Anthropicの専用AIチップをSamsungの2nmプロセスで製造するとの未確認情報が、2026年10月7日に広がった。伝わっているのは、Broadcomが設計に関わり、約4,000 TOPSの演算性能と1基1,300Wの熱設計電力を目指すという構想だ。Claudeを動かす計算資源を確保する競争が、既存チップの調達から専用ハードウェアの設計へ進む可能性がある。ただし、2nmという製造技術の名前だけでは、速く、安く、必要な規模で動かせるかは分からない。メモリをどう接続し、そのチップをどんな電力・冷却設備で使うかまでが採算を左右する。

AD

4,000 TOPS、1,300Wという未確認の設計像

Jukan氏とSemiconductorsXの投稿を発端とする情報では、Anthropic向けASICの設計・実装をBroadcomが担い、Samsung FoundryのSF2で製造する可能性があるという。ASICは、特定の用途に合わせて回路を設計した集積回路である。幅広い処理に対応するGPUと異なり、対象の処理を絞って回路やデータの流れを最適化できる。

現段階で伝わる仕様は次の通りだ。いずれも製品の確定仕様ではない。

項目 伝わっている未確認情報
設計・実装 Broadcom
製造候補 Samsung Foundry、SF2の2nmプロセス
演算性能 約4,000 TOPS、INT8との情報
熱設計電力(TDP) 1基当たり約1,300W
メモリ 192GB、設計条件によって最大288GBのHBM3E
初期生産数量 約20万個

原投稿の本文は直接確認できず、表の仕様は引用記事を介して照合した情報に限られる。同じ投稿から広がった記事の一致は、独立した裏付けにはならない。2026年10月8日時点で、これらの仕様や製造契約を確認する公式発表は見つかっていない。製造工場や量産・稼働の時期も未確認だ。

一方、SamsungとAnthropicの関係そのものは公表されている。Anthropicは5月28日の資金調達発表で、SamsungをMicron、SK hynixとともに戦略的インフラパートナーに挙げた。ただし、メモリや計算基盤を支える関係と、独自ASICの製造発注は別の話である。

Broadcomについても同じ区別が必要だ。4月6日のAnthropicの発表は、GoogleとBroadcomから次世代TPUの計算容量を複数ギガワット規模で確保し、2027年から稼働させる予定を示している。これはGoogleのAI向け半導体を使う契約であり、Anthropic専用チップを製造する契約の確認には使えない。

Samsungを選ぶなら、2nmとパッケージを一緒に

Samsungは公式の工程一覧で、SF2の量産を2025年に開始したと記載している。SF2は第2世代のMBCFETを使うGAA方式の工程だ。GAAは、電流が流れるチャネルをゲートで囲んで制御するトランジスタ構造であり、Samsungが3nm世代から使ってきた技術を引き継ぐ。2nmへの移行で初めてGAAを採用するわけではない。

AIアクセラレーターでは、演算回路を作った後にメモリを近くへ配置し、大量のデータを送り込む実装が必要になる。SamsungのI-Cubeは、チップを中間部材であるインターポーザーの上に横並びに置き、短い配線で接続する2.5Dパッケージング技術だ。同社は受託製造に加えてメモリと先端パッケージを扱えるため、部品間の設計や納期をまとめて調整できる点が候補としての利点になる。

この組み合わせには、日本企業向けの公表済み案件がある。Samsungの2024年7月9日発表で2nmとI-Cube Sの採用が確認できる顧客はPreferred Networksであり、Anthropic向けの採用を裏付ける発表ではない。その発表では、Samsungが製造工程とパッケージを一括提供し、GAONCHIPSが設計を担当すると説明している。

先端工程とパッケージを一緒に提供する仕組みは、既にSamsungが顧客へ提案してきたものだ。ただし、Preferred Networksとの案件の発表も、出荷完了や性能の実証までを意味しない。まして、別の大型ASICで必要な良品率や供給数量を満たせるかは、その製品の設計と量産工程で確かめる必要がある。

Anthropic案件でもI-Cubeの採用は決まっていない。Samsungが製造を受託したとしても、HBMまで同社製になるとは限らない。1社に複数の技術があることと、それらを使った完成品の価格・納期が確定することの間には、まだ検証が残る。

AD

288GBのメモリと、TOPSに表れない待ち時間

Samsungは2024年2月のHBM3E開発発表で、12層のDRAMを積んだ1スタック当たり36GBの製品を示している。また、SFF 2022に基づくパッケージの公式解説には、I-CubeS 8がHBMを8基とロジックダイを2個載せる構成が記されている。

