TSMCは2026年10月15日、7〜9月期の決算を発表した。売上高は467.2億ドルで会社予想の上限458億ドルを2.0%上回り、親会社株主に帰属する純利益は7,630.6億台湾ドルで、前年同期比68.7%増だった。ただし粗利益率の66.4%は、2026年で初めて会社予想の範囲内(65〜67%)にとどまっている。通期の設備投資予算600億〜640億ドルを守るには、10〜12月期に193.6億〜233.6億ドルが要る計算だ。
売上高は3四半期続けて会社予想の上限以上、10〜12月期は前年同期比58%増を見込む
7〜9月期の売上高は1兆4,942.4億台湾ドルで、前年同期比50.9%増、前期比17.6%増だった。米ドル建てでは467.2億ドル(前年同期比41.2%増、前期比16.2%増)になる。通貨によって伸び率が違うため、以下の会社予想との比較は米ドルで統一する。平均為替は1ドル=31.98台湾ドルで、会社の前提(32.0台湾ドル)とほぼ同じだった。
2026年の3四半期を並べると、1〜3月期は359.0億ドル(会社予想の上限は358億ドル)、4〜6月期は402.0億ドル(同402億ドル)、7〜9月期は467.2億ドル(同458億ドル)である。4〜6月期は上限と同額で、上回ったのは1〜3月期と7〜9月期だ。3四半期とも上限以上で、上振れ幅は7〜9月期の9.2億ドルが最も大きい。
10〜12月期の見通しは、売上高523億〜543億ドル、為替前提は1ドル=31.8台湾ドルだ。上級副社長兼CFOのWendell Huang氏は、中央値で前期比14%増、前年同期比58%増にあたると説明した。会社は2026年通期の売上高も、米ドル建てで約44%増と見込む。
2025年の売上高は、四半期実績の255.3億、300.7億、331.0億、337.3億ドルを合計して1,224.3億ドルになる。2026年の1〜9月は359.0億、402.0億、467.2億ドルで、合計は1,228.2億ドルだ。
1〜9月の実績に10〜12月期見通しの中央値533億ドルを足すと、2026年の売上高は約1,761億ドルで、2025年比43.9%増になる。会社が示した「約44%増」と一致する。見通しの下限と上限で計算すると43.0%〜44.7%増で、約44%はこの範囲に収まる。ただし四半期の米ドル実績は各期の平均為替で換算されているため、会社の年次開示とは端数が異なる可能性がある。10〜12月期も見通しであり、確定値ではない。
需要の中身は、高性能コンピューティング(HPC)に寄っている。HPCの売上比率は68%で、前期の66%、前年同期の57%から上がった。スマートフォンは21%で、前年同期の30%から下がっている。前期比の伸びはHPCが22%、スマートフォンが10%だった。プロセス別では2nmが8%(前期3%)、3nmが33%を占める。
ウエハー出荷は12インチ換算で447.6万枚、前年同期比9.6%増だった。売上高の50.9%増(台湾ドル建て)との差は大きい。1枚あたりの単価は開示されておらず、この差を値上げの結果と決めることはできない。言えるのは、売上の伸びが出荷枚数の伸びを大きく上回り、同時に2nmや3nmの構成比が上がっていることまでだ。
AI向けの需要について、C.C. Wei会長兼CEOは説明会で次のように述べた。AIアクセラレーター(AIの学習や推論に使う専用半導体で、TSMCの定義ではCPUを含まない)の売上は、2024〜2029年の年平均成長率を「50%台半ば〜後半」と見込んできた。この数字を引き上げるのかと問われたWei氏は、需要は「極めて強く、減速の兆候は見ていない」と述べ、成長率は「おそらくもっと高くなる」と答えた(原文:"It probably will be higher.")。需要は供給能力を大きく上回っているともした。これは質問への回答であり、会社が見通しを公式に上方修正したわけではない。
一方で、すべての市場が同じ向きに動いているわけではない。Wei氏は「部品価格の上昇とマクロ経済の不確実性で、消費者向けと価格に敏感な市場は逆風を受けている」と述べ、2027年の事業計画は慎重に立てるとした。前期比の伸びはスマートフォンの10%がHPCの22%の半分以下で、売上比率の動きとも矛盾しない。
粗利益率だけが予想の範囲内に入った、2026年3四半期の対比
