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米国著作権局、AI生成コンテンツの著作権指針を発表 – 人間の創造性が不可欠

Y Kobayashi

2025年4月5日

米国の著作権行政を司る著作権局(U.S. Copyright Office)は、注目されていたAI(人工知能)と著作権に関するレポートの第二部「著作権適格性(Copyrightability)」を発表した。このレポートは、AIによって生成されたコンテンツが米国の著作権法の下でどのように扱われるかについて、現時点での公式見解を示すものであり、テクノロジー業界およびクリエイティブ業界に大きな影響を与える可能性がある。結論として、著作権保護のためには依然として「人間の創造的関与」が不可欠であり、単にAIにプロンプト(指示)を与えて生成されただけの出力は、原則として著作権保護の対象外であると明確にされた。

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米国著作権局の核心的見解:「人間」なくして著作権なし

レポートの中心的なメッセージは、「著作権保護は人間の著作者にのみ与えられる」という、米国の著作権制度の foundational principle(基本原則)の再確認である。これは、合衆国憲法の著作権条項(「著作者」に「著作物」に対する排他的権利を保障する権限を議会に与える)および、これまでの裁判所判例(例えば、Community for Creative Non-Violence v. Reid 事件における「著作者とは、アイデアを著作権保護の対象となる具体的な有形表現に変換する人物である」との判示)に基づいている。

著作権局は、これまでに人間以外の存在(動物や自然現象、そしてAI)によって作成されたものに著作権が認められた判例はなく、むしろ裁判所はその可能性を明確に否定してきた点を強調している。

さらに重要なのは、著作権保護の要件として、単なる労力や時間ではなく、一定レベルの「独創性(originality)」が人間の創造的プロセスに必要であるという点だ。この原則が、AI生成コンテンツの著作権適格性を判断する上での基礎となる。

AI生成物が著作権保護を受けられるケースとは?

著作権局は、AI生成コンテンツの著作権適格性はケースバイケースで判断されるべきとしつつも、保護が認められる可能性のある具体的なシナリオを3つ提示している。

1.AIを「支援ツール」として利用した場合

人間が創造的な作業を行う上で、AIをアイデア出し、リサーチ、編集支援などの「支援ツール(assistive tool)」として利用し、最終的な著作物の表現自体は人間が生み出した場合、その著作物は著作権保護の対象となる。重要なのは、AIの出力そのものを組み込むのではなく、あくまで創作活動の補助として利用する点である。これは、スペルチェッカーや画像編集ソフトのフィルター機能を利用するのと同様の考え方と言える。

2.人間による「表現豊かな入力」が反映された場合

人間が自身の著作物(文章、画像、コードなど、それ自体が著作権保護の対象となりうるもの)をAIシステムに入力し、その人間の創造的表現が出力結果に「認識可能な形で」残っている場合、その人間の表現部分については著作権が及ぶ可能性がある。ただし、保護されるのはあくまで人間が創作した部分に限定され、AIが新たに追加した表現は含まれない。これは、既存の著作物を基に新たな創作を加える「二次的著作物」の保護範囲が、新たに追加された部分に限定されるのと同様の考え方である。

3.AI生成物を人間が「創造的に編集・構成」した場合

AIによって生成された素材(テキスト、画像、音楽など)を、人間が選択・配置・編集し、その結果として全体が「独創的な著作物」と評価される場合、その人間による選択・配置・編集といった「創造的な作業」の部分に著作権保護が与えられる。ここでも、保護の対象はあくまで人間の独創的な寄与の部分であり、元となったAI生成素材自体が保護されるわけではない。例えば、映画製作においてAI生成の特殊効果が使用されたとしても、映画全体の著作権は(AI生成部分を除き)人間に帰属する。

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なぜプロンプトだけではダメなのか?

今回の指針で特に注目されるのは、AIへのプロンプト(指示)入力だけでは、生成された出力に対する著作権を主張するには不十分であると明確にされた点だ。

著作権局はその理由として、プロンプトから最終的な出力が生成されるプロセスにおける「予測不可能性」と「人間のコントロールの欠如」を挙げている。現状の生成AIは、同じプロンプトを入力しても、実行するたびに異なる結果を無限に生成しうる。また、多くのAIシステムは「ブラックボックス」として機能しており、ユーザー(時には開発者でさえも)は、AIがどのような内部プロセスを経て特定の出力を生成したのかを正確に予測・制御できない。

