PS5エミュレーター「SharpEmu」で、PS5版『ASTRO BOT』と『Demon’s Souls』が実際のゲームプレイ画面まで動作したとの報告が相次いだ。

開発初期には市販ゲームをプレイできない段階だったSharpEmuが、一部の3Dゲームを操作できるところまで進んだことになる。

ほかにも「KytyPS5」がゲームプレイまで到達したタイトルの互換性情報を公開しており、「AnyPS5」はPS5向け実行ファイルをWindowsやLinuxで動かせる形式へ変換する別のアプローチを採っている。

ただし、各プロジェクトが示す「対応本数」や「実装率」は、同じものを測った数字ではない。

PS5ゲームをPCで安定して遊べる段階までどれほど近づいたのかを見るには、スクリーンショットや実演映像だけでなく、どの環境で、どこまで動作を確認したのかを見る必要がある。

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『ASTRO BOT』が動いても、最後まで遊べるとは限らない

SharpEmuの互換性情報には、2026年10月1日のテスト結果として『ASTRO BOT』と『Demon’s Souls』が登録された。

『ASTRO BOT』はゲームバージョン1.018、SharpEmuのビルドa424a67、『Demon’s Souls』はゲームバージョン1.004、ビルド36acf4aでテストされている。いずれもWindows環境での報告だ。

『ASTRO BOT』の報告 『Demon’s Souls』の報告

両タイトルとも互換性ステータスは「Ingame」とされている。これは、起動画面やメニューだけでなく、実際にゲームプレイできる場面まで処理が進んだことを意味する。

ただし、「Ingame」は「最後まで問題なく遊べる」という意味ではない。

『Demon’s Souls』の報告には、軽微な描画上の問題に加え、依然として動作が重いと記されている。

『ASTRO BOT』の投稿本文には「AMD GPUではプレイ可能だが、NVIDIA GPUには問題がある」と記載されている。ただし、同じ投稿に記載されたテスト環境はRyzen 7 5800X3DとGeForce RTX 4070 Superの組み合わせだ。当該投稿だけでは、どのAMD GPUでプレイ可能と確認したのかまでは分からない。

そのため、この1件の報告から「AMDなら正常に動く」「NVIDIAでは動かない」と一般化することはできない。

SharpEmuの互換性リストでは、軽微な問題を除けばゲームを最後まで進められる状態を「Playable」、ゲームプレイまで到達しても大きな問題が残る状態を「Ingame」と区別している。

2026年10月2日時点では、テスト済み61タイトルのうち、PlayableとIngameがそれぞれ10タイトル登録されている。

SharpEmuの互換性リスト

一方、KytyPS5で使われる「In game」は、「操作可能なゲームプレイへ到達した状態」を意味し、ゲームの完走を妨げる不具合が残っていてもこの分類に入る。

さらにKytyPS5では、OSごとに寄せられた複数の報告のうち、最も良い結果をタイトルの代表ステータスとして表示する。

AnyPS5が公開する進捗率はさらに性質が異なり、ゲームの本数ではなく、PS5向け関数やGPU命令への対応状況を数えたものだ。

プロジェクトと指標 公開表示値 何を数えているか 利用時に確認が必要な点
SharpEmuの互換性 テスト済み61本、Playable 10本、Ingame 10本 Playableは軽微な問題を除けば完走可能、Ingameは大きな問題が残っていてもゲームプレイまで到達 ゲームのバージョン、SharpEmuのビルド、PC構成ごとの結果
KytyPS5の互換性 テスト済み264本、In game 133本 操作可能なゲームプレイへの到達。完走できない場合も含む 自分のOSやGPUで同じ結果になるか、その後も進行できるか
AnyPS5の関数実装 2,323/3,017関数、77.0% プロジェクトで定義済みの関数のうち、未実装扱いではなくなったもの 実際にゲームが要求する通り動作するか
AnyPS5のGPU命令対応 614/1,166命令、52.66% RDNA 1・RDNA 2の命令一覧のうち、デコーダーが認識できるもの 変換後の描画が正しく安定して動くか

