TSMCの共同COOであるY. J. Mii(米玉傑)氏が、先端半導体の製造プロセス開発でAIが直面する限界を語った。経済日報の現地取材によると、同氏は9月15日に国立台湾大学で開かれた対談で、回路設計へのAI活用を評価する一方、A14などの開発には既存の材料や装置では解けない問題が残ると説明した。ところがA14向けにも、AIによる設計支援の共同開発は進んでいる。この違いを理解するには、チップの回路を最適化する仕事と、その回路を実際に作れる製造工程を確立する仕事を分けて見る必要がある。

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AIが得意なのは、評価できる設計を探す仕事

Mii氏が登壇したのは、国立台湾大学の職業生涯発展中心とTSMC文教基金会、聯合報が共催した対談だ。経済日報は、同氏がプログラミングやEDA(電子設計自動化)でのAIの有用性を認め、回路設計は入力と出力が比較的明確で、大量のデータを扱うため最適化を支援しやすいと述べたと報じた。

その具体像は、設計ツールを提供するSynopsysの説明から見えてくる。同社のDSO.aiは、強化学習を使って設計フローの選択肢を探索し、電力・性能・面積を示すPPAの改善を目指す。設計の候補を試し、結果を評価し、よりよい組み合わせへ探索を進める仕組みである。一般の対話AIに文章で質問する使い方とは、扱う対象も評価方法も異なる。

設計では、速く動けばそれでよいとは限らない。消費電力や面積も制約になり、その兼ね合いで採用する案が変わる。DSO.aiが掲げる複数の目標の同時最適化は、この選択を支えるものだ。人が一つずつ試すには多すぎる候補でも、結果を比べられるならAIで探索を広げられる。

しかも、対象は成熟した製造プロセスに限られていない。Synopsysは2026年4月22日の発表で、A14のNanoFlex Proを使うFusion Compiler向けに、AIエージェントによる実行支援をTSMCと共同開発していると説明した。設計フローの各段階で、信号のタイミングを改善できる箇所を見つける取り組みだ。

同じ発表では、設計が製造上のルールを守っているかを調べる物理検証にも触れている。IC ValidatorでAIによる支援を開発し、設計ルール違反の発見と解消を速めるという。こうした違反を探す検査はDRCと呼ばれ、設計案が製造側の条件に合うかを確認する役割を持つ。いずれも開発の取り組みとして示されたもので、A14製品の量産実績や、工程開発全体の自動化を意味するものではない。

A14向けの回路設計をAIで支援することと、A14の製造技術そのものをAIだけで完成させることには距離がある。 ノード名が同じでも、解こうとしている問題は違う。

製造現場では、すでにAIを使っている

TSMCは製造工程にもAIを取り入れている。2025年の年次報告書の「Quality and Yield Advancement」では、歩留まり分析や工程制御に機械学習などを使っていると説明する。設備故障の検出に加え、仮想計測やウェハーの欠陥検査も用途に挙げた。生成AIと半導体製造の専門知識を組み合わせ、工程のばらつきを見つける作業や解析を速める取り組みも記されている。

つまり、製造に関わる仕事でも、AIの活用はすでに進んでいる。ただし、工程の異常を見つけられることと、未知の工程を作り上げられることは、同じ成果ではない。

AIによる設計候補の探索、製造中の異常検出、新しい製造工程の確立は、それぞれ成果の確かめ方が異なる。

作業 公開資料にある具体例 成果を確かめる対象
設計候補の探索 DSO.aiが強化学習でPPAを最適化 設計候補の電力・性能・面積がどう変わるか
製造中の監視・解析 TSMCが歩留まり分析、故障検出、欠陥検査にAIを活用 実際の工程やウェハーで異常を捉え、品質管理に役立てられるか
新しい製造工程の確立 A14で基準工程を構築し、歩留まりや素子・配線の特性を改善 作った素子や配線が目標の特性を満たし、工程として成立するか

表は、SynopsysのDSO.ai製品説明とTSMC年次報告書の5.2.2、5.3.2節を、作業の対象ごとに分類したものだ。TSMCが定めた公式の区分やAIの性能順位ではなく、最後の列は各作業から導いた検証対象の整理である。方式も対象も違うため、効果の大きさを横並びには比較できない。

この区別があると、「AIがチップ開発を加速した」という発表も読みやすくなる。設計候補を早く探せたのか、製造の異常を早く見つけたのか、新工程を実証できたのかで、前進した場所が変わる。設計作業の短縮が、そのまま工場の立ち上げ期間の短縮を表すわけではない。

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A14で必要なのは、実際に作って確かめること

TSMCが年次報告書で挙げるA14の開発課題には、基準となる製造工程の構築と歩留まりの改善がある。トランジスタや配線の抵抗・容量に関わる特性も対象だ。回路の組み合わせを選ぶだけでは済まず、作ったものが狙った性質を持つかを確かめる仕事が含まれている。

同社の露光技術研究では、回路パターンを重ねて形成する際の位置ずれや材料の欠陥を減らす取り組みも続く。これは露光研究全体の説明であり、すべてをA14だけの課題とすることはできない。それでも、先端プロセスの開発が、計算上の解を得ることから実物の加工精度までを扱う仕事であることは分かる。

AIが有望な候補を示したとしても、その候補を装置で加工できるか、作った素子が必要な特性を満たすかという検証は残る。実験から得たデータで予測を改善する余地と、実験を省いてよいかという問いは別である。Mii氏が語った材料・設備の制約は、この区別に結び付く。

A14で目指す改善自体は大きい。TSMCは2025年の発表で、N2と比べて同じ消費電力なら最大15%の高速化、同じ速度なら最大30%の消費電力削減を掲げた。ロジック密度は20%超の向上を目指し、生産開始は2028年を予定している。これらは同社の計画であり、条件の異なる性能改善と省電力化の最大値を、同時に得られるという約束ではない。

NanoFlex Proも、設計と製造技術を協調して最適化してきた経験を生かす仕組みとして発表されている。顧客が使う設計の選択肢と、それを支える製造技術は結び付いている。だからこそ、設計側でAIを使いながら、製造側では実物の特性を詰める作業を続けることに矛盾はない。

AIが担当した仕事をどう見極めるか

Mii氏はAIを「3歳のスーパーマン」に例えたと経済日報は伝えている。強力な能力があっても、その結果を十分に理解しているとは限らず、機密を含む研究情報の扱いには慎重さが必要だという見方である。ここには技術性能とは別に、どの情報を与え、結果の採否を誰が判断するかという課題がある。

今回の発言から、AIが将来も材料やプロセスの研究に役立たないと結論付けることはできない。TSMC自身が製造管理にAIを使い、設計ツール企業もA14向けの支援を開発している。公表済みの取り組みが示すのは、AIへの期待と、工程を実証する責任が並行して存在する現状だ。

今後の成果を判断する際には、AIを使ったという説明に加えて、何の作業が短くなり、どの製造条件で確かめられたかが手掛かりになる。設計の改善と実際の歩留まり向上が結び付き、その条件が示されれば、先端半導体の開発期間をどこまで縮められるのかを具体的に評価できる。