米ベンチャーキャピタル大手Andreessen Horowitz(a16z)は、2026年10月23日付のニュースレターで、NVIDIA製GPUのレンタル料金が年初から上昇していると報告した。a16zの「Charts of the Week」によると、Ornn Dataが追跡する5機種すべてで賃料が2026年初めを上回っており、2020年に登場したA100も例外ではない。さらに、GPUの価値が6年間で均等に減少すると仮定した基準線と比較すると、10月19日時点の賃料は9〜143%高い水準にあるという。
ただし、この数字をGPUの資産価値が上昇した証拠と解釈するのは早計だ。最大の「+143%」はH200の数値であり、年初から143%値上がりしたことを意味するものではない。比較対象は、各GPUの最初の観測賃料から6年かけてゼロまで下がると仮定した基準線だ。同じ計算方法でA100の「+9%」を逆算すると、現在の賃料は観測開始時の約58%にまで下がっている。GPUの価値を評価するには、グラフの比較基準に加え、賃料指数が対象とする取引や、実際の企業会計で採用されている耐用年数を区別する必要がある。
年初比の上昇と6年償却線との差は別の数字
a16zが公開した2枚のグラフは、同じGPUの賃料を扱っているものの、比較基準が異なる。最初のグラフは2026年1月1日を100とした7日移動平均で、Ornn Dataの10月19日までのデータを使っている。対象はA100 SXM4、H100 SXM、H200、B200、RTX PRO 6000 WSの5機種だ。a16zは各機種のおおよその発売年として、A100を2020年、H100を2022年、H200とB200を2024年、RTX PRO 6000 WSを2025年と記している。
グラフを読み取ると、10月19日時点の指数はH200が約263、B200が約222、RTX PRO 6000 WSが約165、H100が約136、A100が約107となる。つまり、H200の賃料は年初の約2.6倍になった一方、A100の上昇率は約7%にとどまる。ただし、価格が年初から一貫して上昇してきたわけではない。H100とB200は2〜3月に指数が約77まで下がった後、4〜5月に反発している。
一方、2枚目の「GPU Rental Rates Aren't Depreciating On Schedule(GPUの賃料は想定どおりに減価していない)」と題するグラフは、各機種についてOrnnが最初に観測した賃料を100%としている。具体的には、最初に取得できた完全な7日平均を起点とし、そこから6年かけて賃料が直線的にゼロまで下がると仮定した基準線と、実際の賃料を比較したものだ。a16zによると、10月19日時点で実際の賃料が基準線を上回った割合は、A100が9%、H100が54%、H200が143%、B200が111%、RTX PRO 6000 WSが73%だった。
{
"type": "bar",
"title": "6年定額の基準線に対するGPU賃料の上振れ幅(2026年10月19日)",
"unit": "%",
"categories": ["A100 SXM4", "H100 SXM", "H200", "B200", "RTX PRO 6000 WS"],
"series": [
{ "name": "基準線との差", "values": [9, 54, 143, 111, 73] }
],
"caption": "機種ごとの最初の観測賃料を100%とし、6年間でゼロまで直線的に下がると仮定した基準線との差。計算式は「実際の賃料÷基準線の値−1」。年初比の値上がり率ではない。",
"source": "a16z Charts of the Week(2026年10月23日)、Ornn Data"
}このグラフで使われた上振れ率は、「実際の賃料÷基準線の値−1」で計算される。例えばH200の+143%は、10月19日の賃料が基準線の2.43倍だったことを意味する。基準線は時間の経過とともに下がるため、実際の賃料が横ばいでも上振れ率は次第に大きくなる。反対に、観測開始から日が浅い機種では基準線が100%に近いため、賃料そのものの上昇が上振れ率に強く反映される。
重要なのは、5機種の比較期間が揃っていないことだ。グラフの横軸によると、A100の観測開始は2024年初め、H100は2024年半ば、H200は2025年初め、B200とRTX PRO 6000 WSは2025年秋となっている。観測開始が早い機種ほど基準線は大きく低下しており、上振れ率をそのまま機種間の優劣や資産価値の上昇率として比較することはできない。