表の数値はいずれも2026年10月2日時点の各プロジェクトの公開情報に基づく。

ただし、テスト対象やエミュレーターのビルド、PC構成、分類基準は異なるため、この数字から互換性や開発の成熟度を直接比較することはできない。

SharpEmuの10本とKytyPS5の133本をそのまま比較したり、AnyPS5の「77%」を「PS5ゲームの77%が動く」と解釈したりすれば、実際の進捗とは大きく異なる。

CPUが同じx86-64でも、PS5のゲームがそのままPCで動くわけではない

PS5にはAMDのZen 2系CPUが使われており、命令セットは一般的なWindows PCでも広く使われるx86-64である。GPUはRDNA 2をベースとしている。

ソニーのPS5仕様

そのため、異なるCPUアーキテクチャのゲーム機をエミュレートする場合のように、すべてのCPU命令を別の形式へ逐一変換しなくても、PCのx86-64 CPUでゲーム側の命令を直接実行できる余地がある。

SharpEmuも、PS5ゲームのCPU命令をホストPCで直接実行する方式を採っている。

しかし、CPU命令が動くだけではPS5ゲームは動かない。

ゲームが利用するPS5固有のシステム機能をWindowsやLinux上で再現し、ファイル操作やメモリ管理、入力、音声などをPC側の機能へつなぐ必要がある。

GPUについても同様だ。

KytyPS5の開発資料では、PS5向けGPUプログラムを解析して中間表現へ変換し、最終的にSPIR-Vを生成してVulkan経由でPCのGPUへ処理を渡す仕組みが説明されている。

KytyPS5の開発資料

CPU側の処理が正常に進んでも、このGPU変換が不十分なら、画面が正しく表示されなかったり、ゲームが途中で止まったりする。

SharpEmuの公開版v0.0.4-release.2でも、SPIR-Vへ変換できるGPU命令が追加されている。

SharpEmuのリリース情報

こうした対応の積み重ねによって動作するゲームは増えていくが、対応命令が一つ増えたからといって、すべてのタイトルの性能や互換性が向上するわけではない。

プロジェクトの成り立ちも異なる。

SharpEmuはC#で一から開発されている。一方、KytyPS5はC++製のPS4・PS5エミュレーター「Kyty」を基に大幅な変更を加えて開発されている。

SharpEmuのREADMEでは、PS4エミュレーター「shadPS4」やKytyなどを、アーキテクチャやネイティブコード実行を理解する上で参考にしたプロジェクトとして挙げている。

前世代のエミュレーター開発で蓄積された知見を利用できる部分はあるものの、PS5固有の機能については個別に実装し、ゲームごとに動作を確かめていく必要がある。

SharpEmuの初期READMEでは、市販ゲームをプレイできない段階だと説明されていた。そこから『ASTRO BOT』や『Demon’s Souls』がゲームプレイまで到達するようになったこと自体が、開発の進展を示している。

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AnyPS5の「ネイティブ実行」でもGPU処理の変換は必要

AnyPS5は、SharpEmuやKytyPS5とは少し異なる方法を採る。

PS5ゲームの実行ファイルを解析し、WindowsやLinuxで実行できる形式へ再リンクするツールとして開発されている。

ゲームが依存するPS5固有のシステムライブラリを、PC側で用意した代替ライブラリへ接続することで実行を試みる。

AnyPS5のプロジェクト

これは、ゲームのソースコードを復元してPC向けに再コンパイルし、公式のPC版を作るような方法とは異なる。既存の実行ファイルを解析し、その依存先をPC側の環境へ合わせる方式だ。

