Anthropicが書籍の取得方法を巡って作家や出版社と結んだ15億ドルの和解を、米カリフォルニア北部地区連邦地裁が2026年7月20日に最終承認した。アラセリ・マルティネス=オルギン判事は和解を「公正、合理的かつ適切」と認め、訴訟を棄却した。これで482,460作品を対象にする和解は支払い手続きへ進む。ただ、約3,000ドルという数字は権利者一人への確定額ではない。控除される費用と分割払い、請求放棄の範囲を押さえなければ、15億ドルが誰に何をもたらすのかは見えてこない。

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482,460作品を覆う15億ドル

和解基金は15億ドルで、残金をAnthropicへ戻さない「非復帰型」とされた。裁判所が認定した対象作品リストには482,460作品が並ぶ。2026年4月16日時点で有効な請求が出たのは440,490作品、全体の91.3%に達した。期限内に有効な離脱申請をしたのは350件で、対象は1,802作品だった。

裁判所は、作品当たりの見込み額を約3,000ドルと説明する。これは著作権侵害の通常の法定損害賠償の最低額750ドルの4倍に当たる。ただし、3,000ドルは基金から費用を引く前の概算であり、支払単位も人ではなく作品だ。同じ本について作家と出版社など複数の権利者が有効な請求を出した場合、出版契約や配分規則に従って取り分を分ける。

対象になる本にも条件がある。Library Genesis(LibGen)またはPirate Library Mirror(PiLiMi)からAnthropicが取得した版に含まれ、ISBNかASINを持ち、米国著作権局への登録時期などの要件を満たした作品に限られる。登録時期を満たさない作品や、空・破損・不完全なファイルは対象外になり得る。リスト外の作品について、権利者が持つ請求権は今回の和解で消えない。

裁判所は15億ドルの基金を「著作権集団訴訟として史上最大」と評価した。もっとも、規模の大きさと一人当たりの受取額は同じ話ではない。対象が数十万作品に及び、管理費や弁護士報酬も共通基金から差し引かれるためである。

約3,000ドルは「作者一人」の取り分ではない

最終承認命令は、基金から出る弁護士報酬を101,561,111ドル、基金の約6.8%に決めた。原告側は当初300,000,000ドルを求め、申立ての途中で187,500,000ドルへ減額していた。裁判所はその要求額をそのまま認めず、実働時間を基準にした計算と照合した。巨額の共通基金で報酬が過大になるのを避けるためである。

このほか、訴訟費用2,635,197.46ドル、今後の手続きに備える18,220,000ドルの費用枠が認められた。3者の代表原告には各15,000ドル、計45,000ドルを支払う。弁護士報酬の10%は、配分後の会計報告が提出されるまで留保される。したがって各作品の最終的な配分額は、基金の総額を作品数で割るだけでは決まらない。

最終承認までには54件の異議や意見が裁判所へ寄せられ、判事はすべて退けた。原告側が審理で敗れれば回収がゼロになる危険があり、集団訴訟としての認定が維持される保証もなかったことを考慮したためだ。15億ドルはAnthropicの責任を陪審が認定して算出した賠償額ではなく、双方が不確実性を引き受けて合意した金額である。

請求率が91.3%に達した事実は、対象作品の大半が配分計算に入ることも意味する。残金がAnthropicに戻らないため、未使用分が出れば権利者への再配分が想定されている。それでも再配分が経済的に難しい場合、最終残高の扱いには改めて裁判所の承認が要る。

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支払いより先に、控除と不服申立て

最終承認が出ても、直ちに送金が始まるわけではない。和解上の発効日は、最終判断が記録され、不服申立期間が終わるか、申し立てられた不服が解決した後の最初の営業日である。和解管理者は初回支払いを2026年8月10日と見積もるが、不服申立てがあれば遅れると公式サイトに明記している。

Anthropicの拠出も分割される。2025年10月2日に300,000,000ドルを払い、最終承認から5営業日以内にさらに300,000,000ドルを入れる。残る900,000,000ドルは、2026年9月25日と2027年9月27日に450,000,000ドルずつ拠出する契約だ。後半2回分には2025年9月25日から利息が付く。権利者への支払いは最大3回に分かれる可能性があり、初回送金だけで配分が完了するとは限らない。

和解管理者が各作品の有効な権利者を確認し、同じ作品に複数の請求があれば配分比率を決める。紛争が当事者間で解けない場合は、裁判所が任命した特別管理人が最終判断を下す。この手続きにも時間がかかるため、Anthropicが基金へ入金した日と、権利者が受け取る日は一致しない。

和解が閉じた請求、残した争い

この訴訟には、AI学習とデータ取得を分けた2025年6月の判断がある。ウィリアム・アルサップ判事は、書籍を大規模言語モデルの学習に使う行為と、購入した紙の本をスキャンしてデジタル化する行為をフェアユースと認めた。一方、海賊版サイトから得た書籍で恒久的な汎用ライブラリを作る行為にはフェアユースを認めず、その部分を審理に残した。15億ドルの和解は、後者が陪審審理へ進む前に成立した。Anthropicは和解で不正行為を認めていない。

和解発効後に権利者が放棄するのは、対象リストの作品について生じた過去の入力側請求である。トレント経由の取得や複製と保管が含まれ、学習からAI製品の開発までに関する請求も対象になる。一方、過去のAI出力に関する請求、2025年8月25日以降の行為、対象リストにない作品への請求は残る。和解文書も、将来のトレント取得やスキャン、著作物によるモデル学習を許諾するものではないと明記する。

Anthropicは、LibGenとPiLiMiから取得した原本ファイルと、そこから生じた複製を、法的な証拠保全義務に反しない範囲で破棄しなければならない。同社はまた、両データセットやその一部を、市販した大規模言語モデルの学習コーパスには入れていないと表明した。和解は金銭補償とファイル破棄を定めたが、学習一般の適法性を決める全国的な判例は生まれていない。地裁判断はこの事件の事実関係に基づくもので、他の裁判所を拘束しないためだ。

15億ドルは、海賊版サイトからの入手経路を巡る訴訟リスクが、支払い義務を伴う最終判断へ転じた規模を示す。ただし、その金額を学習データの一律な利用料とみなすことはできない。まず確認できるのは、不服申立期間を経て発効日が到来するか、そして8月10日と見込まれた初回配分で作品当たりの手取り額がいくらになるかである。