テクノロジーと科学の最新の話題を毎日配信中!!

Amazonが独自の推論AIモデル「Nova」を開発中、2025年6月にもリリースか

Y Kobayashi

2025年3月6日

Amazonが新たな推論AIモデル「Nova」を2025年6月にリリース予定であることがわかった。ハイブリッド推論アプローチを採用し、迅速な回答と複雑な思考を一つのシステムで提供する本モデルは、OpenAIやAnthropicなどの競合に対して価格競争力を強みとする戦略だ。

「ハイブリッド推論」アプローチを採用するNovaモデル

Amazonは2025年6月を目標に、独自の推論AI(Reasoning AI)モデルを「Nova」ブランドの下でリリースする計画を進めている。Business Insiderが入手した情報によると、このプロジェクトに直接関わる関係者は、新モデルが「ハイブリッド推論」アプローチを採用すると述べている。これは、迅速な回答と複雑な拡張思考を単一システム内で提供する機能を指す。

推論モデルは最近のAI開発における次のフロンティアとして注目されている。これらのモデルはより時間をかけて動作するが、複数の解決策を試し、「思考の連鎖(Chain-of-Thought: CoT)」技術によって後戻りすることで、より困難な問題に取り組むことができる。このアプローチはAnthropicの最新モデルであるClaude 3.7 Sonnetが採用しているものと似たものと言えるだろう。

開発は、Rohit Prasad主席科学者率いるAmazonのAGI(汎用人工知能)チームが担当している。AmazonはBedrock AIプラットフォームを通じて複数のAIモデルを提供する「モデル選択の必要性」を説きながらも、独自のAIモデルファミリーへの投資にコミットしている姿勢を示している。

既存のNovaモデルについて、Amazonは同社のBedrock AI開発プラットフォームで利用可能なサードパーティモデルと比較して、少なくとも75%安価だと主張している。この価格競争力は、新しい推論モデルにも引き継がれる見込みだ。

競合状況と市場ポジショニング

AIにおける推論能力の開発競争は激化している。Amazonの新モデルは、OpenAIのo1(またはo3-mini)、AnthropicのClaude 3.7 Sonnet、GoogleのGemini 2.0 Flash Thinking、さらに中国のAIラボDeepSeekなどが提供する推論モデルと直接競合することになる。

Business Insiderの報道によれば、Amazonの重要な優先事項の一つは、競合他社よりも価格効率の高い推論モデルを作ることのようで、OpenAI、Anthropic、Googleを下回ることを計画している。ただし、DeepSeekが開発したモデルは信じられないほど安価な価格設定で知られているため、これは高いハードルかもしれない。

価格競争力に加えて、Amazonはパフォーマンスでも差別化を図る計画だ。関係者によれば、同社はソフトウェア開発と数学スキルを評価する外部ベンチマーク(SWE、Berkeley Function Calling Leaderboard、AIMEなど)で、上位5位以内のランク入りを目指しているという。

AmazonはAnthropicに約80億ドルを投資しており、両社は緊密なパートナーシップを維持している。AI半導体やクラウドコンピューティングの分野での協力も進めている。しかし、Amazonの独自モデル開発は、Anthropicとの競合関係も意味する。特にAnthropicの最新モデルであるClaude 3.7 Sonnetは、同様のハイブリッドアプローチを採用していることから、市場では直接的な競合になると見られている。

AWSのエージェンティックAI戦略と組織再編

Amazonの推論モデル開発と並行して、同社のクラウド部門であるAWSは組織再編を行っている。Reutersが入手した内部メールによれば、AWSは「エージェンティックAI」に焦点を当てた新しいグループを形成した。このグループはSwami Sivasubramanian氏が率い、AWS CEOのMatt Garman氏に直接報告する体制となる。

Garman氏は内部メールで「エージェンティックAIはAWSにとって次の数十億ドル規模のビジネスになる可能性がある」と述べている。エージェンティックAIとは、ユーザーが明示的にプロンプトを与えなくても自動的にタスクを実行するAIシステムを指す。Amazonは先週、一部の顧客に向けて今月後半にリリース予定の音声サービスAlexaの更新版でこうした機能を紹介していた。

また、AWS上級副社長のPeter DeSantis氏も内部メールでAWS内の追加的な組織再編を発表している。これには、BedrockやSageMakerなどのAIグループとハードウェアエンジニアリングをコンピュート組織の下に統合することや、カスタマーエクスペリエンスとコマースを組み合わせた新しいグループの形成が含まれる。DeSantis氏はこれらの変更が「イノベーションを加速する」と述べている。

AWSはAmazonのAI戦略の重要な要素であり続けているため、この焦点は論理的だ。2024年11月には、AmazonはNVIDIAのグラフィックカードへの依存度を減らすための投資も増やしている。

推論モデルの現状と課題

推論AIモデルは、より複雑な問題解決能力を持つという点で従来の言語モデルからの進化を示しているが、現状ではまだ発展途上の技術だ。推論モデルは「ステップバイステップの、より熟考されたアプローチで質問に答える」特徴があり、「これは数学や科学などの領域での信頼性を高める傾向がある」という。

しかし、現在のAIモデルの推論能力はまだ比較的基本的だ。例えば、推論に特化したモデルであるOpenAIのo3-mini(high)でさえ、現在のベンチマークで44.8%の精度しか達成していない。また、AIエージェントの開発も同様に初期段階にある。

Amazonが推論AIモデル市場で成功するためには、技術的な卓越性と価格競争力のバランスが重要となる。DeepSeekのような競合他社は既に非常に低価格なモデルを提供しており、Amazonの価格競争力に対する野心は「高いハードル」になる可能性もありそうだ。同時に、外部ベンチマークで上位5位以内を目指すという目標は、同社がこの分野でリーダーの一員になることを意味するが、まだ「追いつこうとしている段階」であることも示唆している。


Sources

Follow Me !

\ この記事が気に入ったら是非フォローを! /

フォローする

コメントする