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誤情報に騙されやすい人は誰? 大規模国際調査で判明した意外な特徴

Y Kobayashi

2025年4月19日

66,000人超を対象とした大規模な国際調査により、どのような人々が誤情報やフェイクニュースに騙されやすいのか、その具体的な特徴が明らかになった。この研究は、誤情報が蔓延する現代社会において、効果的な対策を講じるための重要な第一歩となるものである。

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研究概要:誤情報への脆弱性を測る世界規模の試み

ブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)とケンブリッジ大学の研究者チームは、世界24カ国、66,242人を対象に、誤情報に対する脆弱性を測定する調査を実施した。研究の目的は、どのような属性を持つ人々が誤情報に騙されやすいのか、そして人々は自身の「騙されにくさ」をどの程度正確に認識しているのか、という2点を明らかにすることであった。

調査には、「誤情報感受性テスト(MIST – Misinformation Susceptibility Test)」と呼ばれる、心理学者によって厳密に検証されたオンラインツールが用いられた。MISTは、参加者に本物のニュース見出しと巧妙に作成された偽のニュース見出し(フェイクニュース)を提示し、それぞれが本物か偽物かを判断させることで、誤情報を見抜く能力を測定するものである。

偽の見出しの例としては、「少数の人々が金と石油の価格を操作して世界経済を支配している」「左翼は良い成績を得るために嘘をつく可能性が高い」「政府は9/11への関与について大規模な隠蔽工作を行っている」といった陰謀論的なものが含まれる。一方、本物の見出しとしては「2018年に米国の主要新聞社の約4分の1が人員削減を行った」などが用いられた。

誤情報に騙されやすい人の4つの特徴

この大規模調査の結果、誤情報に対して脆弱な傾向が見られたのは、以下の4つのグループであった。ただし、グループ間の差は極端に大きいわけではなく、あくまで統計的な傾向である点に留意が必要である。

  1. Z世代(1997年~2012年生まれ)
    意外にも、スマートフォンやソーシャルメディアと共に育った「デジタルネイティブ」であるはずのZ世代が、他の世代と比較して誤情報を見抜く能力が低い傾向にあった。これは、「若い世代ほどデジタルリテラシーが高い」という一般的な通念を覆す結果である。研究の上級著者であるUBCの心理学助教Friedrich Götz博士は、「デジタルネイティブがこうした(デジタル)環境をうまくナビゲートできるという誤解が依然として広まっています。学術界では数年前からその神話は否定されてきましたが、一般にはまだ浸透していないようです」と指摘している。
  2. 非男性(女性、ノンバイナリー/第三の性)
    統計的に見ると、男性と比較して、女性やノンバイナリー/第三の性を自認する人々の方が、誤情報に騙されやすい傾向がわずかに見られた。
  3. 低学歴
    高校卒業以下の学歴の人々は、大学教育(学位未取得者を含む)や大学院・専門職学位を持つ人々と比較して、誤情報を見抜く能力が低い傾向にあった。学歴が高いほど、誤情報に対する識別能力が高いことが示唆される。
  4. 保守的な政治的志向
    政治的に保守的な政治的見解を持つ人々は、リベラルな政治的見解を持つ人々と比較して、誤情報に騙されやすい傾向が見られた。この傾向は、自身を「極めて保守的」と位置付ける人々で特に顕著であった。
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「騙されない自信」はあてにならない? 自己評価とのギャップ

本研究のもう一つの興味深い点は、人々が自身の誤情報識別能力をどの程度正確に評価できているかを調査したことである。その結果、いくつかのグループで「自信」と「実際の能力」の間にギャップがあることが明らかになった。

  • Z世代: 誤情報を見抜く能力は他の世代より低い傾向にあったが、自身の能力に対する自己評価は比較的正確であった。つまり、「自分はあまり見抜けないかもしれない」と認識している傾向があった。
  • 高学歴者: 誤情報を見抜く能力は高い傾向にあったが、自身の能力を過大評価する傾向が見られた。「自分は騙されない」という自信が、必ずしも実際の能力と一致しないことを示唆している。
  • 女性と男性: 女性は、男性と比較して自己評価がより正確である傾向が見られた。一方、男性は自身の能力を過信する傾向がやや強かった。
  • 保守派: 全体としては自身の能力を比較的正確に評価していたが、「極めて保守的」な層では、自己評価と実際の能力との関連性が薄れる傾向が見られた。

誰もが誤情報と無縁ではない:研究の意義と今後の課題

この研究結果は、特定のグループを「騙されやすい」と断定するものではなく、誤情報がいかに広範な影響を与えうるかを示すものである。Götz博士は、「あなたが誰であれ、何を知っていると思っていようと、私たちの誰もが誤情報から完全に免疫があるわけではありません。私たちは皆、日常的に誤情報にさらされており、誰もがいつかそれに騙される可能性があることを認識すべきです」と警鐘を鳴らす。

誤情報の蔓延は、個人の判断を誤らせるだけでなく、公衆衛生や民主主義といった社会の根幹を揺るがしかねない深刻な脅威である。今回の研究は、どのような層が特にリスクを抱えているのか、また、どのような層が自身の能力を過信しやすいのかを具体的に示した点で、非常に重要である。

Götz博士は、「現在のすべての民主主義国家が、この問題に真剣に取り組もうとしているわけではないと感じています。さらに悪いことに、私たちが生きる分極化した世界では、政治家を含む一部の関係者が意図的にそれを武器として利用する可能性さえあります」と懸念を示す。しかし同時に、「もし政府が誠意を持って行動し、社会におけるこの問題を解決したいと願うなら、この研究を利用して意識を高め、より介入に基づいた研究へと進むことができるでしょう」と、対策への期待も述べている。

研究者らは、MISTのような検証済みツールを公教育などで活用することや、英語以外の言語版を開発し、世界的な誤情報への脆弱性理解を深めることの重要性を訴えている。

この研究は、私たち一人ひとりが、自分自身も誤情報に騙される可能性があることを自覚し、ニュースや情報に接する際に常に批判的な視点を持つことの重要性を改めて教えてくれる。


論文

参考文献

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