Metaは2026年10月26日、優先株の預託証券と、フォワード売却契約を伴うClass A普通株を合わせて約350億ドルの公募を実施すると発表した。さらに、2027年には約600億ドルのATM(市場価格に応じて株式を随時売却する方式)を開始する計画も明らかにした。合計950億ドルに上る資金調達計画の特徴は、その規模だけでなく、議決権付き株式と無議決権株式の使い分けにある。 現時点で議決権付きのClass A株による売却が明記されているのは225億ドルで、全体の約24%にとどまる。一方、約63%に相当する600億ドルは、新設される無議決権のClass C株を使って調達する計画だ。
350億ドルの公募と、2027年に開始予定の600億ドルATM
Metaの発表によると、同社は2件の引受公募を同時に開始した。1件目は2億5,000万口の預託証券で、1口が新設のSeries A強制転換優先株の20分の1株に相当する。優先株の清算優先額は1株当たり1,000ドルのため、預託証券1口当たりでは50ドルとなり、総額は125億ドルに上る。2件目はClass A普通株225億ドルの公募で、Metaとフォワード売却契約を結ぶMorgan Stanley Capital ServicesおよびGoldman Sachsが株式を売り出す。
Class A株の公募では、Metaが売却時点で代金を受け取るわけではない。2027年11月19日までにMetaが指定する日に株式を引き渡し、フォワード契約を決済することで資金を受け取る仕組みだ。一方、優先株は2029年8月15日ごろに普通株へ自動転換される予定で、交付される株数は固定されていない。配当率や転換条件は公募価格の決定時に確定するため、発表時点では未定となっている。転換先は原則としてClass A株だが、Class C株が発行され、所定の条件を満たした場合にはClass C株に切り替わる。
今回の350億ドルの公募は、Metaが計画する株式調達の一部にすぎない。同社はさらに、Class C株の取引開始後に約600億ドルのATMプログラムを立ち上げる方針で、開始は早くても2027年第1四半期となる見込みだ。ただし、ATMに関する契約はまだ締結されておらず、実施時期や調達規模、具体的な条件も確定していない。また、NVIDIA、AMD、Broadcomの3社はClass A株の公募で合計最大50億ドルを購入する意向を示しているが、法的拘束力のある約束ではなく、実際の購入額は変わる可能性がある。
調達資金は一般事業目的に充てられる予定だ。その背景には、AIインフラの整備に伴う巨額の設備投資がある。Metaは2026年の設備投資額を1,350億〜1,450億ドルと見込んでおり、同年1〜9月の営業キャッシュフローは970億ドル、9月末時点の現金および現金同等物などは約820億ドルだった。同社は今後の資金需要について、営業キャッシュフローに加え、投資適格債の発行、戦略的提携、株式による調達を組み合わせて対応する方針を示している。
950億ドルの調達計画、議決権付きと明記されたのは225億ドル
今回の調達計画を理解するうえで重要なのが、新設されるClass C株の仕組みだ。Metaの取締役会は10月19日、既存のClass A株とClass B株の株主に対し、保有する各1株につきClass C株を1株ずつ配当すると決議した。関連する定款の効力発生日は2027年1月19日となっている。議決権はClass A株が1株当たり1票、Class B株が10票であるのに対し、Class C株には原則として議決権がない。
この株式構成を踏まえると、今回発表された調達計画の特徴が明確になる。公募とATMを合わせた950億ドルのうち、Class A株による公募は225億ドルで全体の約24%を占める。一方、600億ドルのATMは無議決権のClass C株を対象としており、計画全体の約63%に相当する。残る125億ドル(約13%)は優先株の預託証券で、転換先がClass A株になるかClass C株になるかは、今後の条件次第だ。
この950億ドルという金額は、Class A株の公募225億ドル、預託証券125億ドル、ATM600億ドルを合計したもので、引受人に付与される追加購入オプションは含まない。また、600億ドルのATMは現時点で実施が確定していない計画であり、950億ドル全額の調達が保証されているわけではない。したがって、議決権付き株式による調達が約24%にとどまるという数字も、発表された計画上の内訳を表すものであり、最終的な議決権の希薄化率を意味するものではない。
