2025年8月のWindowsセキュリティアップデート(KB5063878およびKB5063709)が、プロの配信現場やコンテンツクリエイターに不可欠なNDI(Network Device Interface)ストリーミングプロトコルに深刻な問題を引き起こしていることが判明した。Microsoft自身が「深刻なスタッタリング、ラグ、音声・映像のコマ落ち」が発生していると認め、緊急の回避策を提示しているものの、根本的な解決には至っていない状況である。この問題は、OBS (Open Broadcaster Software) NDI Toolsといった主要なストリーミングアプリケーションにおいて、特に「ディスプレイキャプチャ」機能を使用する際に顕著に現れるという。

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配信者を襲った「突然の不調」、8月のWindowsアップデートが引き金か

「ある日突然、OBSが使い物にならなくなった」
「ゲーム配信の映像が紙芝居のようだ」

2025年8月中旬、世界中のコンテンツクリエイターや放送技術者のコミュニティが、奇妙で深刻な問題に揺れた。彼らが日常的に使用する配信ソフトウェア、特にOpen Broadcaster Software (OBS)NDI Tools といった定番ツールが、原因不明のパフォーマンス低下に見舞われたのだ。

報告された症状は驚くほど一貫していた。「深刻なスタッタリング(カクつき)、ラグ(遅延)、そして音声と映像のコマ落ち」。まるで高性能なPCが、突如として数世代前の性能に劣化したかのような挙動である。特に、PCのデスクトップ画面を直接キャプチャーする「Display Capture」機能を使用する際に、この問題は顕著に現れたという。

当初、多くのユーザーは自身のPC設定やネットワーク環境を疑った。しかし、問題の報告が世界規模で同時多発的に増加するにつれ、その原因が個人の環境にあるのではなく、もっと広範な、共通の要因にあることが明らかになっていく。

疑惑の目は、Microsoftが2025年8月13日(日本時間)にリリースした月例セキュリティアップデートに向けられた。具体的には、Windows 11 24H2向けの「KB5063878」と、Windows 10 21H2/22H2向けの「KB5063709」である。これらのアップデートを適用した直後から問題が発生したという報告が相次ぎ、コミュニティの疑いは確信へと変わっていった。

Microsoftが公式に認めた不具合、問題の核心「NDI」とは何か?

ユーザーコミュニティの混乱が広がる中、Microsoftはついに沈黙を破った。同社は公式の「Windowsリリース正常性」ダッシュボードを通じて、この問題を正式に認め、調査を開始したと発表した

Microsoftの発表によれば、問題は「NDI (Network Device Interface)を使用してPC間で音声・映像フィードをストリーミングまたは転送する際に」発生するという。つまり、これは特定のソフトウェアのバグというよりも、OSと、プロフェッショナルな映像伝送技術との間に生じた「衝突事故」だったのである。

そもそも「NDI」とは?なぜプロはこれを使うのか

一般のPCユーザーには馴染みが薄いかもしれないが、「NDI」は現代の映像制作現場に革命をもたらした技術だ。従来、複数のカメラ映像やPC画面を一つの番組にまとめるには、SDIやHDMIといった物理的な映像ケーブルを何本も配線する必要があった。スタジオはさながらケーブルのジャングルのようになり、設営にも多大な時間とコストを要した。

NDIは、この常識を覆した。LANケーブル1本、つまり一般的なコンピューターネットワークを通じて、高品質かつ低遅延で映像、音声、メタデータを送受信できるのである。これにより、放送局レベルの大規模なシステムから、個人の複数PCを使った高度なライブ配信まで、誰もが柔軟で拡張性の高い映像制作環境を構築できるようになった。その利便性と品質から、NDIはプロの放送業界、eスポーツ、企業のライブイベントなどで、瞬く間に標準的な地位を確立した。

問題の根源は「RUDP」、通信プロトコルの深層

今回の問題は、このNDIの中でも、特定の通信プロトコルが標的となった。MicrosoftとNDI開発元の双方によれば、不具合はNDIが標準で使用する「RUDP (Reliable User Datagram Protocol)」という通信方式で発生している。

この技術的な詳細を理解するために、少しだけネットワークの裏側に目を向けてみよう。インターネットのデータ通信には、主に二つの方式がある。

  • TCP (Transmission Control Protocol): データを確実に、順番通りに届けることを最優先する。荷物が届いたか毎回確認する「書留郵便」のようなもので、信頼性は高いが、確認作業の分だけ少し時間がかかる。
  • UDP (User Datagram Protocol): とにかく速くデータを送ることを重視する。確認作業を省略する「普通郵便」のようなもので、高速だが、途中で荷物がなくなっても気づかないことがある。

ライブ配信のようなリアルタイム性が求められる用途では、TCPの遅延は致命的になり得る。一方で、UDPでは映像の一部が欠落する(ブロックノイズなどが発生する)リスクがある。

そこで登場するのが「RUDP」だ。これは、UDPの「速さ」とTCPの「信頼性」の”いいとこ取り”を目指した、いわば「速達便に書留の安心感を加えたような仕組み」である。UDPをベースにしながら、データの欠落が起きた場合だけ効率的に再送信する独自の仕組みを持ち、低遅延と信頼性を両立させている。NDIが滑らかで安定した映像伝送を実現できるのは、この賢いRUDPのおかげなのだ。

今回のWindowsアップデートは、どうやらこのRUDPの繊細な動作メカニズムを妨害してしまったらしい。今回のアップデートに含まれたセキュリティ強化策や内部的なコード変更が、RUDPのパケット処理タイミングを微妙に狂わせ、結果として深刻なパフォーマンス低下という形で表面化したことが推測される。

