米国のEntity List指定から3年が経った今、長江存儲科技(YMTC)は武漢に月産10万枚規模の新工場3棟を建設している。30億ドルを超える投資額、初めて国産設備が過半数を占める生産ライン等々、制裁によって先端設備の調達を遮断されたはずの企業が、むしろその制約を国産化加速の燃料に変えてきた。
制裁が標的とした企業を潰すどころか、中国の半導体自立を強制的に前進させるという逆説が、NAND市場で実証されつつある。
制裁下でもYMTCの生産能力は拡張し続けている
YMTCは現在、武漢に3棟の新工場を建設中だ。Phase 3工場に加え、さらに2棟が計画されており、各工場がフル稼働した場合の生産能力は月産ウェハー10万枚に達する。Phase 3工場の合弁会社は2025年9月5日に正式設立され、登録資本金は207.2億人民元(約30億ドル)。出資比率はYMTC 50.2%・湖北省国営ファンドが49.8%で、中国政府の資金が直接この拡張を支えている。
現在の月産能力は約13万枚とされており、2025年中に15万枚への引き上げを目指している。目標として掲げるのは、2026年末に世界NANDシェア15%の獲得だ。ただしこれはYMTC側が表明した数値目標であり、達成を保証するものではない。生産能力のシェアは約7〜8%に対して、収益シェアは5%未満という非効率な状況が続いており、目標実現には量と質の両面で相当の前進が求められる。
国家ICファンド(大基金)はYMTCへの投資を第1期・第2期にわたって実施しており、YMTCは中国政府の半導体産業支援における主要受益者だ。湖北省国営ファンドがPhase 3の出資の約半数を担う構造は、国家戦略として半導体自立を推進するという中国の意思を体現している。制裁がなければ、YMTC経営陣が30億ドルの国産化投資に踏み切る必要はなかっただろう——米国の規制がこの資金動員を引き出した、というのが逆説の本質だ。
Phase 3工場が示す"国産化50%超"の意味
Phase 3工場ではAMEC、Naura、Piotechといった中国製装置が全体の50%を超える。これはYMTCのファブで初めてのことだ。外国製先端設備の調達を完全に封じた米国の輸出規制が、図らずもYMTCに国産設備の大規模テスト環境を構築させた。そしてその強制が、中国の半導体装置産業全体を底上げするという副作用を生んでいる。
2022年12月のEntity List指定以前、YMTCはApplied Materials(AMAT)やLam Researchなどの米国製装置を使用していた。指定後はこれらの調達が断たれ、代替として国産装置への置き換えを急速に進めた。報道によれば、YMTCは2025年下半期に中国製設備のみを使用するパイロット生産ラインを稼働させる計画を持っていた。この計画がどこまで実現したかは公式確認がないが、Phase 3での国産比率50%超という数値は、その方向性が着実に進んでいることを示している。
Phase 3の量産開始は当初2027年の予定だったが、2026年下半期への前倒しが報告されている。なお、この前倒しスケジュールや一部の設備詳細は報道ベースの情報であり、公式発表での確認が取れていない点に留意されたい。国産設備での大規模量産は歩留まりの安定化という別の課題を抱えており、スケジュールの変動余地は残る。
SK hynix、Samsungとの層数格差
SK hynixは321層を量産中、Samsungは286層で追う。YMTCは独自のウェハーボンディング技術「Xtacking 4.0」で267層を量産しており、SK hynixとの差は約27〜54層——縮まりつつも依然ある。294層(第5世代)の出荷も報告されているが、前述の通り公式確認はとれていない。
Xtacking 4.0はロジック回路とNANDアレイを別々のウェハーで製造してからボンディングする独自設計で、従来の積層方式とは異なるアーキテクチャを持つ。EUV(極端紫外線露光装置)なしで高密度化を追求するための手段でもある。EUVはASML(オランダ)が実質的に独占しており、輸出規制によってYMTCは調達できない。
層数で競合に追いついても、歩留まり率と製造コストが実際の競争力を左右する。SK hynixやSamsungは数十年の量産ノウハウと精度の高い製造装置を持つ。YMTCが国産装置での生産比率を高めていく中で、歩留まりが競合水準に追いつくかどうかは、2026年末の目標シェアの達成可否に直結する問題だ。
国産化の限界:EUVと歩留まりが残す課題
Entity List指定から3年が経過し、YMTCが国産設備への依存度を高めたことは事実だが、国産化にはまだ乗り越えられていない壁がある。最大の制約はEUVだ。EUV露光装置はASMLが実質的に独占しており、オランダ政府も輸出規制に協調している。YMTCはDUV(深紫外線露光装置)の多重露光で対応しているが、EUVに比べてプロセスが複雑になり、コスト面でのハンデがある。
国産装置の精度問題も残る。AMECやNauraは急成長しているが、製品の安定性や精度で外国製装置に追いついていない領域がある。Phase 3工場での国産比率50%超の達成は節目ではあるが、残り50%の外国製装置(一部は2022年規制以前に調達済みの装置や規制対象外の汎用装置)との組み合わせで成立しているという側面もある。
シェアの非効率性も課題だ。生産能力シェア7〜8%に対して収益シェアが5%未満という数値は、YMTCが競合より安い価格で製品を供給していることを示唆する。価格競争力でシェアを維持しつつ収益性を改善するという二重課題は、装置コストが下がらない状況では解決が難しい。
制裁が証明したもの:強制された国産化の皮肉な果実
2022年12月の制裁措置は、YMTCの事業に実際の打撃を与えた。2025年Q2時点のNAND市場シェアは5%未満に低下しており、制裁の効果がゼロだったわけではない。しかし3年が経過した今、武漢に30億ドルの新工場が建設され、国産設備50%超の生産ラインが立ち上がりつつあるという現実は、制裁の設計者が意図していなかった副作用を示している。
米国の輸出規制の理論は「先端設備へのアクセスを断てば、中国の半導体産業は進歩できない」というものだ。YMTCのケースはその理論が完全には機能しないことを示しつつある。国産設備の品質がどこまで上がるか、歩留まりが安定するかは2026年以降の実績が証明する。Phase 3工場の建設が示すのは「制裁を受けた企業が国産化を諦めた」のではなく「制裁が国産化への投資を不可避にした」という構造変化だ。
YMTCの2026年末シェア15%目標が現実になるかどうかとは別に、Phase 3工場は一つの答えを出す場所だ——国産設備が世界水準のNAND量産に耐えうるか否か。その結果は米中半導体戦争の行方を左右する指標として、業界全体が参照することになる。
Sources
- TechPowerUp: YMTC Reportedly Expands with New Fabs amid Trade Tensions
- Invezz: China's YMTC eyes expansion with two new chip plants
- TrendForce: YMTC Launches $3B Wuhan Phase III Venture
- NotebookCheck: YMTC builds homegrown NAND production line
- Electronics Weekly: YMTC breaks ground on third fab