AMDがグラフィックボードメーカーに供給するGDDR6メモリの価格を、2026年10月1日付で引き上げたと報じられた。台湾のハードウェア情報サイトBenchLifeが10月10日に伝えた情報によると、中国の業界情報サイト「博板堂」が価格改定を確認したという。対象はGPUと組み合わせてパートナー企業に供給するメモリで、具体的な値上げ幅は明らかになっていない。AMDからの正式な発表も確認されていないが、メモリ市場では、旧規格のGDDR6を選べばコストを抑えられるという従来の考え方が通用しにくくなっている。GDDR6は減産が進み、新しいGDDR7も生産能力の制約を受けている。今後のRadeonの価格を左右するのは、メモリの規格だけでなく、各社が必要な供給量を確保できるか、そして増産の効果がいつ市場に現れるかという点だ。
AMDがGDDR6の供給価格を引き上げ、グラフィックボードの製造コストに影響
今回報じられたのは、AMDがパートナー企業に供給する部材の価格改定だ。AMD自身がGDDR6メモリを製造しているという意味ではない。グラフィックボードメーカーは、AMDからGPUと対応するメモリを調達し、基板や電源回路、冷却装置などと組み合わせて完成品を製造・販売している。今回の値上げは、その製造工程で必要となる部材の調達コストに関わるものだ。
GDDR6は、現在販売されているRadeonシリーズにも採用されている。例えば、AMDの公式製品仕様によると、Radeon RX 9060 XTの16GBモデルにはGDDR6メモリが搭載されている。そのため、GDDR6の供給縮小は、旧世代のグラフィックボードの修理や在庫販売だけでなく、現行製品の製造にも影響する問題だ。
ただし、メモリの調達価格が上昇したからといって、完成品の販売価格が同じ割合で上がるとは限らない。メモリが製造原価に占める割合や、ボードメーカーが利益率をどこまで調整するかによって、実際の値上げ幅は変わる。また、値上げ前に仕入れた部材の在庫が残っていれば、新しい調達価格が製品価格に反映されるまで時間がかかる可能性もある。AMDからパートナー企業への供給価格、メーカー希望小売価格、実際の店頭販売価格は、それぞれ異なるものとして考える必要がある。
さらに、製造コストを押し上げているのはメモリだけではない。BenchLifeの報道では、コンデンサや抵抗器、電源制御ICなどの電子部品も値上がりしており、プリント基板(PCB)についても価格上昇と納期の長期化が起きているという。ただし、各部材の具体的な値上げ幅や原価に占める割合は示されておらず、グラフィックボードの価格上昇をすべてGDDR6の値上げによるものと考えることはできない。
また、メモリを確保できても、ほかの部品が不足すれば完成品を出荷できない。グラフィックボードの供給状況を判断するには、個々の部材の価格だけでなく、製造に必要な部品全体の調達状況を見る必要がある。
GDDR6は減産が進み、次世代GDDR7にも供給制約
今回の値上げの背景には、グラフィックス用メモリ市場で進んでいる供給構造の変化がある。
市場調査会社TrendForceが9月30日に公表した分析によると、メモリメーカーはGDDR6の生産を縮小しており、一部のメーカーは段階的に市場から撤退している。一方、PCメーカーの中には、部材コストを抑えるためにGDDR6の採用を改めて検討する動きもある。需要側では安価なメモリを求める動きがあるにもかかわらず、供給側ではその生産量を減らしているという状況だ。
では、より新しいGDDR7へ移行すれば問題は解決するのだろうか。TrendForceの分析によると、GDDR7も十分な供給量を確保できていない。先端製造工程の生産能力がサーバー向けDRAMなどに優先的に割り当てられているためだ。さらに、AIチップ向けのGDDR7需要も強く、ゲーム用グラフィックボードだけで需給が決まる状況ではなくなっている。
| メモリ規格 | TrendForceが9月30日に指摘した供給制約 |
|---|---|
| GDDR6 | メーカーによる生産縮小と段階的な市場撤退 |
| GDDR7 | サーバー向けDRAMなどへの先端製造工程の優先配分 |
同じグラフィックス用メモリでも、GDDR6では従来製品の減産、GDDR7では他の高収益製品との生産能力の競合という、異なる問題が生じている。
これはメモリ市場全体についてのTrendForceの分析であり、AMDの個別の調達価格や契約条件を確認したものではない。それでも、旧規格のメモリを選べば必ず安価で安定的に調達できるとは限らない理由を説明している。
実際、需要が弱まっているにもかかわらず、メモリ価格が上昇する現象はすでに確認されていた。TrendForceが7月3日に公表した調査では、ノートPCの出荷低迷などによってGDDR6とGDDR7の需要が減少する一方、メーカーが生産能力をほかの主力製品へ振り向けたことで供給が絞られ、価格が上昇したと説明している。
