ASMLのChristophe Fouquet CEOは、Financial Timesの取材で、AIが社会や産業を大きく変えるまでには10〜15年かかるとの見方を示したと報じられた。

9月下旬に伝えられたこの発言は、足元で続くGPUへの巨額投資だけでなく、その先で半導体製造そのものがどう変わっていくのかにも目を向けさせる。ASMLはすでに既存の露光装置の増産を計画し、主要顧客と次世代技術の導入時期も示している。

ただし、露光装置の生産台数を増やすことと、より複雑な半導体を低コストで量産できるようになることは同じではない。長期化するAI需要を、半導体工場の実際の生産能力へどう結び付けていくかが問われている。

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光学部品が左右するASMLの増産余地

ASMLは2025年の年次報告で、自社の露光装置の生産台数が、主要サプライヤーであるCarl Zeiss SMTの生産能力によって制約されると説明している。レンズやミラーなどの重要な光学部品を同社から単独で調達しているためだ。

ASMLが自社の組立工場を拡張しても、光学部品の供給が追いつかなければ、完成する露光装置の台数は増えない。

EUV(極端紫外線)露光装置は、光を使って微細な回路パターンをウエハへ転写する。そこで使われる光学部品には、極めて細かなパターンを正確に描きながら、量産工程で繰り返し利用できる精度が求められる。

こうした高度な専門技術を持つ企業と分業することはASMLの強みの一つだ。一方で需要が急増した場合、ASMLだけでなく、部品を供給する企業も同時に生産能力を拡大しなければならない。装置を作る技術を持っていることと、市場が求める台数を実際に供給できることは別の問題である。

増産に向けた動きは、すでに具体化している。

7月15日の決算説明でASMLは、従来型のLow NA EUV装置について、2026年に約65台を出荷できる生産能力を確保する見通しを示した。

2027年にはその生産能力を約30%引き上げる計画で、2028年にはさらに約30%拡大する可能性を検討している。ただし、2028年分については現時点で確定した増産計画ではない。

しかも、AIが必要とする半導体は演算用チップだけではない。

ASMLは、先端ロジックとDRAMの両方で顧客が生産能力を拡張していると説明しており、EUVだけでなく液浸DUV(深紫外線)露光装置についても能力増強を計画している。

DRAMでは、複数回に分けてパターンを形成する工程の一部をEUVによる単一露光へ置き換える動きが進む一方、液浸DUVも引き続き使われる。新しい露光技術が登場したからといって、従来の装置が一斉に不要になるわけではない。

さらに、装置を生産して顧客へ届ければ終わりというわけでもない。

顧客の半導体工場では、納入された装置を設置し、量産に使える状態まで立ち上げる工程が必要になる。7月の説明でASMLが増産への対応力として挙げたのも、サプライチェーンや自社の製造能力だけでなく、顧客工場で作業する設置チームだった。

したがって、露光装置の生産能力が30%増えたとしても、同じ時期にAI半導体の供給能力が30%増えるとは限らない。既存装置の性能を引き上げるアップグレードも含め、納入された設備を実際の生産能力へ変えるまでには複数の工程が残る。

増産と次世代技術の導入は別の時間軸で進む

ASMLの次世代露光装置「High NA EUV」は、光学系の開口数(NA)を従来の0.33から0.55へ高める。

公式仕様によると、従来型とHigh NAはいずれも波長13.5nmのEUV光を使うが、露光できるパターンの解像度は従来型の13nmからHigh NAでは8nmへ向上する。

光そのものの波長を短くするのではなく、光学系を改良することで、より細かなパターンを形成する技術だ。ここでいう8nmは露光装置が形成できるパターンの解像度であり、「8nmプロセス」のような半導体製造プロセスの名称を意味するものではない。

より細かなパターンを一度に描けるようになれば、これまで複数回に分けて形成していたパターンを、より少ない工程で作れる可能性がある。SamsungとASMLも、High NAによってDRAMの製造工程を簡略化できる可能性に期待している。

ただし、露光装置の性能が高くなっただけで、すぐに量産へ導入できるわけではない。

どの配線層で露光回数を減らせるのか、従来工程と比べて製造コストを下げられるのかなどを、顧客が用途ごとに検証する必要がある。

ASMLによる既存装置の増産、SamsungやTSMCによるHigh NA導入、さらにその先の大型フォトマスクへの移行は、それぞれ異なる時間軸で進んでいる。

下表は7月の決算説明、9月8日のSamsungとの共同発表、TSMCとの共同発表について、対象、時期、公表内容の確度を整理したものだ。

いずれも将来の計画や目標であり、DRAMと先端ロジックでは用途も異なる。導入時期の早さを、そのまま企業間の技術力の差とみなすことはできない。

時期 主体と対象 公表された内容 確度
2027年 ASMLのLow NA EUV供給 生産能力を約30%増やす 計画
2028年 ASMLのLow NA EUV供給 さらに約30%増やす 検討
2028年まで Samsungの将来DRAM High NAを量産へ導入 計画
2030年から TSMCの先端ノード High NAを量産へ導入 意向
2031年まで ASML・TSMC主導の共同構想 12インチマスクの試験ラインを整備 目標
2033年 同共同構想 大型マスク対応の露光装置を先端ノード量産で利用できる状態へ整備 目標

