米防衛テック企業Anduril Industriesが、日産自動車の追浜工場を日本でのドローンや兵器の生産拠点に転用する案を検討している。Reutersの報道によると、Andurilは神奈川県横須賀市にある同工場の取得を考えており、話を知る3人の関係者がその検討を明かした。買収が決まったわけではなく、Andurilは日本の防衛当局から契約を得る必要があり、日産も他の買い手候補と協議しているとされる。
日産はすでに追浜工場の車両生産を2027年度末に終え、日産自動車九州へ移管すると発表している。一方、日本の防衛省は2026年度予算で、安価で多数配備できるUAV、USV、UUVを組み合わせる無人防衛能力を明確な柱に置いた。Andurilの関心が実際の契約と工場転用へ進むなら、閉じる自動車工場が、無人機時代の防衛生産を国内に置くための受け皿になる。
交渉は条件付きで、狙いは日本での受注にある
Reutersが伝えた範囲で確定しているのは、Andurilが追浜工場の取得を検討しているという関係者の情報までだ。Andurilが購入へ進むには日本で防衛契約を獲得する必要があり、日産側も他の潜在的な買い手と話している。Andurilが追浜の従業員を再訓練して自社製品の生産に充てる案を示したとも伝えられているが、雇用維持の範囲や生産品目は公表されていない。
Andurilが日本で契約を得た場合、製品の販売だけでなく製造と支援の体制まで伴う構図になり得る。防衛装備は民生品のように、完成品をどこからでも同じ条件で輸入すれば済むわけではない。納期、整備、訓練、部品供給、輸出管理、機密保持、運用中の改修まで含めて、顧客国の中にどれだけ足場を置けるかが採用判断を左右する。
日本にとっても、海外企業から無人機を買うだけなら調達は速いが、補給、改修、検査、訓練を国外に頼り続けると、運用数が増えた段階で部隊側の負担が増す。Andurilが追浜のような既存工場を候補にしているという報道は、日本市場向けの受注活動が、販売代理店や実証にとどまらず、国内で回せる製造・支援体制の提案へ広がる余地を示している。
追浜は日産の再建計画で空く大規模製造拠点である
日産は2025年7月15日、追浜工場の車両生産を2027年度末に終了し、現在生産しているモデルや今後生産を開始するモデルを日産自動車九州に移管、統合すると発表した。対象は追浜地区の一部である追浜工場であり、同地区にある総合研究所、GRANDRIVE、衝突試験場、追浜専用ふ頭などは変更なく事業を継続する。工場そのものについては、生産終了後に幅広い選択肢を検討し、最適な活用方法を決めるとしていた。
追浜工場は1961年10月に操業を始め、累計で1,780万台以上を生産してきた。工場敷地は547,606平方メートル、従業員数は約2,400人で、現在の生産車種はノートとノートオーラである。2010年には初代日産リーフの生産を始めており、日産の電動化の歴史でも象徴的な拠点だった。
この工場が整理対象になった背景には、日産の経営再建計画「Re:Nissan」がある。日産は2025年5月の発表で、2026年度までに固定費と変動費を合わせて5,000億円削減し、人員を20,000人削減し、車両生産工場を17から10へ減らす方針を示した。追浜の発表でも、グローバルの生産能力を中国を除いて350万台から250万台へ削減し、工場稼働率を100%水準に保つ狙いが説明されている。
2026年5月の2025年度決算説明では、日産はRe:Nissan開始から10か月で7拠点すべての決定を発表し、2026年度中に7拠点のうち6拠点の統廃合を完了する予定だと説明した。2025年度の当期純損失は5,330億円だったが、固定費削減は2026年3月末時点で2,000億円、変動費削減の効果は2025年度で550億円に達したとも述べている。追浜の跡地利用は、日産にとって再建計画の社会的な摩擦をどこまで抑えられるかにも関わる。
Andurilの量産思想は自動車工場と相性がある
Andurilが工場取得に関心を持つ文脈は、同社が2025年1月に発表した米オハイオ州のArsenal-1を見ると分かる。同社はColumbus近郊に、約10億ドルを投じる初のハイパースケール製造施設を建設すると発表した。フルスケールでは500万平方フィートに達し、4,000人の直接雇用を生み、年間数万の軍事システムを生産する計画である。
Arsenal-1の説明で目を引くのは、専用ラインを一つの兵器だけに固定するのではなく、共通の商用製造ツール、機械、工程を使ってAndurilの自律システムを作るという考え方だ。同社は、設計、開発、量産を統合するArsenal OSを基盤に、人、資本、機械、材料を新しい要求や製品、需要急増に合わせて再配分できると説明している。少量の高価な装備を長い調達サイクルで作る従来型の防衛産業とは違う発想である。
