テクノロジーと科学の最新の話題を毎日配信中!!

Anduril、Klas買収で「戦場の神経系」強化へ:携帯型C4システム「Menace-T」同時発表

Y Kobayashi

2025年5月6日

防衛技術分野で急速に存在感を増すAnduril Industriesが、戦術エッジコンピューティングと通信能力の強化に向け、大きな一歩を踏み出した。同社は2025年5月5日、アイルランドに本社を置くKlas社の買収で最終合意に達したと発表した。この買収(規制当局の承認待ち)は、Klas社が誇る堅牢なハードウェア群をAndurilの自律システムと連携させることで、過酷な環境下での作戦遂行能力を飛躍的に向上させる狙いがある。同時に、Andurilは新製品「Menace-T」を発表。これは、Klas社の技術を活用した、現場展開可能な小型C4(指揮・統制・通信・コンピューティング)システムであり、戦術エッジにおける情報処理と通信のあり方を再定義するものとなりそうだ。

スポンサーリンク

戦略的買収:ソフトウェアとハードウェアの垂直統合

AndurilによるKlas買収は、余り大きく報じられていないが、非常に大きな意味を持つ出来事だ。現代の軍事作戦、特に最前線である「戦術エッジ」においては、固定されたインフラに依存しない、柔軟かつ強靭なコンピューティング能力と通信手段が不可欠だ。Klas社はこの分野における世界的リーダーであり、特に「Voyager」シリーズで知られている。Voyagerは、極端な温度変化、電波妨害、砂塵、通信途絶といった過酷な環境に耐えうるよう設計された、モジュール式のコンピューティングおよびネットワークシステムだ。

興味深いことに、KlasのVoyagerは、買収発表以前からAndurilの「Menace」ファミリーシステムの一部として既に採用されており、地上、海上、空中といった多様なドメインでの作戦を支えてきた実績がある。今回の買収は、この既存の協力関係をさらに深化させ、垂直統合を進めるものと言える。

Anduril自身も述べているように、「あらゆる自律システムは、それが搭載するコンピューティングと通信能力によってその性能が決まる」。これらは、リアルタイムの意思決定、連携、そして作戦実行を可能にする「神経系」を形成するのだ。

Klas:過酷な環境下で証明された技術力

Klas社は、30年以上にわたり、ネットワークエッジ向けの革新的で堅牢、スケーラブルかつポータブルな通信ソリューションを開発してきたエンジニアリング・デザイン企業だ。彼らの製品は、サイズ、重量、消費電力(SWaP)を最小限に抑えつつ、軍や政府機関、さらには自動車や輸送業界の厳しい要求に応えるよう設計されている。アイルランドと米国に拠点を持ち、約150人の従業員を擁する。今回の買収により、KlasはAnduril傘下で事業を継続し、Anduril製品群全体からの需要増に対応するため、製造能力の拡張も計画されている。また、この買収により、Andurilはダブリンに初の拠点を設けることになり、欧州、英国、オーストラリア、日本、台湾にまたがる同社の国際的なプレゼンスをさらに強化することになる。

戦略的シナジー:「戦場の神経系」の実現へ

この買収の核心は、AndurilのAIソフトウェアプラットフォーム「Lattice」、自律システム、センサー能力と、Klasの堅牢なエッジコンピューティングおよびネットワークインフラを統合することにある。これにより、以下のようなメリットが期待される。

  1. 迅速な展開: 軽量でミッションに合わせたシステム構成が可能となり、現場での展開時間を短縮。
  2. 容易な保守: モジュール化された設計により、メンテナンス性が向上。
  3. 高い回復力: 過酷な環境やプレッシャー下でも安定した動作を実現。
  4. インテグレーションリスクの低減: ハードウェアとソフトウェアのシームレスな連携により、システム統合に伴うリスクや手間を削減。

結果として、Andurilは、ミッション、プラットフォーム、または部隊の特定のニーズに合わせてエッジコンピューティングと通信能力を柔軟に調整し、重要な技術をより迅速に兵士たちの手に届けることが可能になる、と考えているようだ。

新製品「Menace-T」:戦術エッジにC4パワーを凝縮

Klas買収の発表と時を同じくして、Andurilは「Menace」ファミリーの最新製品「Menace-T」を発表した。これは、最も困難で過酷な環境向けに設計された、小型の現場展開型C4システムだ。