つまり、ゲーム用GPUの販売が好調だからメモリが値上がりするとは限らない。需要が減少していても、それ以上のペースで供給が減れば、価格は上昇し得る。製造技術が成熟した規格であっても、メーカーが生産を縮小すれば、従来のような低価格を維持することは難しくなる。
DRAM工場の増設が進んでも、GDDR6の価格がすぐ下がるとは限らない
メモリの供給不足に対し、メーカー各社は生産能力の増強を進めている。ただし、新工場の建設が発表されたからといって、すぐに市場へ十分な製品が供給されるわけではない。
Micronが9月30日に公表した2026会計年度第4四半期の決算説明資料では、米アイダホ州の第1工場で2027年半ば、第2工場と日本のDRAM拡張工場で2028年後半に初期生産を開始する計画が示されている。
| MicronのDRAM工場計画 | 初期生産の予定時期(暦年) |
|---|---|
| アイダホ第1工場(ID1) | 2027年半ば |
| アイダホ第2工場(ID2) | 2028年後半 |
| 日本のDRAM拡張工場 | 2028年後半 |
これらは工場での初期生産開始予定であり、GDDR6の増産時期や価格が下がる時期を示したものではない。
Micronは同資料で、新工場が初期生産を開始してから、供給量の増加に大きく貢献するまでには数四半期を要すると説明している。工場の建設が決まる時期、最初のウェハーが生産される時期、市場に十分な量の製品が届く時期は、それぞれ異なる。
さらに、新工場でどの種類のDRAMを生産するかも重要だ。DRAM全体の生産能力が増加しても、その増加分がGDDR6の生産に使われるとは限らない。TrendForceが指摘するように、メーカーがサーバー向けメモリを優先する状況が続けば、工場の増設が進んでも、ゲーム用グラフィックボード向けメモリの供給がすぐに改善するとは限らない。
供給量が短期間では増えない状況では、価格交渉だけでなく、必要な数量をあらかじめ確保することも重要になる。
Micronは同じ決算説明資料で、戦略的に重要な顧客との間で26件の複数年契約を締結したと明らかにしている。こうした契約には、顧客が契約した数量を実際に引き取らなくても支払い義務を負う仕組みが採用されており、顧客は長期的な供給を確保できる。
もちろん、AMDがこれらの契約の当事者であると確認されたわけではない。ただ、メモリ市場では単価を交渉するだけでなく、一定期間の購入数量を約束することで供給を確保する取引が行われていることが分かる。
新工場の稼働による増産効果がすぐには現れない以上、GPUメーカーにとっては、それまでの期間に必要なメモリをどのような条件で確保するかも重要な課題となる。今回のAMDによる値上げ報道だけでは、そうした長期的な調達条件までは分からない。
NVIDIAは値上げを通知せず、供給量の調整で対応する可能性も
BenchLifeは10月10日付の記事で、NVIDIAについては、2026年第4四半期の出荷価格を引き上げるという通知がパートナー企業に届いていないと伝えている。
同媒体はさらに、NVIDIAがGDDR6やGDDR7の価格を引き上げる代わりに、GPUとメモリを組み合わせたセットの供給量を調整し、GeForce RTXシリーズの利益率を管理する可能性があるとの見方を示した。ただし、これはBenchLifeによる推測であり、NVIDIAが正式に発表した方針ではない。
また、価格が据え置かれることと、メーカーが希望する数量を仕入れられることは別の問題だ。
たとえ調達単価が変わらなくても、供給されるGPUやメモリの数量が減れば、ボードメーカーが生産できるグラフィックボードの枚数は限られる。逆に、調達価格が上昇しても、必要な数量を安定して確保できれば、完成品の出荷を継続できる可能性がある。
そのため、値上げ通知の有無だけで、今後AMDとNVIDIAのどちらの製品が安く購入できるかを判断することはできない。
NVIDIAが現時点で価格改定を通知していないという情報も、年内の価格据え置きを保証するものではない。GDDR7にも生産能力の制約がある以上、NVIDIAから値上げ通知が出ていないことをもって、グラフィックス用メモリ全体の供給不足が解消したとはいえない。
日本の消費者への影響を判断するには、今後、同じグラフィックボードが再入荷した際に価格が変化するか、比較的安価なモデルが継続的に補充されるかを確認する必要がある。
仮に高価格帯の製品しか店頭に残らなくなれば、メーカー希望小売価格が変わらなくても、購入に必要な予算は増えてしまう。
GDDR6やGDDR7の供給状況が改善したかどうかは、メモリ価格だけでなく、必要な容量を備えたグラフィックボードが複数の販売店で安定して購入できるかによっても判断できる。部材の調達環境が改善し、その効果が実際の製品価格と供給量に反映されるかが、今後の焦点となる。



