米国による厳しい制裁の網が張られる中、中国のメモリー半導体大手Yangtze Memory Technologies Co. (YMTC) が、その包囲網を突破するかの如く、大胆な一手を打った。同社は、製造装置のすべてを中国国内で調達する「純国産」のNAND生産ラインを構築し、2025年後半にも試験生産を開始する計画だと報じられている。目標は、2026年末までに世界のNAND市場で15%のシェアを獲得することだ。

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2026年シェア15%に向けた異例の拡大戦略

世界の主要なNANDメーカーが、市場の軟化と価格圧力から設備投資の削減や生産調整に動く中、YMTCは逆張りの拡大路線を突き進んでいる。

同社の生産能力は2024年末までに月産約13万枚(WSPM)に達し、これは世界全体の約8%に相当すると見られている。しかし、YMTCの野心はここで止まらない。2025年にかけて生産能力を月産15万枚まで引き上げ、業界全体のビット成長率予測(10〜15%)を上回るペースでの急成長を目指す計画だ。最終的な目標は、2026年末までに世界のNAND供給量の15%を掌握すること。これは、現在の市場勢力図を大きく塗り替える可能性を秘めた数字である。

この急拡大を技術面で支えるのが、同社独自の「Xtacking」アーキテクチャだ。YMTCは既に、2つのウェハーを貼り合わせる(ボンディングする)ことで総積層数294層を実現した232層3D TLC NAND(X4-9070)の量産を開始している。この「ストリングスタッキング」と呼ばれる技術は、米国の規制対象である128層以上のメモリを一工程で製造する装置を使わずとも、積層数を増やせる「抜け道」とも言えるアプローチだ。

今後のロードマップも具体的だ。今年後半には3D QLC NAND(X4-6080)を、そして2026年には4.8GT/sの高速インターフェースを持つ2TBの3D TLC NAND(X5-9080)の投入を計画。将来的には3つのウェハーをボンディングし、300層を超えるメモリの実現も視野に入れている。これは、ウェハー1枚あたりのスループット(処理能力)を犠牲にしてでも、ビット密度を高めるという明確な戦略の現れである。

制裁回避の切り札「純国産」生産ラインの衝撃

YMTCの戦略の核心は、2025年後半に稼働予定の「純国産」パイロット(試験)生産ラインにある。これは、エッチング、成膜、洗浄、そしてリソグラフィに至るまで、全ての製造装置を中国国内メーカー製で賄うという、前代未聞の試みだ。

この計画の背景には、2022年後半から続く米国商務省によるエンティティ・リストへの掲載がある。これにより、YMTCはASML、Applied Materials、LAM Researchといった世界トップクラスの米国およびその同盟国の装置メーカーから、先端的な製造装置を調達することが極めて困難になった。外国技術への依存という脆弱性を断ち切り、自前のサプライチェーンを確立することこそが、制裁下で生き残るための唯一の道であるとYMTCは判断したのだろう。

アナリストの間では、この試みに対する見方は二分している。成功すれば、YMTCのビット生産量は倍増し、市場シェア15%超えという目標も現実味を帯びてくる、という楽観的な見方がある。一方で、これはあくまで実験的なラインであり、量産に至るには長い時間と、後述する数々の技術的課題の克服が必要だ、とする慎重な意見も根強い。いずれにせよ、このパイロットラインの成否が、YMTC、ひいては中国半導体産業の未来を占う試金石となることは間違いない。

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中国「半導体自給」の現在地とYMTCの突出

YMTCの「純国産」への挑戦は、中国の半導体産業全体の中でも際立っている。Morgan Stanleyの推計によると、YMTCの製造装置における国産化率は45%に達しており、これは中国の半導体ファブの平均や、他の大手(SMICの22%、Hua Hongの20%など)を大きく引き離している。

なぜYMTCはこれほどまでに国産化を推し進めることができるのか。一つは、NANDメモリという製品の特性上、最先端ロジック半導体ほど微細なリソグラフィ技術への依存度が高くないこと。そしてもう一つは、同社の戦略的な動きにある。

YMTCの投資部門である長江産業基金(Changjiang Capital)は、米当局の監視を避けるため、非上場の関連会社などを通じて、自社の生産ネットワークに連なる国内の装置・材料メーカーへ密かに資金を供給してきた。サプライヤーに対しては、装置からメーカー名を示すバッジを取り外すよう指示したとの報告もあり、その徹底ぶりは、国家的な使命を帯びたプロジェクトであることを窺わせる。

「純国産」を阻む巨大な壁:歩留まりとリソグラフィの不在

YMTCの野心的な計画の前には、しかし、巨大な壁が立ちはだかる。それは「技術的な成熟度」、特に「歩留まり(Yield)」と「リソグラフィ」の問題だ。

最大の課題は、国産装置の性能と安定性だ。AMEC(中微公司)やNaura Technology(北方華創)といった中国メーカーは、エッチングやCVD(化学気相成長)装置の分野で世界レベルに近づきつつある。しかし、製造プロセス全体で見た場合、特に量産における歩留まり(良品率)の安定性において、実績のある日米欧の装置に依然として及ばないのが現実だ。TechInsightsの分析では、YMTCの最新チップは性能こそ市場リーダーに匹敵するものの、国産装置の歩留まりの問題から、当初の計画より積層数を抑えざるを得なかったと指摘されている。

そして、より深刻なアキレス腱が、半導体製造の心臓部であるリソグラフィ(露光)装置の不在だ。現在、中国で量産可能な最先端のリソグラフィ装置は、上海微電子装備(SMEE)製のものだが、その解像度は90nmプロセス世代に留まる。これは、YMTCが製造するような微細な3D NANDには全く不十分だ。極端紫外線(EUV)リソグラフィに至っては、中国が自力で開発・製造できる目処は立っていない。

このリソグラフィという決定的なピースが欠けたまま、どのようにして100%の国産ラインを構築するのか。YMTCがどのような「ウルトラC」を用意しているのかは不明だが、この点が「純国産ラインはあくまで実験的」という見方の最大の根拠となっている。

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米国の制裁は「諸刃の剣」か? YMTCの挑戦が示す未来

YMTCの一連の動きは、我々に重要な問いを投げかける。米国の制裁は、果たして中国のハイテク産業の発展を抑え込むという本来の目的を達成できているのだろうか。

短期的には、YMTCを含む中国企業が先端技術へのアクセスを断たれ、深刻な打撃を受けたことは事実だ。しかし、長期的な視点で見れば、この強力な外圧こそが、中国に「何としても自力でやり遂げる」という強烈な動機付けを与え、国内の技術開発とサプライチェーン構築を猛烈な勢いで加速させているのではないだろうか。米国の制裁が、意図せずして中国の技術的自立を促す「ブーメラン効果」を生んでいるとすれば、それは歴史の皮肉としか言いようがない。

YMTCが掲げる「2026年シェア15%」という目標が達成されるか否かは、最終的には国産装置の技術的な成熟と、安定した歩留まりを実現できるかにかかっている。その道のりは極めて険しいだろう。

しかし、この挑戦の持つ戦略的な意味は、単なる市場シェアの数字以上に大きい。これは、グローバルな半導体サプライチェーンがイデオロギーによって分断され、技術覇権をめぐる新たな競争の時代が本格的に始まったことを象徴する出来事と言えるだろう。


Sources