また、a16zは点線の凡例を「Six-year book value (% of original cost)」、すなわち取得原価に対する6年償却後の簿価と表記している。しかし、グラフの説明では最初に観測された賃料を100%としており、実際の取得原価を使っているわけではない。この点線は会計上の簿価ではなく、賃料に対して仮定した減少ペースを表す基準線である。そもそも、a16zはGPUが発売された時点から減価すると説明しているものの、グラフの起点は発売日ではない。A100についても、2020年の発売から2024年初めの観測開始までの賃料は比較に含まれていない。
A100の「+9%」を逆算すると、実際の賃料は約42%下落している
A100のデータを詳しく見ると、基準線を上回ることと、賃料が長期的に上昇していることの違いが明確になる。a16zのグラフでは、A100の観測開始は2024年初めだ。最初の完全な7日平均が2024年1月7日だったと仮定すると、2026年10月19日までの経過日数は1,016日、約2.78年となる。
6年間で100%からゼロまで直線的に下がる基準線を使えば、2.78年後の値は「1−2.78÷6」で約0.536となる。つまり、観測開始時の約54%だ。a16zによると、実際の賃料はこの基準線を9%上回っているため、0.536に1.09を掛けると約0.58となる。A100の賃料は観測開始時の約58%であり、約2年9か月の間に42%程度下落している計算だ。
ただし、この58%という値はa16zやOrnnが直接公表したものではなく、グラフから推定した観測開始日と、a16zが示した上振れ率を使った逆算値である。起点が1か月ずれると、計算結果も約1.5ポイント変わる。実際にグラフの線を読み取っても、A100の最新値は観測開始時の約55〜58%の範囲にあり、基準線とほぼ重なっている。なお、ここで比較しているのはGPUのレンタル料金であり、中古GPUの売買価格や会計上の簿価ではない。
2026年初めとの比較では、A100の賃料は約7%上昇している。しかし、2024年初めからの長期的な推移では4割以上下がっているため、「年初より高い」「6年償却の基準線より高い」「長期的に価値が上昇している」という3つの主張は同じ意味ではない。
a16z自身も、A100とH100の賃料は、観測期間の大半で6年償却の基準線を下回っていたと認めている。そのうえで、長期的な比較だけでは2026年春以降の市場変化を十分に捉えられないとし、4月から始まったGPU需要の拡大を重視している。ニュースレターでは、OpenRouterのデータを使い、トークン需要が春から急増し、夏の終わりに一時的に伸びが鈍化した後、再び増加したことを示した。A100の賃料も春から初夏にかけて基準線を上回り、その後いったん下がってから、10月19日時点では再びわずかに上回っている。
もっとも、OpenRouterが把握しているトークン利用量は市場全体の一部にすぎない。a16zも、これらのデータがトークン支出やGPU価格の全体像を正確に表すものではないと断っている。GPU需要の拡大を示唆する材料ではあるが、それだけで市場全体の需給状況や資産価値の変化を確定することはできない。
GPU賃料指数「OCPI」は何を測定しているのか
a16zのグラフには「Ornn Data」と出所が記載されているが、具体的な指数名は明記されていない。Ornnが公開しているGPU賃料指数には「Ornn Compute Price Index(OCPI)」があり、A100、H100、H200、B200、RTX PRO 6000の各系列を提供している。a16zが使ったデータもこれらの系列とみられるが、明示的な対応関係は確認できない。したがって、指数の性質を理解するうえでは、Ornnが公開しているOCPIの算出方法を参考にする必要がある。
OCPIは、GPUを実際にレンタルした際に成立した取引価格を基に算出される指数だ。Ornnは、価格が需要に応じて変動する世界各地のGPU事業者から匿名化されたデータを集め、オンデマンドで貸し出されているGPUについて、1基を1時間利用する際の米ドル建て料金を記録している。事業者が料金表に掲載した価格や、取引が成立していない提示価格ではなく、実際に支払われている価格を対象とする点が特徴だ。
ただし、OCPIが対象とするのはオンデマンドの取引だけであり、予約契約、長期契約、将来の利用を約束する先渡し契約は含まれない。 Ornnは、こうした契約では利用期間や前払い条件、割引率などが個別に交渉されるため、同じ条件の価格として比較しにくいと説明している。長期契約などに関する価格情報は、別のフォワードカーブとして扱われる。
指数の算出には、GPUの種類ごとに直近1時間の取引価格を集め、取引数量で重み付けしたウィンソライズ平均が使われる。ウィンソライズとは、一定の範囲から外れた極端な値を除外するのではなく、その範囲の上限または下限に置き換えて平均を求める手法だ。これにより、少数の極端な価格が指数全体を大きく動かす影響を抑えられる。OCPIの時間単位の指数計算には、この処理以外の平滑化は加えられていない。a16zがグラフに使った7日移動平均とは別のものである。
