中国の先導科技集団が、浙江省衢州市で化合物半導体基板の生産能力を増強する。TrendForceが2026年7月23日に報じた計画では、傘下の浙江先導微電子科技有限公司が総額20億元を投じ、ガリウムヒ素(GaAs)基板とインジウムリン(InP)基板を年300万枚ずつ生産する。合計は年600万枚に達するが、建設期間は2026年8月から2029年8月までの3年間だ。現地では2023年から拠点整備が続いており、今回の20億元は既存施設を使う追加拡張に当たる。計画枚数の大きさと実際の供給量を分けて読む必要がある。
600万枚を3年で積み上げる計画
TrendForceによると、浙江先導微電子は既存の製造施設を改修・拡張し、結晶成長、精密研磨、欠陥検査に使う設備を導入する。対象は4〜6インチのGaAsとInPの単結晶基板だ。完成時の計画能力はGaAsが年300万枚、InPも年300万枚で、光チップ、光モジュール、無線周波数(RF)デバイスのメーカーへの供給を想定する。
今回導入される設備の範囲は、結晶成長から精密研磨、出荷前の欠陥検査まで及ぶ。浙江先導微電子はこれらの条件を調整し、顧客が指定する寸法や電気特性に合わせた基板を安定して作る必要がある。設備を据え付ければ終わる事業ではない。
2029年8月という日付は、発表された建設期間の終点である。全設備がその日に計画能力へ到達するとは公表されていない。結晶成長条件の調整、加工歩留まりの改善、顧客ごとの認定を経て、出荷量は段階的に増えるとみるのが妥当だ。
衢州の拠点整備は2023年に始まった
衢州市が公開した2025年3月付の環境影響報告書によると、浙江先導微電子は2023年3月に設立された広東先導稀材股份有限公司の子会社である。同社は衢州の東港片区と高新片区に工場を構え、東港では2023年4月に25億元を投じて「新一代半導体材料及器件生産基地項目」を始めた。製品構成を変更した後、同案件の環境影響報告書は2024年7月25日に承認されている。
同じ報告書では、東港と高新の両工場で承認済みだった4案件が、2025年3月時点でいずれも建設中、未検収と記録されていた。一方、浙江省系の高端新材料産業基金は、2023年に22.05億元を投資し、広東先導稀材と総投資110億元の集積回路材料・高端化合物半導体・器件模組基地を衢州で整備したと説明している。2024年後半から段階的に稼働し、2026年の全面稼働を見込む計画だった。
今回の基板案件は、この拠点の外に別の工場を一から建てる計画ではない。TrendForceは既存施設の増強と明記しており、2023年から整備してきた建屋やインフラに、GaAsとInPの結晶成長・加工設備を重ねる。先行投資を基板の量産へつなぐ次の工程と捉えると、20億元の使途が見えやすい。
GaAsとInP、それぞれの主な用途
GaAsとInPは同じIII-V族の化合物半導体だが、得意な用途は異なる。先導科技の公式製品情報では、GaAs基板の用途に4G・5G基地局や衛星通信、Wi-Fiモジュール向けのRFデバイスのほか、LEDと高効率太陽電池を挙げる。対するInPは、レーザーやフォトダイオード、変調器と光増幅器といった高速光電子デバイスに使われる。光モジュールの中では、電気信号と光信号を変換する部品の材料になる。
製品寸法も同一ではない。先導科技はGaAsを2〜8インチ、InPを2〜6インチで扱い、今回の衢州案件は両材料とも4〜6インチを対象とする。ただし、年300万枚という数字に占める4インチ品と6インチ品の比率は示されていない。
直径6インチの円は、直径4インチの円に比べて面積が2.25倍ある。同じ300万枚でも、サイズ構成が変われば加工する結晶量と、後工程で得られるデバイス数は大きく変わる。したがって、GaAsとInPを足した「年600万枚」は設備計画の規模を示す一方、材料供給量やデバイス換算の能力をそのまま表す数字ではない。
2029年までに何を見れば供給力が分かるか
公表情報からまだ分からないのは、4インチと6インチの生産比率、製品別の歩留まりである。顧客認定の進捗と各年の立ち上げ曲線も示されていない。先導科技の公式製品情報は、要求の厳しい光電子用途向けに低転位InP基板を用意していると説明する。計画枚数を満たしても、顧客が必要とする仕様で安定生産できなければ、光通信向けの実供給は増えない。
先導科技は公式情報で、金属から前駆体、ウェハ、特殊部品までを垂直統合していると説明する。今回の増強は、金属からウェハまでを社内でつなぐ同社の事業範囲に収まる。ただし、垂直統合は歩留まりや顧客認定を省略する仕組みではない。
2026年8月に予定通り工事が始まるか。続いて確認したいのは、建設完了後の歩留まり、4インチと6インチの構成、顧客認定、実際の量産ペースである。2029年8月までにこれらが具体化して初めて、20億元の投資計画が光通信とRFの供給力へ変わったと判断できる。



