ArtCraftが、PhotoshopやPremiere ProなどAdobeの主要製品に代わる無料のクリエイティブアプリ7本「Crafting Apps」を発表した。開発者はRedditへの投稿で、Claude Opus 5.5を活用してRustによる再実装を進めたと説明し、Adobeの解約料への不満が開発のきっかけだったと明かしている。使い慣れた操作体系を再現しながら、ソースコードも公開するという取り組みだ。ただし、無料で使えることと、既存の制作環境から問題なく移行できることは別の話だ。AIによって開発を加速できても、作品の互換性を確保し、ソフトウェアを長期的に維持するための課題まで解消されるわけではない。
Adobeの解約料への不満から生まれた7つの無料アプリ
![FireShot Capture 002 - Crafting Apps\_ open-source creative tools — ArtCraft - [getartcraft.com].webp](https://media.xenospectrum.com/large_Fire_Shot_Capture_002_Crafting_Apps_open_source_creative_tools_Art_Craft_getartcraft_com_b3d4f180f6.webp)
Crafting Appsは、画像編集から動画制作、ページレイアウトまで、用途ごとに独立したアプリを提供するプロジェクトだ。ArtCraftの公式サイトでは、7本すべてを無料のオープンソースソフトウェアとして紹介し、macOS、Windows、Linux向けのインストーラーを案内している。
各アプリはAdobe製品の代替を目指しているが、機能や出力結果が完全に一致するわけではない。
| アプリ | 代替を目指すAdobe製品 | 主な用途 |
|---|---|---|
| PhotoCraft | Photoshop | 画像編集 |
| VectorCraft | Illustrator | ベクターイラスト制作 |
| FilmCraft | Premiere Pro | 動画編集 |
| LightCraft | Lightroom | 写真管理・RAW現像 |
| PdfCraft | Acrobat Pro | PDFの閲覧・編集・整理 |
| EffectCraft | After Effects | 映像効果・モーショングラフィックス |
| DesignCraft | InDesign | ページレイアウト・組版 |
ただし、7本すべてが完成しているわけではない。10月8日時点の公式ラインアップでは、PhotoCraftとPdfCraftが「早期アルファ版」、残る5本は「開発中」と表示されていた。
また、PDFアプリの名称についても、開発者の投稿では「PrintCraft」、公式サイトでは「PdfCraft」と表記されている。
Adobeの主要な制作分野をまとめてカバーしようとする意欲的な計画ではあるものの、現段階で完成度の高い制作環境が一式そろったわけではない。
開発者はHacker Newsへの投稿で、Adobeの解約料に何度も悩まされた経験を明かし、AIを活用すれば既存ソフトの機能を独自に実装し直せると主張した。
さらにRedditでは、15年の開発経験があり、映画制作者向けのソフトウェアを手がけるチームからも支援を受けていると説明している。AIだけでソフトウェアを完成させたというよりも、経験豊富な開発者がチームの協力を得ながら、AIを開発に活用している形だ。
Adobeの解約条件をめぐる不満には、具体的な背景がある。
米司法省は2026年3月13日の発表で、サブスクリプションの契約条件の開示や解約手続きをめぐる訴訟について、Adobeとの和解案を公表した。
和解案には、7,500万ドルの民事制裁金と、顧客向けの7,500万ドル相当の無償サービスが含まれる。合計額は1億5,000万ドルだが、全額が現金で返金されるわけではない。
また、早期解約料とその計算方法を契約前に明示することや、解約手続きを簡素化することなども求められている。
一方、Adobeは同日に公表した声明で、政府の主張には同意せず、不正行為も否認したうえで和解に応じたと説明した。裁判所による承認を前提に、顧客へ案内する方針も示している。
Adobeはサブスクリプションを、ソフトウェアの継続的な更新やクラウド機能、新サービスの提供を支える仕組みと位置づけている。しかし、利用者が継続的に料金を支払う価値と、契約をやめる際の負担が釣り合っているのかという問題は残る。
AIで機能を素早く実装できても、実務で使えるとは限らない
