Clone Roboticsは2026年10月1日、Torso 3のロボットハンドを遠隔操作する映像を公開し、全面的に設計を刷新した「Torso 4」を11月に発表する予定だと明らかにした。今回公開したハンドは4月に製作された従来設計のもので、新型Torso 4の実演ではない。
次世代機で同社が重視したのは、シミュレーションの精度と制御のしやすさだ。人工筋肉と腱を使って人間に近い動きを再現する設計を、企業向けの両腕作業自動化へどうつなげるのか。その実用性を評価するには、人工筋肉単体の性能、ハンドとしての動作性能、そして実際の作業工程を完了できる能力を分けて見る必要がある。
4月製のハンドを公開、Torso 4は11月に登場予定
同社は公開した映像について、「Torso 3のハンドを遠隔操作したもの」と説明している。人間が機体を操作する実演であり、ロボットが周囲の状況を自ら判断して作業したことを示すものではない。
続く公式投稿によると、このハンドは2026年4月に製作され、従来のハンド設計を採用した最後の機体だという。その後の6か月間でシステム全体を一から設計し直し、人間に近い能力を維持しながら、シミュレーションと制御を容易にすることを重視したと同社は説明している。
ただし、再設計後も従来と同等以上の能力を維持できているかどうかは、今後公開される実演や試験結果で確認する必要がある。
その再設計の成果として予告されたTorso 4は、企業向けに「定位置で両腕を使う作業」を自動化することを目指す胴体型ロボットだ。同社が示した予定は11月で、今回の投稿には価格や顧客への出荷開始時期は記されていない。
つまり、今回公開されたTorso 3の映像とTorso 4の予告は、従来機の動作実演と、次世代機で目指す用途をそれぞれ示したものと分けて考える必要がある。
人工筋肉の性能と、ハンド全体の能力は別
Clone Roboticsのハンドを動かしているのが、独自の人工筋肉「Myofiber」だ。公式のハンド紹介では、筋肉と腱を拮抗するように配置し、外部から加わる力に応じて動く構造を説明している。人間向けに作られた工具を扱えることも設計目標の一つで、人差し指にはドリルのトリガーを引ける力を持たせたという。
人間の手に近い構造を採用する理由の一つは、既存の工具を扱いやすくするためだ。工具のグリップを握りながら、別の指でトリガーを操作するには、単純に物を挟むだけではなく、複数の指を異なる役割で動かす必要がある。
Clone Roboticsは親指や手のひらの形状も含め、人間向けに作られた物をそのまま扱えるハンドを目指している。ただし、ハンド紹介ページに掲載されている一般的な仕様を、そのまま未発表のTorso 4の性能とみなすことはできない。
Androidの公式紹介では、人工筋肉と腱を一体で製造し、人間の骨格に近い位置へ取り付ける構造も説明されている。また、哺乳類の骨格筋に近い性質を再現するために必要な条件を挙げ、Myofiberがそれらを満たすと同社は主張している。
各数値が何を示しているのかを整理すると、次のようになる。
| 公式説明にある条件 | 数値が示す対象 | この数値だけでは判断できないこと |
|---|---|---|
| 応答時間50ms未満 | 人工筋肉単体の応答 | 操作者からロボットハンドまでの通信・制御を含めた総遅延 |
| 無負荷で30%以上の収縮 | 荷重をかけていない人工筋肉の収縮率 | 物を握った状態での可動範囲や位置精度 |
| 3gの筋繊維で1kg以上の収縮力 | 人工筋肉単体の発生力に関する指標 | ハンド全体の握力やロボットが持ち上げられる重量 |
数値は2026年10月3日時点で確認した同社の一般説明に基づく。「kg」は原文の表記であり、そのままロボットが持ち上げられる物体の質量を示す数字ではない。また、独立した第三者機関による測定結果でもない。
Clone Roboticsが示す50ms未満の応答時間、30%以上の無負荷収縮、3gの筋繊維で1kg以上の収縮力は、いずれも主に人工筋肉単体の特性を示したものだ。Torso 3を遠隔操作した際の遅延や、Torso 4が両腕作業を成功させる確率を示す数字ではない。
人工筋肉そのものが速く、強く収縮できても、工具を持った状態で手先の位置や力を狙いどおりに制御できるかは別の問題だ。さらに両腕を使う作業では、一方の手が部品を支え、もう一方の手が適切なタイミングと力で工具を操作するといった協調も必要になる。
企業が実際の導入を判断する段階では、人工筋肉単体の性能よりも、最終的に作業工程をどれだけ安定して完了できるかが重要になる。
人工筋肉を狙いどおりに制御する難しさ
