中国で役目を終えた電気自動車(EV)は、2050年の新車を支える鉱山になり得る。ただし、どの素材にも同じ効果が及ぶわけではない。Nanjing University、Tsinghua University、国立環境研究所などの研究チームがJouleで公表したモデルでは、技術を段階的に組み合わせ、廃車と交換電池を全量回収し、処理効率も改善する条件で、再生材が中国国内のEV用リチウム需要の89%を賄う一方、ニッケルは35%、マンガンは37%にとどまった。循環の成否は工場内の処理効率に加え、廃車を正規ルートへ集められるか、次世代車がどの素材を使うかで分かれる。
89%と35%に分かれる2050年の再供給
研究チームは2010年から2050年までの中国を対象に、EVの導入、廃車、使用中の電池交換、回収性能を一つの都市代謝モデルへ組み込んだ。電池と駆動モーターの技術がどの速度で移り変わるかを4つのシナリオに分け、13元素の需要と廃棄フローを計算している。電池側ではリチウムから黒鉛まで8元素、モーター側では銅と4種の希土類を追った。
ここでいう「再供給可能性」は、廃EVと交換電池から回収し、その年の新しい電池・モーターへ戻せる素材量を、同年の中国国内EV部品製造需要で割った値だ。中国の鉱物自給率でも、回収工場の歩留まりでもない。技術を段階的に組み合わせ、全量回収と改善した処理効率を仮定すると、2050年の結果は次のように分かれる。
| 素材 | 2050年の中国国内EV部品製造需要に対する再供給可能性 | 読み方 |
|---|---|---|
| リチウム | 89% | 国内循環が需要の大半へ届く可能性 |
| ニッケル | 35% | 全量回収でも一次資源への依存が残る |
| マンガン | 37% | 将来の需要増に回収量が追いつかない |
| コバルト | 需要を上回る可能性 | 低コバルト化で新規需要が縮む |
| ネオジム、ジスプロシウム | 需要を上回る可能性 | モーター技術の転換に強く左右される |
モデル上の2050年の投入フローは、電池が5.1TWh、モーターが11TWに達する。これは保有車両に積まれた累積容量ではなく、その年に入る製品フローの予測である。廃棄側は2030年代以降に急増し、走行中に交換される電池も大きな供給源になる。廃車台数を数えるだけでは、戻ってくる電池量を捉えきれない。
新車として市場へ入ってから、電池交換や廃車を経て素材が戻るまでには長い時間差がある。このため、2050年に再供給比率が高くなる素材でも、販売が急増する足元の需要をすぐに廃車資源へ置き換えられるわけではない。研究の価値は採掘が不要になる時期を告げたことではなく、どの素材がいつ国内循環へ近づくかを分けて示した点にある。
コバルトが余り、ニッケルが足りない理由
再供給比率は回収量が増えれば上がる。しかし今回の研究では、分母となる需要も技術転換で大きく動く。低コバルト電池への移行が進むと、新しい電池に必要なコバルトが減る。その間も過去の高コバルト電池は廃棄期を迎えるため、回収したコバルトが同年の需要を上回る局面が生じ得る。
ニッケルとマンガンには逆方向の力が働く。将来の電池が両元素を多く使う経路では、廃電池から戻る量が増えても製造需要の伸びに追いつかない。リチウムが89%まで届く条件でも、ニッケル35%、マンガン37%という差が残るのはこのためだ。コバルトの「余剰」は回収産業の成功だけを示す数字ではなく、需要側が縮む効果を含んでいる。
モーター用希土類はさらに技術依存性が強い。ネオジムやジスプロシウムの使用を減らすモーター、セリウムで高価な希土類の一部を置き換える設計、希土類を使わない方式の普及速度によって、回収材の価値と行き先が変わる。電池の回収網だけを整えても、モーターを分解して磁石を選別し、同等品質で製品へ戻す経路がなければ、この供給源は取りこぼされる。
工程回収98%と全量回収は別の数字
中国の技術基準はすでに高い水準を求めている。工業情報化部(MIIT)が2024年に改定した業界規範では、認定を受ける再生利用企業について、破砕分離後の電極粉料回収率を98%以上、冶錬工程のリチウム回収率を90%以上とした。ニッケル、コバルト、マンガンも98%以上である。リチウムは従来の85%以上から引き上げられた。
ただし、これらは工場へ届いた電池から素材を取り出す工程効率だ。廃車や交換電池の何割がその工場へ届くかは別に測らなければならない。Joule論文の図は、回収を40%から10年かけて100%へ高める感度ケースを置いている。89%というリチウムの値は、この全量回収側の条件で得られた。
現実の回収網には大きな漏れがある。Engineeringに2026年4月掲載された別の研究は、中国の退役EV電池の70%超が規制外の非公式回収業者へ流れていると推計した。低い参入障壁と高い利益率により、非公式業者が認定企業より高値で廃電池を集めやすいという。70%超は別研究による流通先の推計であり、Jouleが置いた40%回収の補数でも、正規回収率の直接測定でもない。工場内の工程回収率が90〜98%の水準でも、入口へ届かなければ循環量は増えない。
デジタルIDで非公式ルートを塞げるか
中国政府は2026年4月1日、新しい「新能源汽车废旧动力电池回收和综合利用管理暂行办法」を施行した。電池パックごとに固有のデジタルIDを持たせ、製造から車両搭載まで、さらに交換・廃車後の回収と再生利用までを全国プラットフォームで追跡する。電池メーカーと自動車メーカーには、販売地域に応じた回収拠点の設置と回収責任を課した。整備業者や車両解体業者が取り外した電池を認定外へ渡すことも禁じている。
制度は廃車時の抜け道にも踏み込む。廃車となるEVから電池が失われていれば、原則として「車両欠失」と扱う。価値の高い電池だけを先に抜き、車体だけを正規解体へ持ち込む流れを追跡しやすくなる。
MIITによると、2025年の中国の新エネルギー車販売は1649万台で、新車全体の47.9%を占めた。同年に総合利用された廃旧動力電池は40万トンを超え、前年から32.9%増えた。2030年には年間発生量が100万トンを超えると見込まれる。すでに31の省級地域へ回収網を広げ、148社の中核企業を育成してきたが、これから増える量は追跡制度の実効性を直接試す。
再生材を使う側の制度が最後の接続点
追跡と回収が整っても、回収材を新しい電池やモーターへ戻す需要が自動で生まれるわけではない。Joule論文は、正規回収、閉ループ型の電池再生、モーターからの希土類回収に加え、新製品へ一定量の再生材を使う制度を強めるよう提案している。中国の2026年制度は「どこへ流れたか」を管理する仕組みを具体化したが、「新製品へどれだけ戻すか」は次の政策課題として残った。
素材ごとに時間軸も違う。コバルトや一部希土類では需要縮小が再供給比率を押し上げる一方、ニッケルとマンガンは全量回収でも一次資源が必要になる。したがって、鉱山開発を一律に回収へ置き換える計画は成り立たない。2030年に年間100万トンを超える廃電池が生じるまでに、デジタルIDで正規ルートへ戻る比率と、再生材が新製品へ入る比率の両方を測らなければ、進捗を確かめられない。技術組み合わせ、全量回収、処理効率改善を前提とした中国国内EV用リチウム需要の89%へ近づくには、その2つの比率を実際に引き上げる必要がある。



