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Android XRの本命、XREAL「Project Aura」登場

Y Kobayashi

2025年5月22日

Googleは2025年のGoogle I/Oにおいて、XR(eXtended Reality)分野におけるOS戦略の次なる一手として、中国のXREAL社と提携し、新型スマートグラス「Project Aura」の開発を進めていることを明らかにした。これは、今年後半に登場予定のSamsung「Project Moohan」に続くAndroid XR搭載デバイスとして注目されており、特に「グラス型」のフォームファクタでAndroid XRを体験できる初のデバイスとなる。

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Google I/Oでベールを脱いだ「Project Aura」とは?

開発者向けカンファレンスGoogle I/Oにおいて、GoogleはAndroid XRエコシステムの拡大を発表。その中で、中国を拠点とし、コンシューマー向けARグラスで実績のあるXREAL社(旧Nreal)が開発中の「Project Aura」が公式にアナウンスされた。

Project Auraは、従来のVRヘッドセットのような没入型ではなく、現実世界に情報を重ねて表示する「光学シースルー型」のARグラス(スマートグラス)だ。すでに発表されているSamsungのMR(複合現実)ヘッドセット「Project Moohan」が、Apple Vision Proのようなハイエンドな没入体験を志向するのに対し、Project Auraはより日常的な利用シーンを想定した、軽量でスタイリッシュなメガネ型デバイスとなることが示唆されている。Googleによって開発が進められるAndroid XRプラットフォームが、ヘッドセットからグラス型まで、多様なフォームファクターをカバーする野心的な構想を持っていることが見て取れるだろう。

XREAL社はこれまでにも「XREAL Air」シリーズなど、スマートフォンやPCと接続して大画面表示を楽しむARグラスを市場に投入し、一定の評価を得てきた。Project Auraは、そのXREALがGoogle、そして半導体大手のQualcommと緊密に連携して開発を進めている戦略的デバイスという位置づけだ。

「Project Aura」の注目すべき特徴と憶測

発表された情報はまだ断片的ではあるものの、公開された画像やこれまでのXREAL製品の系譜、そしてGoogleのXR戦略から、いくつかの注目すべき特徴や技術的な方向性が見えてくる。

デザインと光学系:XREALの伝統と進化の融合か

公開されたProject Auraのレンダリング画像を見る限り、そのデザインは従来のXREAL製品と同様、比較的スリムで日常使いも意識したサングラスのようなフォルムを踏襲しているようだ。XREALが得意とする小型軽量化技術が活かされるものと期待される。

デザインとしては、XREALの既存モデル「Air 2 Ultra」と類似している点がヒントになるかもしれない。Air 2 Ultraは、デュアル1080p Micro-OLEDディスプレイ(Sony製0.68インチ、120Hzリフレッシュレート、輝度500ニト)を搭載し、最大385インチ相当の仮想スクリーン投影能力を持つ。Project Auraもこれに匹敵する、あるいはそれを超える表示品質を目指している可能性は高い。

光学系については、XREALの過去製品が採用してきた「バードバス(birdbath)光学系」が有力だ。バードバス光学系は、比較的安価で高輝度・広視野角を実現できる一方、導波路(waveguide)方式(Microsoft HoloLensやMagic Leap Oneなどが採用)と比較して筐体が厚くなる傾向がある。しかし、XREALはこれまでにもバードバス光学系の小型化で実績があり、Project Auraでもそのノウハウが活かされるだろう。導波路方式は薄型で透明度が高い反面、コストが高く視野角が狭くなりがちという課題があり、MetaのOrionプロトタイプなどがこの改善に取り組んでいる最中だ。Project Auraがどちらの技術、あるいは新たなアプローチを採用するのかは、AWE 2025での発表が待たれる。

また、レンダリング画像からヒンジ部分やノーズブリッジにカメラらしきもの、テンプル部分にマイクやボタンが確認できる。このカメラはGoogleのAI「Gemini」との連携や、写真・動画撮影に使われるのではないかと見られ、デバイスのAR機能やAI連携能力を大きく左右する要素となるだろう。

パフォーマンスと接続性:Snapdragon XRと「テザード」の実際

Project Auraの心臓部には、Qualcomm製のXR専用チップセット「Snapdragon XR」が搭載されることが明らかにされている。このチップセットはAR体験に必要な処理能力、空間トラッキング、リアルタイムでの遅延の少ないビジュアル表示をサポートするために特別に設計されており、Project Auraのパフォーマンスへの期待を高める。

接続方式については、「テザー方式」、つまり外部デバイスに有線または無線で接続して動作する形態を取ると複数のメディアが報じている。XREALの既存製品もスマートフォンやPC、あるいは専用コンパニオンデバイス(XREAL Beamなど)に接続するものが主流であり、Project Auraも同様のアーキテクチャを採用する可能性が高い。接続先のデバイスがスマートフォンなのか、あるいは専用の処理ユニット(通称「パック」)なのかは不明だ。テザー方式は、グラス本体の軽量化やバッテリー消費抑制に貢献する一方で、常に別のデバイスとの接続が必要となるため、その利便性や接続の安定性がユーザー体験を左右する。このあたりの詳細も気になるところだ。