Ornnが公開した2026年10月25日の確定値では、A100 SXM4が1GPU・1時間あたり1.09ドル、H100 SXMが3.03ドル、H200が6.30ドル、B200が9.70ドルだった。A100は10月19日時点では1.00ドルとなっている。1ドル=158円で参考換算すると、10月25日のA100は1時間あたり約172円、H100は約479円に相当する。A100を30日間、合計720時間利用した場合は784.8ドル、約12万4,000円という計算になる。
ただし、これは指数の値を使った単純な試算であり、その料金で実際に契約できることを意味しない。国内クラウドの料金や個別の契約条件を反映したものでもない。実際、Ornnが比較した4つのGPUクラウドでは、10月6日時点のH100 SXMの公表オンデマンド料金は1時間あたり3.49〜6.16ドルだった。10月25日のOCPI-H100の3.03ドルと比べると、15.2〜103.3%高い。比較する日付が19日異なる点には注意が必要だが、公表料金と実際の約定価格には大きな差が生じ得ることが分かる。
したがって、a16zのグラフがOCPIの系列を使っているのであれば、示されているのはオンデマンド市場で実際に成立した賃料の変化だ。長期契約の価格やGPUの中古売買価格、所有企業の会計上の資産価値まで測定しているわけではない。オンデマンド賃料はGPUの収益性を考えるうえで重要な指標だが、それだけで残存価値を判断するには不十分である。
Amazonは5年、Metaは5.5年――GPUの耐用年数は企業によって異なる
a16zは賃料の比較基準として6年間の定額償却を採用している。しかし、実際の企業会計で使われる耐用年数は一律ではなく、AI関連設備については企業ごとに異なる判断が行われている。
Amazonは2025年のForm 10-K(年次報告書)で、2025年1月1日から一部のサーバーとネットワーク機器の推定耐用年数を6年から5年に短縮したことを明らかにした。理由として挙げたのは、特にAIと機械学習の分野における技術進歩の速さだ。この変更により、2025年の減価償却費は14億ドル増加した。同社は2024年にはサーバーの推定耐用年数を5年から6年へ延長していたが、その翌年に一部の設備について判断を見直したことになる。
一方、Metaは2025年のForm 10-Kで、大半のサーバーとネットワーク資産の推定耐用年数を2025年1月1日から5.5年に延長したと説明している。この変更によって、2025年の減価償却費は29億2,000万ドル減少した。Alphabetは2023年1月の見直しでサーバーと一部のネットワーク機器の耐用年数を6年に変更している。また、Microsoftも2022年7月にサーバーとネットワーク機器の耐用年数を4年から6年へ延長し、2023会計年度から適用した。
Microsoftは2023年の年次報告書で、ソフトウェアへの投資によってサーバーやネットワーク機器の運用効率が向上したことに加え、技術の進歩を耐用年数延長の理由に挙げている。Amazonが技術進歩の速さを理由に一部の設備の耐用年数を短縮したのとは対照的だ。各社は設備の用途や運用方法、将来の利用見通しを踏まえて判断しており、GPU賃料の変動だけを基準にしているわけではない。
また、これらの耐用年数はサーバーやネットワーク機器という資産群に対する会計上の見積もりであり、A100やH100など特定世代のGPUについて個別に定めたものではない。企業がGPUを何年間使用するかという運用上の判断とも、必ずしも一致しない。
ここまでに登場した主要な数値を整理すると、以下のようになる。
| 数値・指標 | 比較基準 | 単位 | 対象・意味 |
|---|---|---|---|
| H200の+143% | 最初の観測賃料から6年定額で下がると仮定した基準線 | % | 2026年10月19日時点のH200の7日平均賃料と基準線の差 |
| 年初比:H200約263、A100約107 | 2026年1月1日=100 | 指数 | 10月19日時点の7日平均賃料。a16zのグラフからの読み取り |
| A100の1.09ドル | 比較基準なし | 米ドル/GPU・時間 | 2026年10月25日のOCPIオンデマンド賃料指数 |
| Amazonの5年 | 会計上の推定耐用年数 | 年 | 一部のサーバーとネットワーク機器 |
| Metaの5.5年 | 会計上の推定耐用年数 | 年 | 大半のサーバーとネットワーク資産 |
| Alphabet・Microsoftの6年 | 会計上の推定耐用年数 | 年 | サーバーと対象となるネットワーク機器 |