追浜が候補に挙がる理由もここにある。自動車工場は、大量生産、工程管理、品質保証、部品物流、作業者訓練を前提に設計されている。車両生産ラインをそのまま無人機や兵器に使えるわけではない。治具、検査設備、保安、情報管理、危険物や火工品の扱い、輸出管理に関わる仕組みは作り直しが必要になる。それでも、ゼロから用地を探し、工場棟を建て、人材を集めるより、既存の大規模製造拠点を転用する方が立ち上げを短縮できる場面はある。
Andurilの製品群は、ソフトウェアで制御される無人システムを中心に広がっている。同社の公表資料では、Arsenal-1が自律兵器、センサー、システムの多くをフルレート生産する拠点になるとされる。日本で同じ思想を展開するなら、追浜は組立に加えて、改修、検査、保守、顧客運用に近い支援拠点まで含む提案になり得る。
日本側には無人機を大量に入れる予算上の理由がある
防衛省の2026年度予算資料は、今回の報道を読むうえで背景になる。同資料は、防衛力の抜本的強化を進める「7つの柱」の一つに無人防衛能力を置き、2025年3月には近距離の多目的UAVと中距離の機能強化型UAVの納入を完了したと説明している。2025年7月には小型の沿岸対艦輸送UAVの実証を行い、AUKUSのPillar IIに関わる海上自律システムの実験にも参加した。
2026年度予算の中心は、無人アセットによるSHIELD、つまりSynchronized, Hybrid, Integrated and Enhanced Littoral Defenseの整備である。防衛省は、海外での無人アセット導入と技術革新によって戦い方が変わり、高価な有人装備だけでなく、安価で大量のUAV、USV、UUVを組み合わせた非対称の防衛構造を早急に作る必要があると説明している。2026年度予算では約1,001億円を投じ、2027年度にSHIELDを整備することを目指す。
同資料には、陸上自衛隊のFPV型モジュラーUAV、短距離対車両用の小型攻撃UAV、中距離・長距離の対艦用小型攻撃UAV、海上自衛隊の艦艇発射型UAVと艦上小型UAV、航空自衛隊の長距離飛行可能な対艦UAV、レーダーサイト防護UAVなどが並ぶ。水上無人機や水中無人機も含まれ、複数の無人プラットフォームを同時に制御する実証にも23億円が計上された。
この予算構造は、Andurilのような企業にとって日本が単発の輸出先ではなく、継続的な製造・整備・改修の市場になり得ることを示している。日本政府は同じ資料で、防衛生産・技術基盤は防衛力そのものと一体であり、民間の先端技術や既製品、外国装備も活用して早期装備化を進めるとしている。米国企業が日本に製造拠点を置く案は、この流れに沿う部分がある。
残る焦点は契約、雇用、転用範囲である
追浜がAndurilの日本拠点になる道筋はまだ細い。第一の条件は、日本の防衛当局からどの製品で、どの規模の契約を得られるかである。無人機の予算があることと、Andurilが選ばれることは別の話だ。日本国内企業との競争、共同生産の形、技術移転、サプライチェーンの国産化比率、米国側の輸出管理も絡む。
第二の条件は、追浜工場で働く人の移行である。日産は2027年度末まで従業員が同工場で勤務を続けるとし、その後の雇用や勤務については方針決定後に従業員へ知らせ、組合との協議を始めるとしている。ReutersはAndurilが従業員の再訓練を提案したと伝えているが、自動車製造から防衛装備製造への移行は、技能の近さだけで決まらない。保安規定、品質保証、顧客監査、機密管理を含む職場設計が必要になる。
第三の条件は、どの施設が対象になるかだ。日産の公式発表では、追浜地区の研究所、GRANDRIVE、衝突試験場、専用ふ頭などは継続する。したがって、工場取得が実現するとしても、追浜地区全体が防衛工場へ変わると読むのは早い。車両生産を終える工場敷地をどの範囲で切り出し、既存の日産機能とどのように共存させるのかが、地元自治体や従業員にとっての具体的な論点になる。
追浜工場は、日産にとっては縮小しなければならない生産能力であり、Andurilにとっては日本市場に入り込むための製造基盤になり得る。防衛省の予算は、日本が無人機を数でそろえる段階へ進んでいることを示している。あとは、その需要が米国防衛テック企業の工場投資を呼び込むほど具体的な契約へ落ちるかどうかである。交渉が成立するなら、追浜はEV量産の歴史を持つ自動車工場から、無人防衛システムの国内生産をめぐる試金石へ変わる。