開発者はこの方式を、別のエミュレーター用プロセスを介さない「ネイティブ実行」と説明している。

ただし、CPU命令をPCで直接実行できることと、PS5向けのGPU処理をそのままPCのGPUで実行できることは別である。

技術的な残課題によると、現在もシェーダーの再コンパイルはゲームの実行中、Vulkanへ渡す直前に行われる。

将来的には、この処理を実行ファイルの変換時に済ませる構成へ移すことが検討されている。そのため現時点では、すべての変換がゲーム起動前に完了するわけではない。

実際のゲーム動作例としては、互換性表に『Dreaming Sarah』がWindowsで「In game, playable」と記録されている。

AnyPS5の互換性表

GeForce GTX 1050 TiとCore i5-7500の環境では60fpsという記録もある。

ただし、解像度や測定した場面、ゲームを最後まで進められたかどうかまでは記載されていない。この1作品の結果から、大規模な3Dタイトルでも同じ性能が得られると考えることはできない。

AnyPS5が示す77.0%という関数実装率にも注意が必要だ。

分母となる3,017関数は、プロジェクト内で現時点までに定義されている関数であり、PS5が備えるすべてのシステム機能を完全に列挙したものではない。

また、技術的な残課題には、一部の機能が実際の処理を行わない簡易的な実装になっていることも記されている。

GPU命令についての52.66%も同様で、614命令をデコーダーが認識できることを示した数字であり、それらを使うあらゆるゲームで正しい描画が確認された割合ではない。

CPUについても細かな互換性問題が残る。

AnyPS5には、AMD固有の一部の命令をIntel製CPUでも動かせるよう変換する機能が用意されているが、まだ対応していない命令があるほか、一部の処理は人工的なテストだけで確認されている。

PS5と一般的なゲーミングPCが同じx86-64系CPUを使うことは開発上の利点だが、それだけでPS5の実行環境全体を再現できるわけではない。

「対応本数」より重要なのは、同じ結果を再現できるか

KytyPS5が公開した9月21〜27日の週次更新には、映像だけでなく、音声や入力に関する改善も掲載されている。

『ASTRO’s PLAYROOM』では、USB接続したDualSenseへ音声に応じた振動を伝える処理が追加された。一方で、レイトレーシングにはまだ対応しておらず、HDRからSDRへの変換も残る課題とされている。

週次更新

ゲームプレイ画面まで到達できるようになった後にも、実際のPS5に近い体験を再現するための作業は数多く残る。

また、この投稿はKytyPS5として初めて公開した「週次更新」であり、エミュレーターそのものがこの時に初公開されたわけではない。

紹介された改善の中には開発ブランチ上で作業中のものもある。そのため、動画やスクリーンショットで動作しているタイトルが、利用者が入手できる最新の公開ビルドでも同じように動くとは限らない。

AIを使った開発についても、プロジェクトの方針と実際の成果を分けて考える必要がある。

SharpEmuは調査やコード作成へのAI利用を認める一方、提出するコードの全行を開発者自身が理解し、修正や保守ができることを求めている。

KytyPS5も、AIが生成したコードについて人間による理解、レビュー、テストを要求し、最終的な責任は人間が負うとしている。

SharpEmuの貢献ガイド KytyPS5のAI利用方針

これらはAIを使った開発の品質管理方針を示すものであり、「AIによって開発速度が何倍になった」といった効果を実証したものではない。

PS5ゲームをPCで継続して遊べる段階に達したかを判断するには、同じゲームバージョンとエミュレーターのビルドを使い、OS、CPU、GPUを明示したテストが増える必要がある。

さらに重要なのは、ゲームを起動して数分動かせるかではなく、別のPCでも同じ場面まで到達できるか、長時間プレイしても安定するか、セーブして終了した後に正常に再開できるかといった検証だ。

そうした結果が公開ビルドで積み重なれば、「PS5ゲームがPC上で動いた」という技術デモの段階から、利用者自身が実用性を確かめられる段階へ近づいていく。