流体圧で動く人工筋肉は、材料の変形や摩擦まで含めて動作をモデル化する必要がある。代表的なMcKibben型人工筋肉では、加圧された内側のチューブが膨らむ力を、外側を覆う編組構造によって長さ方向の収縮力へ変換する。
Bertrand Tondu氏が2012年に発表したモデル化に関する論文の公開要旨では、内側の材料が示す非線形な変形や、編組部分の摩擦が重要な課題として挙げられている。
また、直前にどのような動きをしたかによって入力と出力の関係が変わる「ヒステリシス」についても、編組部分の摩擦が主な原因の一つと考えられている。つまり、圧力を一定量増やせば収縮量も一定の割合で増える、といった単純な比例関係だけでは制御しにくい。
これはMcKibben型人工筋肉全般についての研究であり、現在のMyofiberの内部構造や制御誤差を直接測定したものではない。また、Clone Roboticsが今回の再設計で具体的にどの部品や構造を変更したのかも明らかにされていない。
それでも、多数の柔軟な人工筋肉を組み合わせるロボットで「制御しやすさ」を設計目標に掲げる意味は理解できる。人工筋肉を狙った量だけ収縮させるだけでなく、その動きが指先の位置や接触力として意図どおりに表れるようにする必要があるからだ。
シミュレーションについても同じ課題がある。仮想環境で学習した動作を実機へ移すには、シミュレーション上の手と実際の手が、外力や物体との接触に対して十分に近い挙動を示さなければならない。
Clone Roboticsの今回の告知は、その対応関係を改善しようとしていることを示している。ただし、具体的にどのようなシミュレーションや学習方法を使うのか、実機へ動作を移した際にどの程度の性能を得られたのかまでは明らかにされていない。
CloneとAtlas、異なる設計思想のロボットハンド
Boston DynamicsはAtlasの新しいハンドに関する公式解説で、4本指・13自由度という構成を採用した理由を説明している。
各関節を直接駆動し、小指を省略することで、3つの追加アクチュエーターと、それに伴うコスト、占有スペース、故障要因を減らす設計だ。
Clone Roboticsが人工筋肉と腱を使って人間の手に近い構造を追求しているのに対し、Atlasは工具を扱うために必要な器用さを残しながら、構造を簡素化する方向を選んでいる。
ただし、指の本数や人間の手との形状の近さだけで、どちらが器用か、あるいは実用的かを判断することはできない。両社を同じ条件で試験した性能比較ではなく、それぞれの公式説明から読み取れる設計思想の違いである。
一方、Boston Dynamicsも、実機の挙動を正確に再現するシミュレーションと、そこから実機へ学習済みの動作を移す強化学習を重視している。
ハンドの構造は異なっていても、シミュレーションで学習した動きを実機で安定して再現することが、共通する技術課題になっている。Clone RoboticsがTorso 4で掲げる「シミュレーションと制御のしやすさ」も、この再現性という観点から評価する必要がある。
両腕作業では、人間の介入量と再現性が重要になる
Torso 4が狙う「定位置で両腕を使う作業」は、歩行や作業場所までの移動といった問題を切り離し、腕と手による作業能力に焦点を当てられる用途だ。
例えば、片方の手で部品を固定し、もう片方の手で工具を使うような作業が考えられる。ただし、これはTorso 4の用途を説明するための例であり、Clone Roboticsが実際に成功したと発表した作業ではない。
同社が掲げる「定位置で両腕を使うあらゆる作業の自動化」という目標を評価するには、まず具体的な作業内容を示す必要がある。
どの部品を、どこから取り、どの位置へ動かし、何を終えた時点で成功と判定するのか。こうした条件が明確になれば、成功率や作業時間を測定し、人間や既存の産業用ロボットと比較できる。
どの程度、人間の介入が必要なのかも重要だ。開始時に作業指示を与えるだけなのか、失敗した際に人間が姿勢を修正する必要があるのか、それとも工程全体を遠隔操作するのかによって、導入後に必要な人員は大きく変わる。
今回公開されたTorso 3のハンドは人間による遠隔操作で動いている。そのため、映像から「指を細かく動かせる」ことは確認できても、人間の操作なしで作業工程を完了できるとは判断できない。
11月に予定されているTorso 4で注目したいのは、具体的にどのような両腕作業を、どの程度の成功率で、何回連続して再現できるのか、そしてその間にどれほど人間の介入を必要とするのかだ。
さらに、連続稼働時間や人工筋肉・腱の耐久性、交換や保守にかかる負担まで示されれば、人間の手に近い構造を採用するClone Roboticsの設計が、企業の現場で継続的に使えるロボットへどこまで近づいたのかを判断しやすくなる。