容量だけを計算すれば、36GB×8基=288GBとなる。噂に出てくる288GBは、このような組み合わせでも説明できる数字だ。ただし、別の時点に公表されたメモリ容量とパッケージの搭載基数を使った算術例であり、両者の接続互換性やAnthropicでの採用を確認した結果ではない。「12層」は1基のHBM内部で積むDRAMの枚数で、「8基」はパッケージに置くHBMの数を指す。

大容量メモリの意味は、モデルを載せられることに加え、同時に処理する要求の数にもある。大規模言語モデルでは、モデルの重みと、生成途中の情報を再利用するKVキャッシュがメモリを使う。長い入力や多くの同時要求に対応するほど、キャッシュが占める容量も増えやすい。とはいえ、容量が大きくなれば同じ割合で応答が速くなるわけではない。

NVIDIAの推論最適化解説は、入力をまとめて処理する段階と、出力を逐次生成する段階を分けている。前者は計算を並列化しやすい。後者では次のトークンを作るために重みやキャッシュを読み出し、メモリからデータを運ぶ速さが待ち時間を制約しやすくなる。トークンは、モデルが処理する文章の小さな単位である。

そのため、4,000 TOPSをClaudeの応答速度へそのまま換算することはできない。TOPSは毎秒の演算回数を兆単位で示す指標で、INT8は8ビット整数の計算を指す。ピーク値を比較するには、計算精度のほか、ゼロを含むデータの演算を省いた値か、どう演算回数を数えたかという条件も必要になる。HBMの転送速度やモデルの実行条件が分からなければ、演算回路をどれだけ稼働させられるかは決まらない。

複数の要求をまとめるバッチ処理なら、読み込んだ重みを使って多くの計算を進め、演算回路の利用率を上げられる。ただし、大きなバッチはメモリを使い、利用者が許容する待ち時間にも制約される。さらにモデルを複数チップへ分ければ、チップ間でデータを交換する時間も加わる。専用チップの性能を引き出すには、回路だけでなく、計算を割り当てるソフトウェアと通信の設計までそろえる必要がある。

20万基を動かす電力と、専用チップの採算

噂の初期数量20万個すべてを、1基1,300Wという値で同時に見積もると、合計は260MWになる。計算は200,000×1,300W÷1,000,000=260MWである。8基だけでもTDPの合算は10.4kWとなり、サーバー側でまとまった電力と排熱への対応を要する規模だ。

これは未確認のTDPを足した参考値であり、実際の消費電力やデータセンターの受電容量ではない。TDPは放熱設計の目安となる値で、常時その電力を消費するという測定結果ではない。20万個が同じ場所で一斉に稼働するとも限らず、ネットワーク機器や冷却設備の電力もこの計算には含めていない。それでも、チップの製造先を決めるだけでは導入が完結しないことは分かる。

1基の電力が大きくても、同じ品質の回答を同じ待ち時間でより多く生成できれば、処理当たりの電力を抑えられる可能性はある。逆に、ピーク性能が高くてもメモリや通信を待つ時間が長ければ、設備を十分に使えない。比較すべきなのは、同じモデルと品質、遅延条件をそろえたときのトークン処理量と消費電力である。購入価格に加え、電源・冷却設備や運用費を含めた計算も必要になる。

専用設計には、将来のモデルに合わせ続ける難しさもある。モデルの処理方法が変われば、特定の計算に最適化した回路を生かすためのソフトウェア対応が必要になり、設計を見直す場合も出てくる。開発費を十分な処理量で回収できるか、長期間使い続けられるかまでが採算の一部だ。約20万個という噂の数量だけから、規模が小さい、あるいは量産で利益が出ると判断することはできない。

Anthropicは4月の公式発表で、AWS Trainium、Google TPU、NVIDIA GPUを用途に合わせて使う方針を示し、Amazonを主要なクラウド・訓練パートナーとしている。独自チップが加わるとしても、用途ごとに選ぶ計算基盤の候補として評価するのが、この公表済みの方針に沿う。NVIDIAからの全面離脱やClaudeの値下げを、今回の噂から予告することはできない。

製造に渡す最終回路データを確定するテープアウトと、量産・稼働の時期が公表されれば、計画の進み具合を判断できる。そこにモデルと品質、待ち時間をそろえた実処理性能が示されて初めて、2nmの専用チップがClaudeの供給をどれだけ増やし、処理費用をどう変えるかを評価できる。