裁判所が独創性の要件として単なる「時間と労力」を否定している点を踏まえ、著作権局は、プロンプトの作成や改良にどれだけ時間や労力を費やしたとしても、それだけでは出力結果に対する十分な「創造的コントロール」を行使したとは言えず、著作権法上の「著作者」とは見なせないとの立場を示した。

「ケースバイケース」判断の難しさ

著作権局は、最終的な著作権適格性の判断は「ケースバイケース」で行われるべきであると繰り返し述べている。これは、AI技術の進化の速さや利用方法の多様性を考慮した現実的なアプローチである一方、クリエイターや企業にとっては依然として法的な不確実性が残ることを意味する。

だが、どの程度の「人間の関与」があれば「十分な創造性」と見なされるのか、その明確な線引きは示されていない。これは、かつて米国最高裁判所判事がポルノグラフィに関して述べた「それを見れば分かる」という有名な(そして曖昧な)基準を彷彿とさせる。この曖昧さは、今後、AI生成コンテンツの著作権を巡る訴訟を引き起こす可能性がある。例えば、プロンプトからモバイルゲーム全体を生成するAIツールが登場した場合、そのゲームの著作権が認められるか否かは、最終的に裁判所の判断に委ねられることになるだろう。

世界の動向と米国の立ち位置

著作権局は、AI生成物の著作権に関する国際的な動向も注視している。レポートでは、いくつかの国の状況が紹介されている。

  • 欧州連合(EU): 人間の創造的プロセスへの「重要な」寄与があれば、AI生成コンテンツも著作権の対象となりうる。
  • 英国(UK): 生成AI登場以前の法律に、「人間の著作者が存在しない状況でコンピュータによって生成された」著作物を保護する規定があるが、現在、政府がAIと著作権の問題を再検討中。
  • 日本: AIユーザーによる指示の内容、生成試行回数、複数出力からの選択、人間による修正・加筆などを考慮し、ケースバイケースで判断。
  • 中国: AIを利用して作品を創作した者が著作者となる。

多くの国で「人間の関与」の必要性についてはコンセンサスが形成されつつあるものの、その具体的な基準や保護のあり方については、まだ世界的に見解が定まっていない状況である。著作権局は、これらの国際的な動向が米国の制度とどのように連携、あるいは相違していくかを評価し続けるとしている。

新たな法整備は不要?著作権局の見解

現時点において、著作権局はAIによって生成されたマテリアルを保護するための新たな法律や規則は必要ないとの見解を示している。米国の既存の著作権法は、新しい技術や媒体が登場するたびに、それに対応できる柔軟性を持っていると評価している。

AI開発者や利用者からは、技術革新をさらに促進するために、AI生成物に対する追加的な法的保護を求める声も上がっていた。しかし、著作権局はこれに対し、むしろAI生成物が人間のクリエイターとその創造的表現が社会にもたらす価値に与える影響への懸念を示した。「もし著作者が生計を立てられなくなれば、彼らが生み出す作品は少なくなるだろう。そして、人間の創造性の火花が少なく、あるいは弱くなるならば、我々の社会はより貧しくなるだろう」と述べ、人間中心の創造性を重視する姿勢を明確にした。

クリエイターと企業への影響

今回の米国著作権局のレポートは、AIと著作権の関係性を巡る議論における重要な一歩となる。主なポイントは以下の通りである。

  • 人間の創造性が鍵: 米国で著作権保護を得るためには、依然として人間の創造的な関与が必須である。
  • プロンプトだけでは不十分: AIにプロンプトを与えるだけでは、生成された出力の著作者とは認められない。
  • 限定的な保護の可能性: AIを支援ツールとして利用した場合や、人間による創造的な入力・編集・構成が認められる場合に限り、その人間による寄与部分が保護対象となりうる。
  • ケースバイケース判断: 具体的な保護適格性は、個別の事例ごとに判断されるため、依然として不確実性が残る。
  • 現行法で対応可能: 現時点では、AI生成物に関する新たな法整備の必要はないと判断されている。

この指針は、AIを利用するクリエイター、AIツールを提供する企業、そしてコンテンツを利用するすべての人々にとって重要な意味を持つ。特に、AI生成コンテンツを商用利用する際には、どの程度の人的関与があれば著作権が主張できるのか、慎重な検討が必要となる。著作権局は今後も技術的・法的動向を注視していくとしており、AIと著作権を巡るルール形成はまだ始まったばかりと言えるだろう。


Sources

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