくなった特殊な状況では、Kletetschka理論は一般相対性理論と一致することが示されている。これは、既存の成功した理論をきちんと内包していることを意味し、理論の正当性を高めている。
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知の革命前夜 – 3次元時間は私たちの世界観をどう変えるか

Gunther Kletetschka准教授の理論は、まだその壮大な旅を始めたばかりだ。これから待ち受ける厳しい実験的検証の嵐を乗り越えられる保証はどこにもない。

しかし、この理論が提示する世界像は、あまりにも魅力的で示唆に富んでいる。それは単に物理学の方程式を統一するだけでなく、私たちが拠って立つ「現実」そのものへの見方を根本から変えてしまう可能性を秘めているからだ。

もし、時間が単一の流れではなく、無数の可能性が織りなす広大な「時間の空間」だとしたら。もし、私たちが認識する「今この瞬間」が、その壮大な空間に浮かぶ無数の座標の一つに過ぎないとしたら。

もしこの3次元時間理論が実証されれば、それは21世紀の科学技術の方向性を決定づける、まさしく科学革命となる可能性がある。時間そのものの性質の理解が深まることで、量子コンピューティング、重力波利用技術、そして宇宙探査といった分野において、現在の想像をはるかに超える進展がもたらされるかもしれない。

物理学の歴史という壮大な舞台に、アラスカの静寂の中から、新たな役者が躍り出た。彼が提唱する「3次元時間」という脚本が、宇宙の真の物語を解き明かすのか、それとも壮大な思索の歴史の一幕として終わるのか。その答えは、間もなく始まるであろう実験と観測の中に隠されている。私たちは、物理学100年の沈黙が破られるかもしれない、歴史的な瞬間に立ち会っているのかもしれない。


論文

参考文献

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