ニューヨーク州が、予測市場を運営するKalshiEX LLCを無許可の賭博事業だとして提訴した。州司法長官が2026年7月31日、州の第一審裁判所に当たる州最高裁判所ニューヨーク郡へ提出した訴状は、スポーツに加えて選挙や文化に関する契約も賭博だと主張し、州内での無免許営業を恒久的に差し止めるよう求めている。

訴訟のタイミングには前段がある。連邦地裁は7月7日、Kalshiのスポーツ契約にニューヨーク州法を適用しても、商品取引所法(CEA)により排除されないとの暫定判断を示した。Kalshiは上訴したものの、州の執行を止める仮差止めは得られなかった。そこで州は、停止命令に続き、違法性の認定と金銭的救済まで求める訴訟へ進んだ。ただし、連邦地裁が判断したのはスポーツ契約であり、今回の訴状が対象に含めた選挙・文化契約まで州法を適用できるかは同判決で決まっていない。

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360億ドルという州側概算の内訳

州が求める救済は一つの固定額ではない。訴状は、Kalshiが州内で受け付けた取引、顧客が失った金銭、同社が得た利益について会計報告を命じるよう求める。そのうえで顧客への返還、違法利得の没収と損害賠償、違法行為で得た利益の3倍に当たる罰金を請求した。無許可のスポーツ賭博を提示または提示しようとした行為には、1件につき10万ドルを科すよう求めている。

APは別の裁判提出資料に記された州側の概算を360億ドルと報じた。ただし、これは裁判所が認定した損害額でも、訴状に一括請求額として記された数字でもない。取引件数と利得を調べた後に各制度上の算式を適用するため、最終的な請求・認定額は訴訟の進行によって変わる。

訴状には、ニューヨーク州内から実際に取引できるかを司法長官事務所が確かめた例もある。2026年4月6日、調査担当者は全米大学体育協会(NCAA)男子バスケットボールの試合で、コネティカット大学の勝利を予想する「Yes」契約を4口購入した。契約価格と手数料0.06ドルを合わせて1.14ドルを支払い、同大学が敗れたため受取額はゼロだったと州は説明する。州はさらに、Kalshiが公表した企業評価額220億ドルと年換算取引量1780億ドルを事業規模の説明に使い、取引と利得の会計を求めた。いずれも州側が引用した同社公表値であり、裁判所が認定した数字ではない。

YesかNoかを売買しても、州法上は賭博なのか

Kalshiの契約は、将来の出来事が起きるかをYesとNoの二択で売買する。価格はおおむね確率に対応し、予想した結果になれば1口1ドル、外れればゼロで決済される。相手は胴元ではなく反対側の契約を持つ市場参加者で、Kalshiは取引手数料を受け取る。この仕組みを同社は金融取引と説明してきた。

一方、ニューヨーク州刑法は、自分が支配・影響できない将来の偶発事象に価値を賭け、特定の結果になれば価値を受け取る行為を賭博と定義する。州の競馬・パリミュチュエル賭博・繁殖法が定めるスポーツ賭博には、試合結果に加え、試合の一部や選手個人の成績への賭けも入る。商品名が「イベント契約」でも、金銭の流れと結果への依存がこの定義を満たすというのが州側の論理だ。

訴状は二段構えになっている。州憲法と刑法に基づく主張は、スポーツに加えて選挙・文化に関する契約にも及ぶ。一方、州免許や21歳以上という条件、大学スポーツの制限はスポーツ賭博法に基づく。すべての契約を同じ条文で違法だと主張しているわけではない。

年齢と商品範囲にも差がある。Kalshiは18歳以上の利用者に口座開設を認めるが、ニューヨーク州のモバイルスポーツ賭博は21歳以上に限られる。州内の大学チームが参加する試合は、免許を持つ事業者にも提供が禁じられている。訴状は、Siena UniversityやHofstra Universityが出場した2026年3月の試合をKalshiが扱ったと具体的に挙げた。

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CFTC指定市場と自己認証の境界

Kalshiが連邦規制の外にいるわけではない。米商品先物取引委員会(CFTC)は2020年11月3日、同社を指定契約市場(DCM)に指定した。DCMには監査証跡を残し、取引を監視し、市場操作や非公開情報の不正利用を取り締まる義務がある。CFTCも違反を捜査・訴追できる。

しかし、DCMの指定と、そこで扱う全商品の適法性は同じではない。DCMは契約が法令に適合すると自ら認証し、原則1営業日後に上場できる。Kalshiも2025年1月22日にスポーツ契約を自己認証した。CFTCが一件ずつ事前承認したわけではない。

7月7日の連邦地裁判断は、DCMの指定と個別契約の適法性を切り分けた。裁判所は審理のためにスポーツ契約をCEA上のスワップだと仮定したが、最終的な分類は決めなかった。その前提でも、CFTCの排他的管轄が州賭博法を全面的に退けるとは認めていない。CEA自身が、州法で違法な活動や「gaming(賭博)」に関わるイベント契約をCFTCが公益に反すると判断できる仕組みを持つからだ。

さらに裁判所は、自己認証を適法性の宣言とは扱わず、CFTCが契約を止めなかったことも適法性の証明にはならないとした。ニューヨーク州の免許を取得し、州内利用者を別区分として扱うことは、DCMに求められる公平なアクセスと両立し得るとも判断した。これは仮差止め段階の判断であり、本案の最終判決ではない。それでも州が今回の提訴へ進む足場にはなった。

市場監視と消費者保護を誰が担うのか

連邦と州は、同じ契約の異なる危険を見ている。CFTCの制度は監査証跡を残させ、不正取引を監視して市場の公正さを守る。ニューヨーク州は21歳という年齢制限を設け、広告と自己排除を規制し、依存症対策も事業者に求める。州のモバイルスポーツ賭博事業者には総収益のおよそ51%が課税され、2024年には約20億ドルの総ゲーミング収益から10億ドル超が州税として納められたと訴状は記す。

Kalshiの広報担当者はAPに対し、州の提訴を「政治的演出」と批判し、州は連邦免許を持つ取引所を閉鎖できないと反論した。CFTCも州の介入に強く反対している。7月14日には、ミシガン州裁判所の命令を受けてKalshiが成立済み取引を取り消そうとした際、緊急ルール変更を停止し、通常通り履行するよう命じた。全国一律のデリバティブ市場を維持するという連邦側の理屈である。

裁判所の判断はすでに割れている。7月7日にニューヨーク連邦地裁が仮差止め申立てを退けた命令の整理でも、Kalshiは第3巡回区とテネシーで仮差止めを得た一方、第6巡回区のほかアリゾナ、メリーランド、ネバダでは退けられた。ニューヨークの判断も第2巡回区控訴裁判所で争われている。

CFTCは6月10日、スポーツを含むイベント契約がgaming(賭博)や州・連邦法上の違法行為に関わるかを契約ごとに調べ、公益に反する場合は止める90日審査手続きなどを提案した。まだ規則案にすぎないが、最終規則が州法上違法な活動を契約審査でどう扱うかは、予測市場が全米共通の商品であり続けるのか、州ごとに免許・年齢・商品制限を受けるのかを左右する。今回の360億ドルという概算より、こちらの線引きの方が市場の将来には重い。