PhotoCraftの開発チームが公開した工数見積もりの記録には、8つのAIエージェントを並列に動かし、約70のメニュー項目と主要機能を数時間で実装したという記述がある。
複数のエージェントを同時に動かしているため、各エージェントの作業時間を合計した値と、実際に経過した時間は異なる。これは開発側の記録であり、7本すべての開発時間や費用を示しているわけではない。
ただし、機能を短期間で大量に実装できたとしても、そのすべてが実務で十分に使えるとは限らない。
開発チームは10月10日付の自己評価で、PhotoCraft 0.6.0について、Photoshopが備える機能の網羅率を約76%、プロが実際の業務でPhotoshopから乗り換えられる水準を約45%と評価した。
前者は実装済みの機能を集計し、重み付けして算出した数値だ。一方、後者は日常的な制作で問題になる機能不足や操作性などを考慮した推定値となる。いずれも第三者による独立した試験の合格率ではない。
開発チーム自身も、当初の工数見積もりが楽観的すぎたことを認めている。
初期の評価では、機能が存在するかどうかを重視していたため、操作の完成度や実際の使い勝手を十分に反映できていなかった。実装済みとされていた機能にも不具合報告が寄せられたことから、機能の網羅率と実務での利用可能性を分けて評価し直したという。
もちろん、開発は着実に進んでいる。
10月10日付のPhotoCraftロードマップでは、macOS版0.6.0について、基本的な編集作業から保存、再読み込みまでの一連の操作が可能になり、アルファ版としての条件を満たしたと評価している。
ただし、一部の操作には回避策が必要で、PhotoshopとのPSDファイルのやり取りにも問題が残る。PhotoCraftから書き出したPSDファイルをPhotoshopで開けない事例があり、開発チームもベータ版へ進むうえでの課題に挙げている。
さらに、PhotoCraftでPSDファイルを開き、保存し直した際に見た目が維持されることと、最初からPhotoshopと同じように描画できることも異なる。
PhotoCraftのREADMEにあるPSD互換性の説明によると、アプリは保存時にレイヤー情報や画像リソースなどを書き直すため、保存後のファイルが元のファイルとバイト単位で一致するわけではない。
また、独立したPSD解析・書き出しライブラリのテスト結果が良好でも、それだけで編集アプリ全体がPhotoshopと完全に互換性を持つとはいえない。
実際の仕事では、PSDファイルを開けるだけでは不十分だ。
受け取ったデザインを正しく表示し、文字やレイヤーを編集して保存し、相手が再びPhotoshopで開いて作業を続けられることまで求められる。使い慣れたショートカットが再現されていれば操作を覚え直す負担は減るが、制作工程全体の互換性が保証されるわけではない。
こうした問題は画像編集に限らない。
10月8日に確認したFilmCraftのロードマップでは、外部の音声・映像プラグインを読み込んで利用する機能が未実装であることを、実務上の課題として挙げている。
また、LightCraftの開発評価では、実測に基づくカメラの色校正データベースが整っておらず、Lightroomとの色再現の一致度も体系的には検証されていないと説明している。
動画編集では普段使っているエフェクトやプラグインを利用できるか、RAW現像では愛用するカメラの色を適切に再現できるかが、乗り換えを判断する重要な条件になる。
いずれも、画面上に同じ機能やボタンを用意するだけでは解決できない問題だ。
編集アプリは無料、AI生成サービスで開発費を賄う仕組み
ArtCraftのビジネスモデルも、従来のAdobe製品とは異なる。
公式料金ページには月額・年額の有料プランと、必要に応じて追加購入できる生成クレジットが用意されている。
ただし、料金が発生するのは主に画像や動画をAIで生成するサービスであり、無料のCrafting Appsを利用するために有料契約が必要なわけではない。
ArtCraftは、自分で用意した計算資源や他社サービスの契約を利用すれば、ArtCraftのサブスクリプションに加入しなくても使えると説明している。
つまり、編集ソフトウェア自体は無料で配布し、任意のAI生成サービスへの課金から収益を得るという仕組みだ。
同社は料金ページで、サブスクリプションによる収益がArtCraftを無料かつオープンな状態に保ち、開発を加速する助けになると明記している。
すべての利用者から編集ソフトの月額料金を徴収する方式とは、開発費を賄う仕組みが異なる。
ただし、編集アプリの利用料、AI生成にかかる費用、制作環境を移行する負担、長期的な開発・保守費用は、それぞれ分けて考える必要がある。