議決権の配分が重要なのは、Metaでは創業者のMark Zuckerberg氏に議決権が集中しているためだ。同社が公開したinformation statementによると、2026年10月1日時点でZuckerberg氏は議決権の約60.6%を保有する一方、経済的持分は約13.4%にとどまっている。無議決権のClass C株を新たに売却しても、既存株主間の議決権比率は変わらない。これに対し、Class A株を新規発行すれば議決権の総数が増えるため、Zuckerberg氏を含む既存株主の議決権比率は低下する可能性がある。
調達規模の比較対象となるのが、Alphabetが2026年6月に条件を決定した株式公募だ。AlphabetはClass A株を2,545万9,689株(1株355.1982ドル)、Class C株を同数(同351.8018ドル)売り出した。さらに、配当率6.25%の優先株に対応する預託証券を2シリーズ、それぞれ1億6,750万口、1口50ドルで公募した。これらを合計すると公募総額は約347.5億ドルとなり、Metaの350億ドルとほぼ同じ規模になる。
Alphabetはこのほかに400億ドルのATMと、Berkshire Hathawayを対象とする100億ドルの私募も計画しており、調達総額は約847.5億ドルとなる。ただし、AlphabetはATMによる調達資金を主に納税義務の履行方法の変更に充てると説明している。一般事業目的を掲げるMetaの600億ドルとは資金使途が異なるため、単純に調達額だけを比較することはできない。
なお、1ドル=150円と仮定すると、Metaの950億ドルは約14兆円に相当する。これは実際の為替相場を反映した換算ではなく、規模を把握するための概算だ。950億ドルは、Metaが見込む2026年の設備投資額の中央値1,400億ドルに対して約68%に相当する。計画どおりに進めば、同社は年間設備投資額の相当部分に匹敵する資金を、株式市場から調達する手段を確保することになる。
優先株がClass Aに転換されれば、議決権の希薄化は拡大する
今回の調達計画について、議決権への影響を限定的と評価するうえで最大の不確定要素は、125億ドルの優先株の転換先だ。優先株がClass C株に転換されるには、2029年4月15日までにClass C株が発行され、取引所への上場が承認される必要がある。この条件を満たさなければ、転換先は議決権付きのClass A株となる。その場合、当初のClass A株公募225億ドルと合わせて350億ドル分が議決権付き株式に相当し、600億ドルのATMが計画どおり実施されたとしても、全体の約37%を占める計算だ。ATMの実施規模が600億ドルを下回れば、この比率はさらに高くなる。
一方、当初225億ドルとされたClass A株のフォワード売却契約にも、議決権への影響を抑える仕組みが含まれている。Metaの目論見書によれば、Class C株の発行と上場承認後、各フォワード契約はClass A株とClass C株に関する取引に分割される。ただし、分割後にそれぞれ何株を割り当てるかは開示されていない。条件によってはClass C株のみで決済することも可能とされており、実際に発行される議決権付きClass A株の規模は、当初の225億ドル相当を下回る可能性がある。
それでも、600億ドルのATMが計画どおり実施されれば、調達計画全体の約63%は無議決権のClass C株によるものとなる。ただし、これはあくまで議決権への影響を抑える仕組みであり、既存株主の経済的持分が守られるという意味ではない。Class A株とClass C株は配当や分配に関して基本的に同等の権利を持つため、どちらを新規発行しても既存株主の経済的持分は希薄化する。Class C株によって抑えられるのは議決権の希薄化であり、経済的持分の希薄化ではない。
今回の見立てが成り立つかどうかは、今後の2つの動きで判断できる。第一に、2027年第1四半期以降に予定されるClass C株のATMが実際に始まり、600億ドル規模の調達計画が維持されるかどうかだ。開始が遅れたり、調達額が大幅に縮小されたりすれば、無議決権株式を中心とした資金調達という構図は弱まる。第二に、2029年4月15日までにClass C株が発行され、上場承認を得られるかどうかである。この条件を満たさなければ、125億ドル分の優先株はClass A株に転換される。
Class C株の発行・上場が実現し、ATMも予定どおり実施されれば、Metaは創業者の議決権支配への影響を抑えながら、AIインフラへの巨額投資に必要な資金を調達できることになる。さらに優先株の転換先もClass C株となれば、議決権付き株式の発行額を一段と抑えられる可能性がある。当面の注目点は、2027年1月19日に予定される定款の効力発生と、同年第1四半期以降のClass C株の発行・上場およびATMプログラムの開始だ。



