2025年第4四半期(10-12月期)、世界のCPU市場は数十年に一度とも言える構造的パラダイムシフトの渦中にあった。長らく「80対20」の比率で固定されていたIntelとAMDの勢力図が、ついに「70対30」の領域へと塗り替えられたのである。
調査会社Mercury Researchが発表した最新データによれば、AMDはx86プロセッサ全体の出荷台数シェアで29.2%という過去最高記録を樹立した。さらに驚くべきは収益ベースのシェアであり、35.4%という極めて高い水準に達している。これは、AMDが単に安価なチップを大量に売っているのではなく、市場で最も利益率の高い「プレミアムセグメント」においてIntelから主導権を奪いつつあることを示唆している。
デスクトップ市場を席巻するRyzenの「質的勝利」
AMDの躍進が最も顕著に現れたのは、自作PCユーザーやゲーマーが主戦場となるデスクトップ市場だ。2025年Q4におけるAMDのデスクトップCPUシェアは、出荷台数ベースで36.4%、収益ベースでは42.6%に達した。前年同期の収益シェアが28.0%であったことを踏まえると、わずか1年で14.6ポイントという驚異的な成長を遂げたことになる。
この成長の原動力となったのは、圧倒的なゲーミング性能を誇る「Ryzen 7 9800X3D」や、最新の「Ryzen 7 9850X3D」といった3D V-Cache搭載モデルだ。競合であるインテルの第14世代CoreプロセッサやCore Ultraシリーズが供給不足や性能の伸び悩みに直面する中、AMDはゲーミング市場における「最速」の称号を盤石なものにした。
興味深いのは、最新世代だけでなく、旧世代のAM4プラットフォームも依然として強い需要を維持している点である。これは、2025年末から深刻化している「世界的なメモリ危機(RAMaggedon)」の影響が大きい。最新のDDR5メモリ価格が高騰する中で、比較的安価なDDR4メモリを使用できるAM4システムが、コストパフォーマンスを重視するユーザー層の受け皿となっているのだ。
モバイル市場の攻防:Ryzen AIとPanther Lakeの激突
ノートPC向けのモバイル市場においても、AMDは26.0%のユニットシェアを確保し、過去最高の記録を更新した。かつて「ノートPCならIntel」という常識が支配していたこのセグメントで、AMDが4分の1以上のシェアを占めるに至った背景には、緻密な製品ポートフォリオ戦略がある。
AMDは、ビジネス向けの「Ryzen AI 300/400」シリーズや、クリエイター向けの強力な内蔵グラフィックスを備えた「Ryzen AI MAX(Strix Halo)」シリーズを展開し、AI PC市場でのポジションを急速に確立した。これに対し、Intelは次世代プロセス「Intel 18A」を用いたPanther Lake(Core Ultra Series 3)で反撃を試みているが、AMDはすでにRyzen AI MAXがPanther Lakeに対してグラフィックス性能で最大37%上回るとのデータを提示し、牽制を強めている。
サーバー市場の「静かなる革命」と2nmプロセスの衝撃
収益面で最もインパクトが大きいのはサーバー市場(EPYC)である。AMDのサーバー向け収益シェアは41.3%に達し、過去最高を記録した。ユニットシェアは28.8%と3割に迫る勢いであり、データセンターにおけるインテルの独占体制は過去のものとなりつつある。
AMDは2026年、さらなる一手を投じる。CES 2026で公開された次世代アーキテクチャ「Zen 6(コードネーム:Venice)」である。これはTSMCの2nmプロセスを採用した野心的な設計で、最大256コアを搭載し、スループット重視の8ワイド・ディスパッチ・エンジンを導入するという、Zen 5までとは一線を画す「根本的な再設計」が施されている。この「Venice」は、AI学習や推論に最適化されたHelios AIラックの一部として提供され、IntelのXeonに対する技術的優位を決定づける可能性を秘めている。
| セグメント | 2025 Q4 ユニットシェア | 2025 Q4 収益シェア | 収益シェア前年比 (Y/Y) |
|---|---|---|---|
| デスクトップ | 36.4% | 42.6% | +14.6% |
| モバイル | 26.0% | 24.9% | +3.3% |
| サーバー | 28.8% | 41.3% | +4.9% |
| 合計 (x86) | 29.2% | 35.4% | +6.8% |
Intelの苦渋の決断:供給不足が招いた戦略的後退
Intelがこれほどのシェア喪失を許した背景には、自社の製造能力(ファブ)とTSMCへの委託分の双方で生じた供給制約がある。2025年後半、Intelは限られた製造リソースをどこに割り当てるかという「苦渋の選択」を迫られた。
結果としてIntelは、利益率が最も高いサーバー向けCPUの供給を優先し、デスクトップおよびモバイル向けの供給を制限する判断を下した。この戦略的後退が、皮肉にもAMDにデスクトップ市場での歴史的記録を献上することとなったのである。インテルは2026年から2027年にかけて、18Aプロセスの本格稼働により巻き返しを図る構えだが、一度AMD製品の優秀さを知ったOEMメーカーやデータセンター事業者を呼び戻すのは容易ではないだろう。
2026年、CPU市場が直面する「新たな不確実性」
AMDの躍進は続くことが予想されるが、市場全体には新たな暗雲が立ち込めている。前述した「メモリ価格の暴騰」である。AIデータセンター向けのHBM(高帯域幅メモリ)需要が世界中の製造ラインを占拠しており、消費者向けのDDR5やSSD用NANDの供給が逼迫している。2026年にはPC価格が15〜20%上昇するとの予測もあり、これが全体の出荷台数にブレーキをかけるリスクがある。
さらに、x86陣営全体の脅威として「Armアーキテクチャ」の台頭も見逃せない。AppleのMacやArmベースのChromebook、さらにはQualcommのSnapdragon X2シリーズなどの普及により、ArmのPCシェアは13.3%に達している。
AMDは、強力な製品ミックスと「Zen 6」への移行という武器を手に、この激動の2026年を突き進もうとしている。Intelとのシェア差は27ポイントまで縮まっており、かつての圧倒的な巨人は今、背後に迫る「赤色の影」に怯えながら、自らの製造プロセスの完成を急いでいる。
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