CrowdStrikeが2026年8月3日に発表した「2026 Threat Hunting Report」と、Palo Alto Networksの脅威インテリジェンスチームUnit 42が7月30日に報告した事例は、サイバーセキュリティにおける人工知能(AI)の立ち位置が根本的に変わったことを示している。AIはもはや攻撃者を支援する道具の枠を超えた。それ自体が自律的に動く「武器」となり、同時に攻撃者から最も狙われる「標的」となっている。
過去1年間でAIを利用した悪意ある活動は89%増加した。この数字は、攻撃者がAIを組み込むことで、攻撃の規模を拡大し、速度を上げている事実を裏付けるものだ。企業がビジネスにAIを組み込むスピードに比例して、攻撃者もAIインフラを標的とし、ソフトウェアのサプライチェーンを侵害し始めている。防御側は今、かつてないスピードと規模で進行する自動化された脅威の波に直面している。
AIが自律的に標的を狩る時代
Unit 42が特定した中国語話者の脅威アクター「knaithe(またはKnYuan)」の動きは、自律型攻撃の現実を浮き彫りにしている。彼らはオープンソースのフレームワーク「Hermes Agent」にAIモデル「DeepSeek」を推論エンジンとして組み込み、攻撃の自動化を試みた。Telegram経由で指示を受けると、このAIエージェントは人間の介入なしに標的を列挙し、脆弱性を調査し、エクスプロイト(攻撃コード)をダウンロードして攻撃を実行する。
この自律型エージェントの動きは非常に組織的だった。例えば、Langflowやワークフロー自動化ツールであるn8nの脆弱性を狙った攻撃では、検索エンジンFOFAを利用してインターネット上に露出した資産を見つけ出し、GitHubから最新の脆弱性実証コード(PoC)を自律的に検索した。DeepSeekは対象の展開数やCVSSスコア(重大度)を自律的に評価し、価値が低いと判断すれば別の標的へと即座に方針を転換する柔軟性を見せた。
実際にこのアクターは460以上のシステムを標的にした。現時点では、Langflowの環境で自動ログインが無効化されていたり、n8nのフォームに認証が設定されていたりしたため、完全な侵害に至ったケースは限定的だったとされている。しかし、ターゲットの選定からエクスプロイトの試行までをAIが自律的に判断し、リソースを管理しながら本来であれば数百時間かかる手作業を数分で処理した事実は重い。彼らはCitrix NetScalerやMarimo Notebookを狙った手動攻撃ではデータの引き出しやコマンド実行を成功させており、自律型攻撃がこれらの手法を学習して精度を上げれば、被害の規模は一気に拡大するだろう。技術的な障壁は確実に下がっている。
崩壊するパッチウィンドウとアラートの洪水
攻撃の自動化と自律化は、防御側に残されていた時間的猶予を完全に消し去った。CrowdStrikeの報告によれば、PoCが公開された脆弱性のうち、実に88%は48時間以内に悪用が開始されている。さらに、中国系の脅威アクターであるVault PandaやGenesis Pandaは、脆弱性の公開から24時間以内に意図的な攻撃を仕掛けている。
これまで多くの組織が目標としてきた「30日以内のパッチ適用」という基準は、もはや過去の遺物となった。現在の防御側は、24〜48時間という極端に短いパッチサイクルでの対応を迫られている。脆弱性が公開された翌日には、AIが生成したスクリプトやコマンドを用いた攻撃がインターネット中を駆け巡る状況だ。
さらに防御側を苦しめているのが、AIによって生成されるノイズの量である。CrowdStrikeの脅威ハンティングチームの観測では、毎日平均1400万件の検知リードを処理しているが、AIエージェントに起因する検知数は人間が引き起こす検知数の2.5倍に達しているという。攻撃者がAIを使ってスキャンや初期攻撃を大規模かつ無差別に展開しているため、防御側は真の脅威を膨大なアラートの中から見つけ出さなければならない。AIが引き起こす大量のシグナルに埋もれるリスクは高まっている。
標的となるAIインフラとサプライチェーン
AIは攻撃の強力な武器であると同時に、攻撃者にとって価値の高い標的へと変化した。特に顕著なのが、大規模言語モデル(LLM)へのアクセス権そのものを乗っ取る「LLMjacking」と呼ばれる手法の登場だ。ある攻撃では、クラウドプロバイダーの基盤モデルサービスに対して脅威アクターが管理者権限を奪取し、APIリクエストを2分間で20万回近く送信するという事態が発生した。トークン泥棒がインフラを悪用し、企業のAI利用コストを意図的に跳ね上げるコストハーベスティングの動きも見られる。
開発環境やオープンソースのサプライチェーンもまた、AIエコシステムにおける新たな主戦場となっている。北朝鮮系の脅威グループFamous Chollimaは、AI生成のウェブサイトやGitHubアカウント、電子メール基盤を駆使して架空の企業を設立し、内部への侵入を支援した。彼らの関連グループであるStardust Chollimaは、npmパッケージのメンテナーの認証情報を盗み出し、Mastra AIフレームワークの131のパッケージに悪意ある依存関係を注入している。この際、LinkedInのビデオ通話を通じて社員に接触し、巧妙にマルウェアリンクを踏ませるという手法が用いられた。
また、金銭目的の犯罪グループAltered Spiderは、単一のキャンペーンで1日に300以上のソフトウェア依存関係を侵害している。彼らは盗み出したメンテナーの認証情報を使って、自動化されたビルドパイプライン内で認証情報を盗むマルウェアを実行させた。開発者がAIフレームワークやツールを導入する過程で、これらの汚染されたパッケージを取り込んでしまえば、数分後にはクラウド環境の深部まで侵入を許すことになる。
対策のスピードが問われる新たな防衛戦
企業は競争力を維持するために最新のAIを導入しようとしているが、そのAIインフラ自体が防御の手薄な攻撃対象領域を生み出している。AIを防御の武器として活用するだけでなく、AIインフラやそれに付随するサプライチェーンそのものをどう守るかが問われている。
攻撃者が自律型エージェントの改良を進め、マシンスピードで次々と脆弱性を突いてくる現在、防御側にもAIの導入速度と同等以上のスピードでセキュリティ対策を組み込むことが求められている。もはや手動のアラート確認や数週間単位のパッチ適用サイクルでは対抗できない。AIインフラの監視を強化し、自動化された防御と対応の仕組みを構築することが、これからの時代における最低限の防衛ラインとなる。



