Mac miniが突然、店頭から消えた。2026年4月末の決算説明会でAppleが認めたのは、M4搭載Mac mini(256GBモデル)の販売停止とMac Studioの深刻な供給遅延だ。原因はメモリ不足でも品質問題でもない。AIチップ需要の爆発によってTSMCの先端プロセスが飽和し、Appleですら自社製品向けの供給を確保できない状況に追い込まれたのだ。この苦境を打開するため、Appleは2016年以来関係が途絶えていたIntelとSamsung Electronicsへの打診を進めている。
AI需要が招いた「先端ノード」の供給飽和
データセンター向けGPUなどのAIチップ需要が急増し、TSMCの3nmおよび2nmプロセスの製造容量を激しく圧迫した。3nmのリードタイムは通常より大幅に伸びており、Appleのような大口顧客も優先順位の低下を避けられない状況にある。
Appleは次世代2nm容量を業界最大規模で確保しているが、それが本格的に製品へ反映されるのは2026年下期以降だ。現在の3nm供給不足を補う手段はなく、台湾一社への依存が経営上のボトルネックに変わった。
Appleは決算で「供給が需要に追いつくまで数ヶ月を要する」と明言しており、Mac miniとMac Studioへの影響が続く見込みだ。世界最大のデバイスメーカーが自社製品の供給を制御できない状況は、TSMC依存の構造的リスクを改めて可視化した形だ。
Intel 18A-PとSamsungテキサスファブの検討状況
Appleは現在、IntelおよびSamsung Electronicsとの初期段階の交渉を進めている。Samsungについては、Apple経営陣がテキサス州テイラーの新工場を実際に訪問した。この施設は2nm製造への対応を予定しており、2026年後半からの生産開始を目指している。
Intelとの関係では、18A-Pプロセスの設計キット(PDK)サンプルをすでに取得し、NDA(秘密保持契約)を締結済みだ。業界予測では、2027年にMシリーズ下位モデル、2028年にiPhone向けAシリーズの非ProモデルへのIntel 18A-P採用が見込まれるとされる。
Intel 18A-PはFoveros Direct 3D hybrid bondingという高度な3Dパッケージング技術に対応する。米国内製造基盤を持つIntelの活用は、米政府の先端製造支援策とも整合する戦略的な選択肢として浮上している。
多源化を支える組織再編:Chief Hardware Officerが担う役割
Appleはハードウェア戦略の一元化を目的として、Johny Sroujiを「Chief Hardware Officer」に任命し、ハードウェア部門を5つの主要領域に再編した。「シリコン」部門の統率は18年の古参、Sri Santhanamが担う。
この体制変更の核心は、TSMC最適化から脱した「マルチファウンドリ設計フロー」の構築だ。TSMCのプロセスに最適化された設計資産をIntelやSamsungのルールへ適合させるには、設計段階からの根本的な作り直しが要る。Chief Hardware Officerの下でシリコン設計と製造調達を統合管理することで、ファウンドリ間の歩留まりのばらつきをコントロールする体制を目指している。
多源化のリスク:品質・電力効率・地政学のトリレンマ
製造先の変更に伴うリスクは軽視できない。Appleが2016年にSamsung Foundryの使用を終了した際、熱設計(thermal performance)への懸念が一因だったとされる。非TSMC技術の導入による電力効率の低下や設計機密の保持に関する問題は、依然として解消されていない。
IntelとSamsungがTSMC級の製造規模と品質一貫性を実現できるかも現時点では不確かだ。Bloombergの報道によれば、Appleはこの点に強い懸念を抱いており、確定した注文はまだないという。
それでも交渉を進めるのは、台湾有事リスクという構造的な外圧があるからだ。製造拠点を米国など複数の地域に分散させることは、物理的なサプライチェーン断絶リスクへの根本的な備えとして、長期的には避けられない投資となる。Mac miniの販売停止という可視的なコストが、その判断を加速させている。