表の上位3項目は、OCPIの系列を用いているのであれば、いずれもGPUのオンデマンド賃料に関する数字だ。一方、下位3項目は企業の会計上の見積もりであり、測定対象も算出方法も異なる。年初比の指数と6年償却線との差を直接比較できないのと同様に、賃料が基準線を上回ったことだけで、5年と6年のどちらの耐用年数が適切かを判断することもできない。
さらに、GPUを所有する企業の経済的な価値を評価するには、賃料だけでなく、設備の稼働率、電力費、保守費用、取得原価、長期契約による収益、将来の売却価格なども考慮する必要がある。オンデマンド賃料が上昇しても、設備の維持費が増えたり稼働率が低下したりすれば、必ずしも収益性が改善するとは限らない。a16zのグラフはGPU需要の変化を示す材料ではあるが、資産の減価償却が妥当かどうかを直接検証したものではない。
Ornnはa16zの出資先、GPU先物の上場を前に問われる指数の透明性
今回のデータを評価するうえでは、指数を提供するOrnnとa16zの関係も重要だ。a16z cryptoは2026年6月24日、Ornnが実施した3,300万ドルのシード資金調達を主導したと発表している。投資発表では、GPUやデータセンターなどの計算資源が重要な資産になりつつある一方、石油やエネルギーのような市場と比べて、信頼できる価格指標や価格変動をヘッジする手段が不足していると指摘した。Ornnが開発するOCPIを、こうした市場の基盤となる指標として紹介している。
しかし、10月23日のa16zのニュースレターでは、グラフの出所としてOrnn Dataを明記しているものの、a16z cryptoが同社に出資していることには本文中で触れていない。記事末尾には投資先などに関する一般的な免責事項と、投資先一覧へのリンクが設けられている。出資関係があること自体はデータの正確性を否定する理由にはならないが、データ提供企業の事業価値と、そのデータを使った市場分析が関係している点は、読者が評価するうえで重要な情報だ。
Ornn自身も、OCPIの方法論で利益相反の問題を認めている。指数の算出を担うOrnnと、GPU計算資源の取引や受け渡しに関わる関連会社が共通の所有関係にあるため、指数の公正な算出と関連会社の商業的利益の間に構造的な利益相反が存在すると説明している。一方、Ornnおよび関連会社は、OCPIに連動する金融商品の売買やマーケットメイクを行っていないとしており、利益相反を管理するための正式な手続きを整備している段階だ。
こうした指数の透明性が一段と重要になるのが、GPU賃料に連動する先物市場の創設である。Intercontinental Exchange(ICE)とOrnnは2026年5月19日、OCPIを決済基準とするGPU計算資源先物を導入する計画を発表した。Ornnの共同創業者でCEOのKush Bavaria氏は、計算資源が1兆ドル規模の市場に成長している一方、他の主要商品市場で使われている価格決定やリスク移転の仕組みが整っていないと説明している。
ICE Futures U.S.が9月29日に発行した通知によると、最初の上場予定商品はOCPI H100先物(HPR)とOCPI B200先物(BKL)の2種類である。いずれも月次の現金決済型で、対象月における指数の日次価格の平均を最終決済価格として使用する。日次価格は、OCPIが公表する1時間ごとの指数値を平均して算出される仕組みだ。
ただし、先物の上場は米商品先物取引委員会(CFTC)の意見募集手続きの完了が条件となっており、ICEは上場日を確定していない。10月5日からは市場参加者向けに指数データや仮想的な日次決済価格の提供を始めると発表したが、これは取引システムの開発や準備のためのもので、先物取引の開始を意味するものではない。
OCPIを基準とする先物が上場すれば、指数の数値は単なる市場分析の参考資料ではなく、取引参加者の損益を左右する決済基準となる。その際には、オンデマンド取引だけを対象とする指数が市場全体の価格変動をどの程度代表できるのか、取引データの収集範囲が十分か、価格操作を防ぐ仕組みや利益相反の管理が機能しているかが問われることになる。
今回のa16zのグラフから確実に読み取れるのは、Ornn Dataが追跡するGPU賃料が2026年初めから上昇し、6年定額償却を仮定した基準線も上回っているという点だ。しかし、A100の賃料は観測開始時の約58%まで下がっており、古いGPUの価値が一貫して上昇してきたわけではない。また、企業会計で用いられる耐用年数も5〜6年と異なり、オンデマンド賃料だけでは資産価値の妥当性を判断できない。今後はGPU賃料の上昇がどこまで続くのかに加え、長期契約価格や中古市場の動向、そしてOCPIを使った先物市場の整備が、GPUの経済的価値を見極めるうえで重要になる。