数時間から数分へ:現場オペレーションの変革

Andurilは、Menace-Tの価値を具体的なシナリオで示している。かつては、敵性資産が潜む疑いのある漁村近くに偵察チームが降り立っても、不安定な衛星回線と、セットアップに半日かかるような旧式の機材しかなく、情報伝達の好機を逃すことも珍しくなかった。

しかし、Menace-Tがあれば状況は一変する。1人のオペレーターがMenace-Tを携行し、わずか数分でチームの完全なソフトウェアスタック(Lattice Mesh、情報収集、暗号化通信など)を実行可能になる。リアルタイムのターゲティングデータは、数百マイル離れた統合運用センターに直接送信される。セットアップを待つ必要も、外部インフラに依存する必要もない。これにより、従来なら失敗していたミッションが、1時間以内に完了する可能性が出てくる、とAndurilは主張する。

Menace-Tの技術的特徴:VoyagerとLattice Meshの融合

Menace-Tは、KlasのVoyagerコンピューティングおよび通信ハードウェアを基盤とし、AndurilのLattice Meshソフトウェアによって駆動される。その主な特徴は以下の通りだ。

  • 携帯性: 2つのキャリーオンケースに収まり、1人で運搬・設営が可能。
  • 迅速な展開: 数分で運用開始。追加ケーブルや統合の複雑さはない。
  • 堅牢性: 過酷な現場環境に耐える設計。
  • セキュアな接続性: 安全な通信を確保。
  • 高い処理能力: Andurilの大規模なMenaceシステムと同じミッションクリティカルなソフトウェアを実行可能。さらに、サードパーティ製のソフトウェアスタックや、エッジでのAI推論・学習も実行できるパワーを持つ。

Menace-Tはすでに世界中で使用されており、リアルタイムのターゲティングデータ中継、地上車両や海上船舶への搭載などで実績を上げている。統合環境、連合軍作戦、そして従来のシステムが機能しないような過酷な条件下でも有効性が証明されているという。

スポンサーリンク

IVASとの連携:数十億ドル規模の課題解決への期待

今回の買収と新製品発表は、米軍の統合視覚増強システム(IVAS)プロジェクトとの関連でも注目される。IVASは、兵士向けの頑丈なHoloLensヘッドセットを開発するというMicrosoftの提案に基づき、2018年に開始された野心的な計画だ。しかし、技術的な課題に直面し、今年2月にはAndurilがこのプロジェクトの主導権を握ることになった(Microsoftはクラウドパートナーとして残留)。

AndurilのLatticeソフトウェアは既にIVASヘッドセットに統合され、物体の検出、追跡、分類を支援するコンピュータービジョンAI機能を提供している。そして今回、Klasの技術、すなわちMenace-Tを支える技術が、IVASが抱えてきた課題の一つである「信頼性の高いデータ処理」を解決する可能性がある、とAndurilは考えているようだ。

Andurilのエンジニアリング担当SVP、Tom Keane氏は記者会見で、「IVASを使用する兵士が、戦術エッジとの間でデータを送受信したり、自律システムにタスクを割り当てたりする必要があるシナリオが存在する。Klasの技術はそこで役立つ可能性がある」と述べ、Klasが既に数年前からIVASに技術を提供してきたことにも言及した。「我々はこの分野でさらに多くのことを行うことを期待している」とKeane氏は付け加えた。

戦場を超えて?エッジコンピューティングの広範な可能性

Andurilは現在、軍事および法執行機関といった分野に明確に焦点を当てている。しかし、同社がIVASのような困難な課題に対してエッジコンピューティングの解決策を見出すことができれば、その技術は自動車、産業分野、さらには公害監視といった、より広範な商業分野に応用できる可能性を秘めている。

Tom Keane氏はTechCrunchに対し、「Klasの技術と製品には、軍事、国家安全保障、法執行機関、自律性など、多くのユースケースがある。Andurilはパートナーと共に、幅広いユースケースを持つ顧客を引き続きサポートしていく」と語っており、将来的な商業展開の可能性を完全には否定していない。

今回のKlas買収は、Andurilにとって9件目の買収となる。これは、同社が先進技術を迅速に取り込み、統合することで、防衛分野におけるイノベーションを加速させようとする戦略を明確に示している。戦術エッジという、極めて困難だが戦略的に重要な領域において、ソフトウェアとハードウェアの両輪を手に入れたAndurilが、今後どのような変革をもたらすのか、業界の注目が集まる。


Sources

Follow Me !

\ この記事が気に入ったら是非フォローを! /

フォローする
スポンサーリンク

コメントする