7〜9月期の粗利益率は66.4%で、前期から1.3ポイント下がり、前年同期からは6.9ポイント上がった。会社予想の範囲内に収まったのは、2026年では今回が初めてだ。各四半期のIRページにある実績と会社予想を並べたのが次の表である。
| 指標(実績/会社予想) | 1〜3月期 | 4〜6月期 | 7〜9月期 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 359.0億ドル/346億〜358億ドル | 402.0億ドル/390億〜402億ドル | 467.2億ドル/446億〜458億ドル |
| 粗利益率 | 66.2%/63〜65% | 67.7%/65.5〜67.5% | 66.4%/65〜67% |
| 営業利益率 | 58.1%/54〜56% | 60.3%/56.5〜58.5% | 58.7%/56〜58% |
2026年の3四半期で売上高(米ドル)はすべて会社予想の上限以上だったが、粗利益率は1〜3月期と4〜6月期に上限を上回ったのに対し、7〜9月期は65〜67%の予想範囲内の66.4%にとどまった。粗利益率の上限との差を計算すると、1〜3月期が+1.2ポイント、4〜6月期が+0.2ポイント、7〜9月期が-0.6ポイントと縮んでいる。売上高の上限との差は、+1.0億ドル、0、+9.2億ドルである。売上高の上限超過が最も大きい7〜9月期に、粗利益率は上限との差が最も小さく、2026年で初めてマイナスになった。
営業利益率は3四半期とも上限を上回った。ただし上限との差は、1〜3月期の+2.1ポイント、4〜6月期の+1.8ポイント、7〜9月期の+0.7ポイントと小さくなっている。
会社予想は四半期ごとに為替や製品構成の前提が違うため、上振れ幅の大小をそのまま需要の強弱とは見なせない。為替の前提は1〜3月期31.6、4〜6月期31.7、7〜9月期32.0台湾ドルで、実績との差は3四半期とも0.1台湾ドル以内に収まっており、為替だけでは上振れ幅の差を説明できない。
粗利益率は、基準を上限に置くかどうかでも見え方が変わる。4〜6月期の決算時に示された7〜9月期の予想(65〜67%)は、前期の実績67.7%より低かった。実績66.4%は予想の中央値66%を0.4ポイント上回っている。会社は粗利益率の前期比1.3ポイント低下の主因をN2の初期の量産立ち上げと説明しているが、予想の範囲内にとどまった理由は個別に説明していない。
7〜9月期の純利益は前期比8.0%増で、売上高の17.6%増を下回った。営業利益は前期比14.3%増の8,764.5億台湾ドルで、営業利益率は1.6ポイント下がっている。粗利益率の1.3ポイント低下が効いたほか、前期にあった地震の保険金収入がなくなり、その他の営業損益も減った。
営業外損益は、4〜6月期の958.3億台湾ドルから7〜9月期は345.9億台湾ドルへ減った。前期はVanguard International Semiconductor(VIS)株の売却益と評価益を含んでおり、その分が今回はなくなっている。この結果、税引前利益は前期比5.6%増にとどまった。実効税率が前期の18.1%から16.2%に下がったため、純利益は8.0%増まで戻っている。純利益率は51.1%、希薄化後1株当たり利益(EPS)は29.43台湾ドル(米国預託証券(ADR)1単位あたり4.60ドル)である。
N2と海外工場による粗利益率の押し下げは、この先どこまで続くのか
10〜12月期の粗利益率は、65〜67%を見込む。中央値の66%は、7〜9月期の66.4%より0.4ポイント低い。営業利益率の見通しは56.5〜58.5%だ。
CFOは押し下げ要因として、N2の急速な量産の立ち上げと、海外工場の二つを挙げた。生産性の向上や、工程をまたいだ生産能力の最適化が、その一部を相殺するとも説明している。いずれも新しい工程や工場の原価が先に立ち、全社の粗利益率を下げる要因だ。
N2は2025年10〜12月期に量産に入った。2nmのウエハー売上比率は7〜9月期に8%(前期3%)へ上がり、会社はN2系の年間生産能力が2027年に2倍超になると見込む。立ち上げ期にある世代の構成比も生産能力も増えるなら、この押し下げ要因は当面残る。N2単独の押し下げ幅は、説明会で数字として示されなかった。
次の世代のA14も、2027年にリスク生産、2028年に量産という工程表がある。リスク生産は、量産の前に少量の製品を流して歩留まりと工程を確かめる段階を指す。
