AMDの次世代ワークステーション向けCPU、Ryzen Threadripper 9000シリーズの発売が目前に迫る中、その驚異的な性能を示すベンチマーク結果がインターネット上に次々とリークされ、業界に衝撃が走っている。特にフラッグシップモデル「PRO 9995WX」は、特定のテストで前世代を70%以上も上回るという驚愕のスコアを叩き出したと報じられている。しかし、その数値は真の実力を反映しているのだろうか。

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衝撃のCinebenchスコア、前世代を圧倒するも浮かび上がる疑問

今回のリーク情報で最も注目を集めているのが、96コア192スレッドを搭載する最上位モデル「Ryzen Threadripper PRO 9995WX」のCinebench R23におけるマルチコア性能だ。中国のハードウェアコミュニティChiphellを発端とする情報によれば、このCPUは173,452ポイントという驚異的なスコアを記録したとされている。

これは、同じ96コアを搭載する前世代のフラッグシップ「PRO 7995WX」が通常記録する約100,000〜110,000ポイントと比較して、実に60%から70%以上もの性能向上を意味する。コア数とスレッド数が同じであるにもかかわらず、これほどの世代間ジャンプは常識的には考えにくい。まさに度肝を抜く数字と言えるだろう。

しかし、この圧倒的なスコアにはいくつかの但し書きが必要だ。リーク情報の発信元であるChiphellの編集者によれば、このテストはマザーボードのBIOS設定でPBO(Precision Boost Overdrive)を最大限に活用した状態で行われ、その際の消費電力は最大で840Wにも達したという。これは標準のTDP(熱設計電力)である350Wを遥かに超える数値であり、一般的な空冷や簡易水冷クーラーでは到底管理できないレベルの電力と発熱だ。

この事実から、リークされたスコアは、特殊かつ高度な冷却システムの下でCPUのポテンシャルを極限まで引き出した結果である可能性が極めて高い。

つまり、このCinebenchのスコアは「Zen 5世代のThreadripperが、電力と冷却の制約を取り払った時にどれほどのモンスターになり得るか」というポテンシャルを示したものであり、我々が一般的なワークステーション環境で体験できる性能とは異なる可能性が高い。この点を冷静に認識しておく必要があるだろう。

Zen 5がもたらす着実な進化 – Geekbenchが示す実像

派手なCinebenchのスコアとは対照的に、より現実的な性能向上を示唆しているのが、Geekbench 6のベンチマーク結果だ。こちらも複数のリークが登場している。

Ryzen Threadripper PRO 9995WX (96コア)

  • シングルコア: 最大3,122ポイント(前世代7995WX比で約14%向上)
  • マルチコア: 最大30,170ポイント(前世代7995WX比で約15-16%向上)

Ryzen Threadripper 9980X (64コア)

  • シングルコア: 3,259ポイント(前世代7980X比で約11%向上)
  • マルチコア: 28,666ポイント(前世代7980X比で約16%向上)

Geekbenchで示された10%台半ばの性能向上は、Cinebenchの60%超という数値に比べれば地味に見えるかもしれない。しかし、これこそがZen 5アーキテクチャの着実な進化を反映した、より現実的な姿ではないだろうか。

AMDはZen 5アーキテクチャについて、前世代のZen 4に対して平均10%台のIPC(クロックあたりの命令実行数)向上を実現したと公式に発表している。これに加えて、Threadripper 9000シリーズでは最大ブーストクロックが前世代の5.1GHzから5.4GHzへと300MHz引き上げられている。この二つの要素を掛け合わせれば、Geekbenchが示す10%台半ばの性能向上は、技術的に非常に納得のいく、妥当な数値と言える。

また、Geekbenchというベンチマークの特性も考慮する必要がある。このテストは、PDFレンダリングやファイル圧縮といった日常的なタスクをシミュレートする短期的なもので、Threadripperのような超メニーコアCPUの全リソースを数分間にわたって使い切るようには設計されていない。そのため、純粋な演算能力よりも、個々のコアの応答性や短時間でのブースト性能がスコアに影響しやすい。このことが、Cinebenchのような持続的な高負荷テストとの間に大きな差を生む一因となっている。

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HEDTの王者「9980X」とワークステーション下位モデル「9965WX」の実力

フラッグシップの9995WXに注目が集まるが、他のモデルのリーク情報も興味深い。

ハイエンドデスクトップ(HEDT)向けの最上位モデルとなる64コアのRyzen Threadripper 9980Xは、Geekbenchでの堅実な性能向上に加え、PassMarkのCPU Markテストでは前世代を7.7%上回り、デスクトップCPUとしてトップスコアを記録したと報じられている。これは、クリエイターやエンスージアストにとって、新たなHEDTの王者が誕生したことを示唆している。

さらに注目すべきは、ワークステーション向けPROシリーズのエントリーモデルにあたる24コアのRyzen Threadripper PRO 9965WXだ。このCPUはCinebench R23で60,336ポイントを記録。これは前世代の同格モデル7965WX(24コア)を約22%上回るだけでなく、なんと前世代の上位モデルである7975WX(32コア)に匹敵するスコアである。

コア数が25%も少ないにもかかわらず、一世代上の32コアCPUと肩を並べるという、まさに「性能の下剋上」だ。これは、Zen 5アーキテクチャの効率性が、コア数のハンデを乗り越えるほどのインパクトを持つことを示している。コストパフォーマンスを重視するプロフェッショナルユーザーにとって、この9965WXは非常に魅力的な選択肢となるかもしれない。

リーク情報から読み解くThreadripper 9000シリーズの全体像と展望

断片的なリーク情報を統合すると、Zen 5世代のThreadripper 9000シリーズの全体像が浮かび上がってくる。

  1. 基本性能の着実な向上: Zen 5アーキテクチャによるIPC向上とクロック周波数の引き上げにより、ストック状態でも前世代比で10%〜20%程度の安定した性能向上が期待できる。
  2. 圧倒的な潜在能力: TDP 350Wという枠は維持しつつも、PBOなどによって電力リミットを解放した際のパフォーマンスは飛躍的に向上する。Cinebenchのリークは、このCPUが巨大なポテンシャルを秘めていることの証左だ。
  3. 効率性の向上: 24コアモデルが前世代の32コアモデルに匹敵する性能を見せたように、電力効率、すなわちワットパフォーマンスも大きく改善されている可能性が高い。

これらのCPUは、レンダリング、シミュレーション、ソフトウェア開発、AIのローカル学習など、コア数が直接性能に結びつくプロフェッショナルな領域で絶大な力を発揮するだろう。特に、$11,699という価格が報じられている9995WXは、まさにコストを度外視してでも最高のパフォーマンスを求める組織やプロフェッショナル向けの、究極のツールと言える。

もちろん、これらはすべて発売前のリーク情報に基づく分析であり、最終的な評価は独立した第三者による厳密なレビューを待たなければならない。特に、実際のアプリケーションにおける性能、安定性、そして何よりその性能を維持するための冷却要件と消費電力の実態が、この新世代CPUの価値を決定づけることになるだろう。

AMDが築き上げたHEDTおよびワークステーション市場における牙城は、このThreadripper 9000シリーズの登場によって、さらに揺るぎないものになる可能性が高い。IntelのXeon Wシリーズや、独自の進化を遂げるApple Siliconとの競争が、プロフェッショナルコンピューティングの世界をどこへ導くのか。7月23日とされる発売日以降に明らかになるであろう、その真の実力から目が離せない。


Sources