21世紀の戦場は、もはや地上や海上に留まらない。宇宙空間、特に低軌道(LEO)を埋め尽くす衛星コンステレーションが軍事作戦の神経系を担う現代において、その「神経」を物理的に破壊せずに麻痺させる技術は、覇権争いの鍵を握っている。

2026年2月、中国の研究チームが発表した「TPG1000Cs」と呼ばれる高出力マイクロ波(HPM:High-Power Microwave)兵器の小型駆動装置は、新たな宇宙開発上の脅威を予感させる物だ。西安市に拠点を置く西北核技術研究所(NINT:Northwest Institute of Nuclear Technology)が開発したこのシステムは、わずか5トンのサイズでありながら、20ギガワット(GW)という途方もない出力を、1分間にわたって持続させることに成功したのである。

この新技術は、数千、数万の衛星からなるSpaceXの「Starlink」のようなメガコンステレーションに対する、中国側の決定的な回答、すなわち「Starlink Killer」とも呼ぶべき新たな兵器の誕生を意味している。

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20ギガワットという前代未聞の出力

今回、中国の軍事関連学術誌『High Power Laser and Particle Beams(強激光与粒子束)』に掲載された論文によると、TPG1000Csは、高出力マイクロ波兵器のための「世界初のコンパクトな駆動装置(ドライバー)」とされている。この装置の驚異的な点は、そのスペックの異常さにある。

1分間という「永遠」の照射時間

従来のHPMシステムは、一度に放出できるパルスが極めて短く、連続動作時間はせいぜい3秒程度が限界であった。例えば、ロシアのSinus-7ドライバーは約1秒間のバーストで100パルス程度を供給するのが精一杯だった。それに対し、TPG1000Csは最大60秒間の連続稼働が可能であり、1回のセッションで最大3,000回の高エネルギーパルスを送り出すことができる。

電子機器を一時的に誤作動させる(ソフト・キル)だけでなく、物理的に回路を焼き切る(ハード・キル)ためには、強力なエネルギーを「継続的に」浴びせることが不可欠だ。TPG1000Csが達成した1分間という照射時間は、ターゲットとなる衛星の防御回路に協力なプレッシャーをかけ、熱的・電気的な過負荷によって確実に破壊するために十分な時間といえる。

20GWという圧倒的な出力

TPG1000Csの出力は20ギガワット(20,000メガワット)に達する。専門家によれば、地上から低軌道衛星の通信を妨害し、あるいは損傷を与えるには1GW程度の出力があれば十分だとされている。TPG1000Csはその20倍の能力を秘めており、高度500km前後を飛行する衛星に対しても致命的なダメージを与えるポテンシャルを持っている。

小型化を実現した「魔法の液体」と新構造

これほどまでの高出力を維持しながら、装置自体を長さ約4メートル、重量約5トンという「トラックに積載可能なサイズ」にまで凝縮できた背景には、材料科学と構造設計における重要なブレイクスルーがある。

高エネルギー密度絶縁体「Midel 7131」

小型化の最大の障壁は、高電圧による内部放電(リーク)を防ぐための絶縁構造だった。研究チームは、従来の空冷やガス絶縁に代わり、「Midel 7131」と呼ばれる特殊な高エネルギー密度液体誘電体を採用した。

この液体は絶縁性能が極めて高く、電気エネルギーを極限まで圧縮して貯蔵することを可能にした。さらに、冷却効率も高いため、長時間の発熱を伴う連続照射に耐えうるシステムが構築された。この絶縁材の採用と「デュアル幅パルス形成ライン」の組み合わせにより、テスラ変圧器とパルス形成システムを驚異的な密度で統合することに成功したのである。

デュアルU字型構造による空間の最適化

また、物理的な構造にも革新が見られる。従来のHPMデバイスは直線的な長いチューブ構造を必要としていたが、NINTの科学者たちはこれを「デュアルU字型(dual-U-shaped)」に折り曲げた構造に変更した。これにより、エネルギーが効率的に往復しながら増幅・蓄積されるようになり、性能を維持したまま装置の全長を従来の半分にまで短縮することに成功した。

この「小型・軽量」という特徴は、兵器としての運用柔軟性を劇的に高める。5トンという重さは、大型トラックだけでなく、艦船や航空機、さらには衛星自体に搭載して「宇宙対宇宙」の攻撃を行うことも現実的な選択肢にする。