CFOは、海外工場のコストは依然として高いものの、会社全体の規模拡大とコスト改善で、粗利益率の押し下げは現在2%に近い見込みだと説明した。米国で稼働する工場が増えるため、今後数年で3〜4ポイントに広がるとも述べた。アナリストから時期を問われると、5年間の後半に3〜4ポイントになる想定は変わらないと答えた。
アリゾナの第2工場は、建屋の完成を終えて装置の搬入が進んでいる。量産は2027年7〜9月期に始まる予定で、従来の計画よりやや前倒しになった。日本の第2工場も3nmを使い、2028年の量産を予定する。
日本は顧客の所在地別の売上比率で3%(前期4%)にとどまるが、日本の第2工場は海外工場の一つにあたる。2026年8月11日には、ソニーセミコンダクタソリューションズと次世代イメージセンサーの合弁を設立することで合意したと開示されている。
工場計画の全体は、世界で約20に及ぶ。台湾で先端プロセスと先端パッケージングの13工場、海外で5〜6工場が進行中だ。収益性の見通しを問われたWei氏は、「TSMCの収益性に天井はないが、劇的な上昇が一夜で起きることもない」と答えた(原文:"there is no ceiling for TSMC's profitability, but a dramatic increase will not happen overnight either.")。
193.6億〜233.6億ドル、10〜12月期の設備投資に必要な額を逆算する
2026年の設備投資は、1〜3月期が111.0億ドル、4〜6月期が157.0億ドル、7〜9月期が138.4億ドルで、1〜9月の累計は406.4億ドルになった。通期の予算は今回の説明会でも据え置かれた。通期の設備投資予算600億〜640億ドルを達成するには、1〜9月の累計406.4億ドルを差し引いて、10〜12月期だけで193.6億〜233.6億ドルを投じる計算になる。
下限は600億−406.4億=193.6億ドル、上限は640億−406.4億=233.6億ドルで、7〜9月期の実績138.4億ドルと比べると1.40〜1.69倍にあたる。年間の予算がレンジで示されているため、残りの必要額もレンジになる。会社が10〜12月期の設備投資額を示したわけではなく、実績が予算の下限に届かない場合や支払いの時期がずれる場合には、実際の投資額はこの範囲から外れうる。
2027年以降の投資額は、数字が出ていない。Huang氏は、2026〜2028年の設備投資が過去3年を大幅に上回ると述べた一方、2027年以降の金額を示すのは「まだ少し早い」と答えた(原文:"a bit too early")。
7〜9月期のフリーキャッシュフローは4,765.6億台湾ドル(前年同期は1,393.8億台湾ドル)、現金及び有価証券は4兆169.8億台湾ドルだった。いずれも台湾ドル建ての開示のため、ドル建ての必要額とは直接比べない。
10〜12月期の粗利益率と投資額、残る確認点は三つ
売上高は予想の上限を超え、10〜12月期の見通しも前年同期比58%増で、7〜9月期の数字に需要の減速は表れていない。変わったのは利益の側で、粗利益率は前期から1.3ポイント下がった。投資は今回の開示で増えておらず、予算を据え置いたまま残りを逆算すると、10〜12月期に7〜9月期の1.4倍以上を投じる計算になる。
確認点の一つ目は、10〜12月期の粗利益率が会社予想の65〜67%のどこに着地するかだ。下限の65%を割れば、N2と海外工場による押し下げが会社の見通しより強く出たことになる。二つ目は、10〜12月期の設備投資が193.6億〜233.6億ドルのどこに入るかである。下限を下回れば予算の消化は計画より遅れており、上限を超えれば640億ドルの予算を上回る。三つ目は、CFOが「まだ少し早い」とした2027年以降の投資額で、過去3年を大幅に上回るという言葉がどの水準を指すのかはこの額で決まる。
Wei氏は、需要と供給の差を縮めるために全力を尽くすと述べた。会社の計画では、N2系の年間生産能力が2027年に2倍超になり、アリゾナの第2工場も2027年7〜9月期に量産に入る。海外工場による押し下げは今後数年で3〜4ポイントに広がるとCFOは見ており、生産性の向上と工程間の能力最適化で一部を相殺するとしている。その効き具合は、10〜12月期の粗利益率が見通しの中央値66%を上回るか下回るかで最初に確かめられる。