大型フォトマスクへの移行は、High NAを最初に量産へ導入する段階とは別の取り組みだ。

ASMLとTSMCは、まず現在使われている6インチマスクでHigh NAを導入し、その後12インチの大型マスクへ移行する構想を示している。

フォトマスクは、半導体の回路パターンをウエハへ転写する際に使う原版に当たる。大型化することで生産性を高めるとともに、複数の露光領域をつなぎ合わせる際の制約を減らす狙いがある。

ただし、2033年という時期は量産に対応できる状態を目指す目標であり、すでに実現した技術ではない。

半導体の性能向上も、平面上の回路を単純に小さくするだけでは進みにくくなっている。

ASMLのムーアの法則に関する解説では、新材料や立体的なトランジスタ構造に加え、複数のチップを組み合わせる先進パッケージングの重要性も挙げられている。

トランジスタそのものを立体的な構造にすることと、別々に製造したチップを積み重ねて接続することは、それぞれ異なる製造技術だ。High NA EUVが担うのは、その中でも極めて細かな回路パターンを形成する工程であり、チップを積層する装置ではない。

つまり、次世代半導体で求められるのは露光装置の台数を増やすことだけではない。

微細なパターンを複雑な構造へ正確に重ね合わせ、それが設計通りに作られているかを検査する工程もさらに重要になる。長期的な技術ロードマップには、露光技術そのものの進歩だけでなく、それを安定した量産工程として使いこなすための技術成熟も含まれている。

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AI需要が半導体を押し上げ、製造現場にもAIが入る

ASMLは2025年9月、Mistral AIへ13億ユーロを出資し、完全希薄化後ベースで約11%の株式を保有すると発表した。

長期協業の発表で示されたのは、ASMLが持つ半導体製造装置や製造工程についての知識と、Mistral AIのモデルやAIエージェント技術を組み合わせる構想だった。

AI需要の拡大によって恩恵を受ける半導体製造装置メーカー自身が、AIを使って製造工程の複雑さを管理しようとしている。

用途は、技術者がチャットAIに質問するといった使い方だけではない。

6月12日の公式説明によると、ASMLは光近接効果補正(OPC)に10年以上前からAIを利用してきた。

OPCは、実際の露光工程で発生するパターンの歪みをあらかじめ予測し、その影響を打ち消すようフォトマスク上のパターンを補正する技術である。

従来は主に計算を高速化するためにAIを利用してきたが、Mistral AIとの協業では、より適切な補正条件を見つけ、設定に必要な時間を短縮することも目指している。

ASMLは2026年1月、顧客と共同で生成AI機能の初期検証を終えた。ただし、これはすべての顧客へ実用展開したという意味ではない。

EUV光源の調整や半導体の検査にも、同じような考え方が使われている。

EUV光源の設定をAIで最適化できれば、技術者が条件を一つずつ試す作業を減らせる可能性がある。

電子線を使った検査では、画像の品質を高めたり、ウエハ上のどの場所を詳しく調べるべきかを選んだりする用途にAIを利用できる。すべての場所を同じ精度で詳しく検査すれば時間がかかるため、検査精度と処理速度をどう両立させるかが課題になる。

装置の保守でもAIの利用が進められている。

エラーログや過去の作業記録を解析し、故障原因を特定する作業を支援するものだ。

ASMLはMistral AIとの初期試験で、一部のサブシステムについて、技術者と同等の診断精度を維持しながら、エラー診断にかかる時間を70%以上短縮できたと説明している。

ただし、診断時間の絶対値、試験件数、詳しい評価条件は公表していない。

あくまで特定の診断作業についてASMLが示した評価であり、露光装置全体の稼働率や、半導体工場全体の生産性が70%向上したという意味ではない。

この違いは、Fouquet氏が示した「10〜15年」という見通しを考えるうえでも重要になる。

AIは演算用半導体やメモリーへの需要を押し上げ、その結果として半導体製造装置もさらに高度化する。一方、その複雑な装置の設計、調整、検査、保守をAI自身が支援するという循環も生まれ始めている。

ただし、個別の初期試験で得られた改善を、半導体工場全体で安定して再現できるかどうかは、これから検証していく段階にある。

2027年に予定する増産が実際の装置納入と立ち上げまで進むのか。High NAが顧客のどの製造工程でコスト削減につながるのか。AIを使った保守支援が量産現場で装置の停止時間をどこまで短縮できるのか。

こうした成果が一つずつ積み重なれば、ASMLはAI向け半導体を作るための生産能力を拡大すると同時に、その生産を支える装置そのものの改善にもAIを利用できるようになる。

AIの影響が10年、15年と続くという長期的な見通しを裏付けるのは、予測された年数そのものではない。半導体工場で実際に積み上がっていく生産能力と技術の進歩である。