BAE Systemsの研究開発部門FAST Labsが、米国防高等研究計画局(DARPA)の高周波デバイス冷却プログラム「THREADS」でPhase Iを完了し、Phase IIへの継続支援を得た。2024年に始まった1200万ドルの研究は、材料と製造プロセスを探る段階から、出力と放熱性能をさらに引き上げる段階へ移る。ただし、今回公表されたのは選定の事実であり、BAE固有の電力密度や熱抵抗、追加支援額は明らかにされていない。Phase Iで確認された成果と、計画全体が掲げる到達目標は分けて読む必要がある。
1200万ドルで始まった研究がPhase IIへ
BAEは2024年5月、THREADSのためにDARPAから1200万ドルの契約を受けたと発表した。正式名称は「Technologies for Heat Removal in Electronics at the Device Scale」。高出力の無線周波数(RF)回路で、トランジスタ内部に生じる熱をデバイスのスケールで逃がす研究である。
2026年8月12日の発表で増えた事実は、FAST LabsがPhase Iを完了し、継続支援を受けてPhase IIへ進んだことだ。研究代表者のIsaac Wildesonは、Phase Iで材料とプロセスの改良手法が妥当だと確認できたと説明する。一方、測定した出力電力密度、接合部温度、寿命など、手法の差を評価できる数値は示していない。Phase IIの契約額、期間、終了条件も公表されなかった。
研究はニューハンプシャー州ナシュアのMicroelectronics Centerで進む。同施設はGaNとガリウムヒ素(GaAs)の集積回路を開発・製造し、米国防総省のCategory 1A Trusted Supplierに認定されているとBAEは説明している。ここにModern Microsystemsが加わり、さらにPenn State University、Stanford University、University of Notre Dame、University of Texas at Dallasも研究チームに名を連ねる。量産設備を持つ企業と材料・デバイス研究に強い大学を同じチームに置く構成だが、THREADSで開発した素子の量産準備が整ったことを意味するわけではない。
81 W/mmと熱抵抗8分の1が狙うもの
窒化ガリウム(GaN)はワイドバンドギャップ半導体であり、高い電力密度で動くRF増幅器に使われる。DARPAは2022年の計画開始時、GaNが前世代のトランジスタ技術より5倍を超える出力密度を実現した一方、電子的にはさらに1桁の増加が可能だと説明した。持続動作を阻むのは廃熱である。局所的な温度上昇は性能を落とし、素子寿命も縮めるため、実際の回路は理論上の限界より低い出力で運用される。
THREADSは二つの課題を同時に解こうとしている。一つは、電流が流れるチャネルの特性を保ちながら、素子内部の熱抵抗を下げること。もう一つは、高出力トランジスタのホットスポットから熱を移し、RF性能を損なわず外へ逃がすことだ。よく冷える材料を足しても電気的特性が崩れれば増幅器として使えないため、放熱性能だけを競う計画ではない。
最終目標は、Xバンドで動く高効率・高信頼のトランジスタと電力増幅器の試験デバイスを作り、熱抵抗を8分の1に下げながら出力電力密度81 W/mmを達成することだ。81 W/mmと8分の1は現時点でもDARPAが掲げる計画目標であり、BAEがPhase Iで到達した測定値ではない。この区別を外すと、研究段階と達成段階が逆転してしまう。
DARPAは以前にも、接合部から100マイクロメートル以内の熱抵抗を減らすNear Junction Thermal Transport(NJTT)を進めていた。そこでは熱伝導率の高いダイヤモンド基板への置換、低熱伝導層の除去、接合部付近の液冷が検討され、GaN増幅器の電力処理能力を3倍以上にすることが目標だった。NJTTに比べ、THREADSは材料とトランジスタ構造、冷却経路を組み合わせ、Xバンドの増幅器試験デバイスまで評価対象を広げている。
電力密度5倍はレーダー距離2倍を保証しない
DARPAは2026年6月、Phase Iで現在の最先端デバイスに比べてRF電力密度を約5倍に高め、防衛用途に必要な素子寿命を維持したと発表した。この性能向上を運用面に換算すれば、レーダー距離がおよそ2倍になるという。
ただし、約5倍はTHREADS参加者全体に対するDARPAの説明であり、BAE単独の測定結果として公表された数字ではない。比較対象となる「現在の最先端デバイス」の仕様や、各チームが使った材料、トランジスタ構造も公開されていない。どの手法が5倍のうち何を担ったかは判断できない。
レーダー距離も、トランジスタの電力密度から一意に決まる数字ではない。デバイスの出力を増幅器と送信機でどこまで利用できるかに加え、アンテナや周波数が効く。対象物、受信系、信号処理によっても結果は変わる。DARPAが2022年に掲げた見通しは2〜3倍、2026年のPhase I説明はおよそ2倍、BAEの最新発表は「ほぼ3倍」と表現しており、前提と成熟段階が揃っていない。したがって、これらは実機レーダーで一律に確認された探知距離ではなく、熱制約を緩めた場合のシステム効果を示す見積もりとして扱うべきだ。
デバイスの成果を軍用システムへつなげるPhase II
Phase IIでDARPAは、出力と熱性能をさらに高める。同時に、現用および将来の軍用プラットフォームで意味を持つRF出力のしきい値を調べるシステムレベルの研究も始めた。その結果を政府機関と政府請負企業に提供し、用途の選定と技術移行を早める計画である。
システム研究が別に必要なこと自体が、Phase Iの到達点をよく表している。トランジスタで高い電力密度と寿命を両立しても、増幅器にした時点で効率や実装面積の利点が消えれば、既存プラットフォームへ載せられない。電源と周辺回路の冷却も同時に成立させる必要がある。DARPAが掲げる「装置の大きさ、重量、複雑さを増やさずに出力を高める」という条件は、素子の記録より厳しい。
BAEには、研究を既存のGaN・GaAs製造拠点で進める強みがある。だが、採用判断に必要な歩留まり、再現性、電力増幅器としての効率、製造コストは公表されていない。Phase IIが前へ進めるのは、冷えるトランジスタの実証から、どの軍用システムなら性能向上を持ち帰れるかという選別だ。81 W/mm、熱抵抗8分の1、長期寿命を同じ試験デバイスで満たし、その利点が増幅器とプラットフォームに残ると確認された時、THREADSは研究成果から調達可能な技術へ近づく。