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今すぐできる回避策、配信を救うための具体的な手順

幸いなことに、MicrosoftとNDIは恒久的な修正を待つ間の「応急処置」を提示している。それは、問題の原因となっているRUDPの使用を一時的にやめ、別の通信方式に切り替えるというものだ。この設定は、NDIが無料で提供している「NDI Tools」に含まれるツールで行うことができる。

もしあなたがこの問題に直面しているなら、以下の手順を試してみてほしい。

NDI Access Managerを使った設定変更

  1. NDI Toolsのインストール: まだインストールしていない場合は、NDIの公式サイト(ndi.video)から無料の「NDI Tools」をダウンロードし、インストールする。
  2. NDI Access Managerの起動: スタートメニューから「NDI Access Manager」を探して起動する。
  3. 設定の変更:
    • ウィンドウ上部にある「Advanced」タブをクリックする。
    • 「Receive Mode」という項目を探す。ここがデフォルトで「RUDP」になっているはずだ。
    • このドロップダウンメニューをクリックし、「Single TCP」または「UDP」のいずれかを選択する。
    • 「OK」ボタンを押して設定を保存する。
  4. アプリケーションの再起動: このステップが非常に重要だ。 OBSやvMixなど、NDIを受信しているすべてのアプリケーションを完全に終了し、再度起動する。この再起動によって、新しい設定が適用される。

この手順を、NDI信号を受信するすべてのPCで行う必要がある。

TCPとUDP、どちらを選ぶべきか?トレードオフを理解する

設定を変更するにあたり、「Single TCP」と「UDP」、どちらを選べば良いのか迷うかもしれない。両者には一長一短があり、自身の環境に応じて選択する必要がある。

  • Single TCP: こちらは信頼性を重視した選択肢だ。データの欠落がほぼなくなり、映像の破綻は起こりにくくなる。ネットワーク環境が不安定な場合や、とにかく安定した映像を届けたい場合に推奨される。ただし、RUDPに比べてわずかに遅延が増加する可能性がある。まずは、こちらを試すのが定石だろう。
  • UDP (Legacy): こちらは低遅延を最優先する選択肢だ。パケットロスの再送信を行わないため、理論上は最も遅延が少ない。しかし、ネットワーク上でデータが欠落すると、映像にノイズが乗る可能性がある。LAN環境が非常に安定していることが確信できる場合にのみ、選択肢となる。

まずは「Single TCP」に設定して問題が解消するかを確認し、もし遅延が気になるようであれば「UDP」を試す、というアプローチが現実的だ。

アップデートのアンインストールは「最終手段」、セキュリティリスクとの天秤

回避策を試しても問題が解決しない場合、あるいは何らかの理由でNDI Toolsをインストールできない場合、「問題のアップデート自体をアンインストールする」という選択肢が頭をよぎるかもしれない。

確かに、KB5063878やKB5063709を削除すれば、システムはアップデート前の状態に戻り、NDIの問題は解消されるだろう。しかし、筆者はこれを最終手段と位置づけ、安易な実行には強く警鐘を鳴らしたい。

これらのアップデートは「セキュリティアップデート」である。つまり、発見された脆弱性を修正するための重要なパッチが含まれている。これをアンインストールするということは、自身のPCをサイバー攻撃の脅威に晒すことに他ならない。配信の利便性と、PC全体の安全性を天秤にかけることになるのだ。

特に、インターネットに常時接続している配信用のPCでは、そのリスクは計り知れない。回避策で対処できる限りは、アップデートをアンインストールするべきではない。

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8月アップデートは「多重事故」か、NDI問題以外の不具合も

今回のNDI問題がさらに深刻なのは、これが単独の不具合ではない点だ。2025年8月の月例アップデートは、他にも複数の問題を引き起こしていることが報告されている。

これらの「多重事故」とも言える状況は、Microsoftのアップデート品質管理プロセスに重大な疑問を投げかけるものだ。Windowsという巨大で複雑なOSは、世界中の無数のハードウェアとソフトウェアの組み合わせの上で動作している。そのすべてで互換性を検証することは、もはや不可能に近いのかもしれない。しかし、これだけ広範囲にわたる深刻な不具合が同時に発生したという事実は、ユーザーの信頼を大きく損なうものと言わざるを得ない。

今後の見通しと我々ができること

Microsoftは現在、NDIの問題を調査中であり、恒久的な修正パッチの提供に向けて作業を進めている。しかし、その提供時期はまだ明言されていない。

過去の事例を鑑みると、修正方法は二通り考えられる。一つは「Known Issue Rollback (KIR)」と呼ばれる仕組みで、問題を引き起こしているコード部分だけをサーバー側から無効化する、迅速な対応だ。これが適用されれば、数日から1週間程度で問題は自動的に解消される可能性がある。もう一つは、次回の月例アップデート(9月)や、それ以前のプレビューアップデートに修正を含める形だ。

いずれにせよ、公式な修正が行われるまでは、我々ユーザーは自衛策を講じる必要がある。

  1. 回避策の適用: 本記事で紹介したNDIの通信方式の変更を、まずは試す。
  2. 情報収集の継続: Microsoftの「Windowsリリース正常性」ダッシュボードや、信頼できるテクノロジーニュースサイトを定期的にチェックし、最新情報を入手する。
  3. アップデートの一時停止: もし可能であれば、Windows Updateの設定で更新を一時的に停止し、修正が確認されるまで様子を見るのも一つの手だ。

テクノロジーは常に進化し、時にはこうした産みの苦しみを伴う。重要なのは、パニックに陥らず、正確な情報に基づいて冷静に対処することだ。今回の出来事は、我々ユーザーがシステムの「自動更新」にすべてを委ねるだけでなく、その中身を理解し、適切に関わっていく必要性を示唆しているのかもしれない。あなたの配信環境が、一日も早く元の輝きを取り戻すことを願っている。


Sources