ArtCraftが公表している条件を整理すると、次のようになる。
| 費用・負担の種類 | ArtCraft側が公表している条件 | 利用者が確認すべき点 |
|---|---|---|
| 編集アプリの利用料 | Crafting Appsは無料。PhotoCraftのコードはMITまたはApache-2.0ライセンスで利用可能 | 必要な機能がそろっているか。独自の改良や派生開発が可能か |
| AI生成の費用 | 生成クレジットは任意の定期契約または単発購入。他社サービスや自前の計算資源も利用可能 | 編集アプリの利用料と、AI生成に必要な計算費用を分けて考える |
| 制作環境の移行 | PSDの互換性、外部プラグイン、RAW現像の色再現などに課題が残る | 自分の作品や機材を使い、納品までの作業を問題なく再現できるか |
| 開発・保守の費用 | 運営側は、有料サービスの収益を無料アプリの開発に充てると説明 | 長期的な開発資金や保守体制が確保されるか |
この整理は、10月8日に確認したアプリの提供条件とPhotoCraftのライセンス、各アプリの開発評価に加え、10月11日に確認した生成サービスの料金体系に基づいている。
PhotoCraftの実務評価は10月10日付の資料、FilmCraftとLightCraftの評価は10月8日に確認した資料を参照した。
なお、表は各種の費用や負担を整理したものであり、制作環境の移行費用やArtCraftの実際の運営費用を測定したものではない。また、任意のAI生成サービスへの課金を、編集アプリの必須料金として計上しているわけでもない。
無料で利用できるようになれば、これまで費用を理由に試せなかった人にも選択肢が広がる。
一方、制作環境を移行する際には、既存ファイルの検証や作業手順の見直しが必要になる場合がある。公開後も不具合の修正や新しいOSへの対応、機能改善などの作業は続く。
ソースコードが公開されていれば、別の開発者が開発を引き継ぐことも可能だ。しかし、引き継ぐ人材や資金が自然に集まるとは限らない。
ArtCraftが提供する7本それぞれに、どの程度の開発・保守費用を継続的に投入できるのかは、現在の料金ページだけでは判断できない。
AIで操作できる設計は、Adobe製品との差別化につながるか
PhotoCraftには、Adobeの操作体系を再現するだけでなく、AIエージェントによる操作を前提とした特徴もある。
PhotoCraftのREADMEで説明されている設計では、画面上の操作と、スクリプトやAIによる操作が、共通の編集コマンドを使用する仕組みになっている。
GUIに加え、コマンドライン、JSONによる制御、AIエージェントが外部ツールを呼び出すためのMCPにも対応しており、いずれも同じ編集機能を実行できる。
例えば、大量の画像を順番に開いて加工し、指定した形式で書き出すといった処理を、人が画面上で何度もクリックすることなく、自動化できる。
ここには、Photoshopに似た操作画面を提供することとは別の価値がある。
人間は使い慣れた操作で作品を編集し、繰り返し発生する作業はスクリプトやAIエージェントに任せる。こうした使い分けができれば、制作作業の効率化につながる可能性がある。
ただし、AIを使ってアプリを開発したことと、完成したアプリをAIで操作できることは、別の特徴だ。
また、10月10日付のPhotoCraftの評価では、AI画像生成などの機能が不足していることも明記されている。Claudeを使って開発したからといって、Adobeが提供する生成AI機能まで実装されているわけではない。
AIエージェントから共通のコマンドを呼び出せる仕組みは、自動化を進めるうえで有利に働く。しかし、その結果が正しいかどうかは別途検証しなければならない。
例えば、色やレイヤーの解釈がPhotoshopと異なっていれば、自動化によってその違いが大量のファイルに反映されてしまう可能性もある。
操作を自動化できることと、制作工程全体を安心して任せられることの間には、依然として隔たりがある。
ArtCraftがAdobe製品の有力な代替手段となれるかどうかは、使い慣れたファイルを問題なく編集し、他の制作者とやり取りできるか、さらにソフトウェアの更新後も同じ作業を再現できるかにかかっている。
有料のAI生成サービスから得られる収益や、オープンソースコミュニティによる共同開発が長期的な保守を支え、実務で必要な互換性や安定性が確保されれば、クリエイティブソフトの選び方も変わるかもしれない。
利用者は月額料金や機能の豊富さだけでなく、ソフトウェアを自分で改良できる自由や、AIによって制作工程を自動化できる柔軟性も基準に、制作環境を選べるようになる。