Android XRとGemini AI:Googleエコシステムの核へ

Project Auraが搭載する「Android XR」は、Googleが昨年発表したXRデバイス向けの新しいオペレーティングシステムだ。現在は開発者プレビュー段階にあり、アプリ開発者に向けて環境が整備されつつある。Android Authorityによると、Project Auraもまずは開発者向けエディションとして提供され、プラットフォーム上でのアプリ開発や実験を促進する役割を担うという。

そして、現在のGoogleの戦略において欠かせないのが、マルチモーダルAI「Gemini」の存在だ。The VergeやRoadToVRは、Project AuraにもGeminiが深く統合され、リアルタイム翻訳、AIアシスタントとの対話、ウェブ検索、目の前の物体認識、そしてそれに基づくコンテクスチュアルな情報表示といった機能が実現される可能性に言及している。まさに、GoogleがProject Astraで示唆したような「見るAIアシスタント」としての役割を、Project Auraが担うのかもしれない。これが実現すれば、スマートグラスのユースケースを大きく広げる起爆剤となるだろう。

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GoogleのXR戦略におけるProject Auraの位置づけ

Project Auraの登場は、単なる新製品発表以上の意味を持つ。それは、GoogleがXR市場に対してどのような戦略を描いているのかを雄弁に物語っているからだ。

Apple、Metaへの対抗軸としてのAndroid XRエコシステム

XR市場では、すでにAppleが「Vision Pro」で高価格帯市場に衝撃を与え、Metaは「Quest」シリーズでコンシューマー市場を着実に開拓している。CNBCは、GoogleがAndroid XRを投入することで、これら巨大テック企業が切り開いた新たなコンピューティングパラダイムにおいて、主要なOSプロバイダーとしての地位を確立しようとしていると分析する。Androidがスマートフォン市場で実現したように、多様なメーカーが参入できるオープンプラットフォームをXR分野でも構築し、AppleやMetaのクローズドなエコシステムに対抗しようというわけだ。

この戦略はGoogleのウェアラブルOS「Wear OS」のアプローチと類似している。Googleがプラットフォーム(Android XR)を提供し、ハードウェア開発はXREALのようなサードパーティ企業に委ねる。これにより、多様な価格帯やデザイン、機能を持つデバイスが登場し、エコシステム全体の活性化を目指すといった形だ。

開発者への期待とエコシステム構築の布石

Android XRプラットフォームの成功には、魅力的なアプリケーションの充実は不可欠だ。そのため、Project Auraがまず開発者向けに提供されるのは理にかなっている。開発者が早期にデバイスに触れ、Android XRの特性を活かしたアプリを開発することで、来るべきコンシューマー向け製品が登場した際に、ユーザーがすぐに楽しめる環境を整える狙いがある。

さらに、GoogleはSamsungと共同でARグラス開発のための「ソフトウェアとリファレンスハードウェアプラットフォーム」を構築している。これは、より多くのハードウェアメーカーがAndroid XRエコシステムに参入しやすくするための重要な布石であり、Googleの本気度が伺える。

ファッションブランドとの連携:スマートグラスの日常化への挑戦

GoogleはXREALだけでなく、Gentle MonsterやWarby Parkerといった著名なアイウェア(ファッション)ブランドとも提携し、スタイリッシュなAndroid XR搭載スマートグラスの開発を進めていることも明らかにされている。これは、かつてのGoogle Glassが直面した「ギーク向けガジェット」というイメージや社会受容性の課題を克服し、スマートグラスをより多くの人々にとって自然な形で日常生活に取り入れられる製品にしようという意図の表れだろう。技術だけでなく、デザインやファッション性も重視する姿勢は、スマートグラスの普及において極めて重要な要素だ。

AWE 2025に集まる期待

XREALは、Project Auraに関するさらなる詳細を、2025年6月10日から12日にかけてカリフォルニア州ロングビーチで開催される世界最大級のXRカンファレンス「Augmented World Expo (AWE) 2025」で発表する予定だ。価格、正確なスペック、そして具体的な発売時期(現時点ではSamsungのProject Moohanが今年後半、Project Auraは2026年以降との見方もある)など、多くの疑問に対する答えがそこで明らかになることが期待される。

特に注目されるのは、開発者向けキットの提供開始時期と、その先のコンシューマー向けモデルのロードマップだ。GoogleとSamsungが共同開発するリファレンスハードウェアも今年後半に開発者向けに提供開始予定であり、これらがAndroid XRエコシステムの本格的な離陸に向けた重要なマイルストーンとなるだろう。

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GoogleとXREALが描くARの未来図 – 次世代コンピューティングへの序章

XREALのProject Auraは、単なる新型ARグラスというだけでなく、Googleが描くXR戦略、そして次世代コンピューティングの未来を占う上で非常に興味深い存在だ。Android XRというオープンプラットフォーム、Qualcommの高性能チップセット、そしてGoogleの強力なAI「Gemini」との融合は、スマートグラスの可能性を新たな次元へと引き上げるポテンシャルを秘めている。

もちろん、過去のGoogle Glassの経験を踏まえれば、技術的な課題、プライバシーへの懸念、そして社会受容性のハードルなど、乗り越えるべき壁は依然として高い。しかし、XREALのような実績あるハードウェアパートナーや、ファッションブランドとの連携を通じて、Googleはより現実的かつ包括的なアプローチでXR市場に再挑戦しようとしているように見える。

Project Aura、そしてAndroid XRエコシステムが、私たちの働き方、学び方、遊び方、そしてコミュニケーションのあり方をどのように変革していくのか。AWE 2025での続報に期待したい所だ。


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