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Thunderbird、Gmail対抗へ新戦略:有料版「Pro」と「Thundermail」計画

Y Kobayashi

2025年4月2日

Mozillaのオープンソース電子メールクライアントThunderbirdが、GoogleのGmailやMicrosoft Office 365といった巨大プラットフォームに対抗するため、包括的なコミュニケーションサービス群への進化を目指している。開発チームは「Thunderbird Pro」と称される新サービス群や、新たなメールホスティングサービス「Thundermail」の展開を計画しており、一部は有料となる見込みだ。

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ユーザー離れへの危機感と新戦略「Thunderbird Pro」

長年、無料でオープンソースの電子メールクライアントとして支持されてきたThunderbirdだが、近年は多機能な統合サービスを提供するGmailやOffice 365といった商用プラットフォームへのユーザー流出に直面している。Thunderbirdのプロダクト担当マネージングディレクターであるRyan Sipes氏は、開発コミュニティ向けの計画ノートで「Thunderbirdは、クライアントとサービスの両方を提供するGmailやOffice 365のようなリッチなエコシステムに、日々ユーザーを奪われている」と危機感を表明した。

MozillaはThunderbirdの正確なユーザー数を公表していないが、データによると、月間アクティブインストール数は2020年12月27日の17,706,777件から、2025年3月30日には16,174,806件へと減少傾向にあるとされる。

この状況を打開するため、Thunderbirdチームは単なるメールクライアントに留まらない、新たなサービス群の開発を進めている。これらのサービスは「Thunderbird Pro」という名称でまとめられる見込みだ。Sipes氏は「これらのエコシステムは、(サードパーティクライアントとの相互運用性の問題による)ハードなベンダーロックインと、(利便性とクライアント・サービス間の統合による)ソフトなロックインの両方を持っている。我々の目標は、最終的に同様のサービスを提供し、それを望む人々のために100%オープンソースで自由を尊重する代替エコシステムを利用可能にすることだ」と述べ、オープンソースの理念を維持しつつ、利便性の高い統合環境を提供することを目指す考えを示した。

具体化する新サービス群:Appointment, Send, Assist, Thundermail

現在、様々な開発段階にある具体的なサービスは以下の通りだ:

  • Thunderbird Appointment: ユーザーが自身のカレンダーへの招待リンクを共有し、他者が時間を予約できるスケジューリングツール。既存のツールに対する不満から開発が進められているという。
  • Thunderbird Send: 2019年に提供が終了した「Firefox Send」を再構築したもの。より直接的で柔軟なファイル共有をサポートする。悪用を防ぐため、無料サービスには制限が設けられる見込み。なお、AppointmentとSendについては、ユーザー自身がサーバーを立てて運用する(セルフホスト)オプションも提供される予定だ。
  • Thunderbird Assist: 実験的なAIサービス。詳細はまだ不明瞭だが、ハードウェアが対応していればローカル環境での推論処理、あるいはプライバシーに配慮したクラウド推論(提携先のFlower Labs経由)を利用できるオプション機能となる模様。
  • Thundermail: Thunderbirdクライアント本体とは独立した、新しいメールホスティングサービス。オープンソースのソフトウェアスタック「Stalwart」を基盤としており、IMAP(Internet Message Access Protocol)の後継とされるJMAP(JSON Meta Application Protocol)をサポートする点が特徴だ。これにより、よりモダンで効率的なメール体験の提供が期待される。
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オープンソース理念と収益化の両立へ

これらの新サービス、特にThundermailのようなホスティングサービスは、運用にコストがかかる。そのため、Mozillaは新たな収益モデルを模索している。Sipes氏によると、「当初は、継続的なコミュニティ貢献者に対してこれらのサービスを無料で提供する予定」だが、「他のユーザーはアクセスするために料金を支払う必要がある」という。

ただし、将来的には「サービスが持続可能であると判断できるだけの十分なユーザーベースが確立され次第、ストレージ容量の制限などを設けた無料ティアを開設する」計画もあるとのことだ。これは、オープンソースコミュニティへの貢献を促しつつ、サービスの持続可能性を確保するためのバランス戦略と言えるだろう。

また、この収益化の動きは、Mozilla全体の財政状況とも無関係ではないかもしれない。現在、Mozillaは検索エンジンのデフォルト設定契約によりGoogleから多額の収益を得ているが、米政府によるGoogleへの独占禁止法訴訟の結果次第では、この収益源が不安定になる可能性も指摘されている。Thunderbird Proによる新たな収益源の確保は、Mozilla Foundation全体の財政基盤強化にも繋がりうる。

Sipes氏は、「オープンソース、オープンスタンダード、プライバシー、そしてユーザーへの敬意という我々の焦点は、複数の形で表現されるべきだ。我々からのウェブサービスの欠如は、ユーザーがしばしば不快な妥協を強いられることを意味する。これを是正するのが今回の取り組みだ」と述べ、新サービス群がThunderbirdの核となる価値観を損なうことなく、ユーザー体験を向上させるものであることを強調した。

Thunderbird ProとThundermailの計画は、単なる機能追加に留まらず、オープンソースソフトウェアが巨大テック企業のエコシステムに対抗しうる、持続可能でユーザー中心の代替案を提供できるかどうかの試金石となるだろう。今後の展開が注目される。


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