Anthropicは、Claude向けのカスタムチップを設計する社内シリコンチームを構築中だと初めて公に認めた。Business Insiderは8月5日、Anthropicの広報担当者への取材に基づき、この計画を報じた。広報担当者は、ハードウェアとモデルを共同設計し、Claudeを顧客が必要とする規模でより高速かつ効率的に動かす考えだとBusiness Insiderに説明している。

変化は、チップそのものの完成ではない。Reutersは4月、Anthropicが自社チップ設計を検討していると報じた。当時は検討段階だったのに対し、今回は専任の社内チームを構築中だという説明が初めて公になった。しかもAnthropicの公式求人票は、半導体の設計者を集める募集であると同時に、Claudeを設計工程へ入れる仕事の輪郭まで示している。

カスタムシリコンは、モデルが必要とする演算、メモリ、通信に合わせて設計できる。汎用GPUや他社アクセラレーターとの適合差を縮め、推論の速度、電力、コストを調整する選択肢になり得る。一方で、Anthropicは今回のチップを訓練用とするのか、推論用とするのか、それとも両方を対象にするのかを明らかにしていない。社内チームの構築は、製品仕様や量産の発表とは別の段階である。

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求人票が示した、チップ設計の実務

Anthropicが募集しているのは「Research Engineer, Chip Design RL」である。公式求人票によると、Code RLチームでエージェント型のRTL生成、形式検証、物理設計最適化のための強化学習環境と評価を開発する。RTLは回路の動作を記述する設計段階であり、形式検証はその設計が意図した条件を満たすかを数学的に確かめる工程だ。

募集要件には、ASICまたはFPGAの設計とUVMが含まれる。形式手法、合成・配置配線、タイミングクロージャも対象だ。さらにPPA最適化を扱う。PPAは性能、電力、面積を指す。モデルに回路記述を書かせるだけなら、こうした後工程までを採用条件に並べる必要は薄い。求人票は、設計の生成から検証、物理設計へ続く実務を強化学習で扱い、実シリコンへ移す工程を見据えていると読める。

ただし、テープアウト経験を求めていることは、Anthropicがすでにテープアウトを終えたことを意味しない。求人票が示すのは設計・研究の採用計画であって、量産契約や製品化の決定ではない。

自社設計へ進んでも、複数チップ戦略は続く

Anthropicは既に大きな外部計算資源を確保している。2025年10月の公式発表では、Google Cloudの利用を拡大し、最大100万TPUと2026年に1GW超の容量を含む計画を示した。同社はGoogle TPU、Amazon Trainium、NVIDIA GPUを使う3プラットフォーム戦略を明記し、AWSを主たるトレーニング・クラウドパートナーと説明している。

さらに2026年4月には、AWSと最大5GWの新規容量を確保し、10年間で1000億ドル超をAWS技術へコミットすると発表した。2026年末までにTrainium2とTrainium3で合計約1GWを使う計画も示している。Business Insiderへの説明では、AWSとGoogleに加え、NVIDIAとAMDのハードウェアを中核にする「複数チップのアプローチ」を継続するという。

したがって、社内シリコンチームの構築を、既存の調達先を置き換える宣言として読むことはできない。社内チームの構築と並行して、Anthropicは複数社のハードウェアを使う方針を継続する。少なくとも、Anthropicの公式情報とBusiness Insiderへの説明は、単一のチップへ集約する方針を示していない。

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OpenAIの9か月と、Anthropicがまだ示していないもの

OpenAIはBroadcomと共同で、LLM推論向けチップ「Jalapeño」を設計から製造準備段階まで9か月で開発し、2026年末からの初期展開を計画していると公式に発表した。モデル開発企業がカスタムチップを製造準備まで進めた事例である。

Anthropicの今回の情報は、それとは段階が異なる。同社が公にしたのは社内チームの構築と、求人票に現れた設計支援の研究職であり、対象用途、製造準備、初期展開の時期は明かしていない。OpenAIの9か月という開発期間を、そのままAnthropicの工程表へ当てはめる根拠もない。

両社を比べる際は、カスタムチップの有無ではなく、どこまで設計が具体化しているかを見る必要がある。OpenAIは推論用途と初期展開の予定を示した。Anthropicはモデルとハードウェアを共同設計する方向を説明し、そのための人材を募っている。公表済みの情報は、そこまでである。

製品化を判断する数字はまだ出ていない

Anthropicはチップの製造委託先、プロセスノード、メモリ構成を公表していない。パッケージ、性能、投資額も同様である。量産の開始時期も不明だ。カスタムシリコンの価値は、設計段階の意図だけでは測れず、モデルの要求と製造・実装の条件がそろって初めて判断できる。

次に確認すべきなのは、Claudeのどの処理を自社設計で担うのかである。訓練か推論か、あるいは両方か。用途が訓練か推論か、製造パートナーと量産時期が公表されれば、既存のTPU、Trainium、GPU群と自社設計をどう分担するのかを判断できる。