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なぜ中国は「Starlink」を恐れるのか

中国がこれほどまでにHPM兵器の開発を急ぐ背景には、SpaceXのStarlinkに対する強い警戒感がある。中国軍(人民解放軍:PLA)の戦略家たちは、Starlinkを単なる商用インターネットサービスではなく、米軍の通信・情報・監視・偵察(ISR)能力を飛躍的に向上させる軍事インフラと見なしている。

ウクライナ紛争の教訓

ウクライナでの実戦投入により、Starlinkの堅牢性が証明されたことは、中国に大きな衝撃を与えた。従来の電子戦(ジャミング)に対して高い耐性を持ち、一部が破壊されても網目状のネットワークで通信を維持するStarlinkに対し、ミサイルで個別の衛星を撃墜する「キネティック(物理的破壊)攻撃」は、コスト面でも効率面でも割に合わない。

また、ミサイルによる衛星破壊は、大量の宇宙ゴミ(デブリ)を発生させ、自国の衛星をも危険にさらす。しかし、HPM兵器であれば、デブリを発生させることなく、目に見えない電磁波で衛星の電子回路を「焼く」ことが可能であり、戦略的な「否認可能性(誰が攻撃したか特定させないこと)」を確保できる可能性もある。

低軌道への引き込みという逆説

さらに皮肉なことに、SpaceXが進めている「衝突リスク低減のための軌道高度低下」が、地上からのHPM攻撃に対して衛星をより脆弱にさせている側面がある。衛星が地上に近づけば近づくほど、大気を透過するマイクロ波の減衰は少なくなり、より少ないエネルギーで致命的な打撃を与えることが可能になるからである。

システム破壊戦(System Destruction Warfare)の到来

TPG1000Csの開発は、中国が提唱する「システム破壊戦」および「多領域精密戦(MDPW:Multi-Domain Precision Warfare)」という軍事ドクトリンに完全に合致している。

情報優越の獲得

現代戦において、敵の意思決定プロセス(OODAループ)を麻痺させるには、情報の流れを断つことが最優先される。HPM兵器は、敵の指揮統制、レーダー網、ミサイル防衛システム、そして通信衛星ネットワークという「システム」の結節点をピンポイントで狙い撃ちし、敵を「盲目」にする。

台湾有事における役割

軍事アナリストは、中国が台湾侵攻を検討する際、HPM兵器が第一波の「非キネティック攻撃」として使用される可能性を指摘している。開戦劈頭、マイクロ波による一斉照射で台湾側のレーダーや通信インフラを無力化し、防衛システムを崩壊させる。これによって、物理的な攻撃を行う前に戦場を完全にコントロールする狙いがある。

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新たな脅威への対抗策はあるのか

中国のこの急速な進歩に対し、米国やその同盟国が無防備なわけではない。HPM兵器の脅威を相殺するための技術開発も並行して進んでいる。

  1. 量子センシングの活用:電磁攻撃(EA)の影響を受けにくい量子慣性センサーや原子時計などの「量子センシング」技術は、GPS信号がHPMによって遮断・妨害された状況下でも、正確な測位・航法・タイミング(PNT)の維持を可能にする。
  2. 電子機器のハードニング(堅牢化):衛星の電子回路を電磁シールドで保護する、あるいはサージ保護回路を強化するといった物理的な防護策の強化が進められている。
  3. 分散型レジリエンス:スターリンクのような巨大コンステレーション自体の強みである「代替性」を活用し、一部の衛星が破壊されても即座に別の衛星や高高度プラットフォームで通信を代替する冗長性の確保が重要となる。

見えない光が支配する宇宙の未来

西北核技術研究所が開発したTPG1000Csは、すでに20万回以上のパルス試験をクリアし、安定した性能を実証しているという。これは、この兵器がもはや実験室の段階を過ぎ、実戦配備に向けたカウントダウンに入っていることを示唆している。

20ギガワットの出力で衛星を数秒で「焼く」能力は、宇宙空間における武力行使のハードルを下げ、誤算による紛争激化のリスクを高める懸念もある。宇宙の平和利用と軍事利用の境界線がかつてないほど曖昧になる中、私たちは「見えない電磁波の矢」が飛び交う、新しい安全保障の時代に足を踏み入れたのである。


Sources