中国のDRAM大手CXMT(長鑫科技)が、北京市で2カ所目となるメモリー工場を検討している。Reutersが関係者の話として報じた。協議は初期段階で、北京経済技術開発区からの資金支援を模索しているという。検討は7月の新規株式公開(IPO)より前に始まったとされるが、建設が決まったか、いくら投じ、どれほど生産し、いつ稼働するかをCXMTは公表していない。
この計画を「IPO資金で直ちに増産」と読むのは早い。CXMTの既存設備は高い稼働率に達しており、新工場を検討する合理性はある。一方、工場を建てて装置を搬入した後も、工程認定と歩留まり改善を進め、顧客評価を通過する必要がある。Reutersが6月に伝えた上海工場の増設計画も進んでおり、北京計画が全社のどの製品と需要を担うのかは見えていない。この時間差が、新工場報道を近い将来の供給量と直結させられない理由である。
579.2億元の調達額と295億元の使途は別である
CXMTは7月27日に上海証券取引所へ上場した。Reutersによると、IPOの調達額は579.2億元で、中国本土の半導体企業として過去最大だった。追加売り出しを全て実施すれば調達額はさらに増えるが、それは条件付きの上限であり、今回の北京計画へ充てる資金として確定したものではない。
最終目論見書が募集資金投資額として表に示した計画は295億元である。内訳は、既存のメモリーウェハー量産ライン改修に75億元、DRAM技術更新に130億元、将来世代のDRAM研究開発に90億元。3事業の総投資額は345億元で、技術更新事業の不足分は別の資金で補う設計になっている。
実際の募集資金は、発行費用約2.81億元を差し引いた純額でも576.38億元に達する。目論見書は純額を3事業へ充てるとし、その範囲内で進捗や資金需要に応じて投入順序と具体額を調整できると記している。しかし、北京の新工場に固有の建設費は、3事業の名称や説明に明記されていない。IPOで得た資金余力と、新工場向けの予算承認は分けて考える必要がある。
したがって、純調達額から表の295億元を引いた残額を「新工場用の余剰資金」とみなすことはできない。目論見書が認めるのは、開示済み3事業内での金額調整である。新北京工場へ投じるには、既存3事業との関係を含む追加の説明が要る。今後は社内の正式決定に加え、地方政府との支援合意が結ばれ、建設主体と投資総額が開示されるかが焦点となる。
合肥2・北京1の既存工場は稼働率95.73%
目論見書が既存の12インチDRAM工場として開示したのは、合肥の2工場と北京の1工場である。同社の沿革によると、北京のFab C計画は2020年6月に始まり、2021年12月にFab C2を着工、2022年1月にはFab C1の試験生産ラインが稼働した。今回報じられた計画は、CXMTにとって北京で初めての工場ではなく、既存拠点に続く2カ所目の候補となる。
新工場を検討する合理性を考える材料の一つが、既存設備の余裕の少なさである。目論見書に記された12インチ工場の稼働率は、2023年の87.06%から2024年に92.46%、2025年には95.73%へ上がった。設備停止時間をさらに詰めるだけで大幅な増産を続けるのは難しい水準である。ただし、この比率は設備の稼働状況を示すもので、製品として出荷できるDRAMのビット数を表す上限ではない。
残り4.27%を全て新規受注へ振り向けられる、という意味でもない。半導体工場には保守、品種切り替え、工程調整が必要であり、稼働率100%を常時維持する前提は置けない。微細化や回路設計の改善で1枚のウェハーから得られる容量を増やせれば、稼働時間を増やさずに出荷ビット数を伸ばせる。その反対に、先端品への切り替えで歩留まりが下がれば、稼働率が高くても良品は増えにくい。
CXMTが上海証券取引所へ提出した回答書では、3工場の建設と立ち上げを順次終え、2026年に全工場を計画能力まで引き上げるとしていた。ウェハー製造から封止・試験までを含む製品全体の生産周期は約5〜6カ月である。工場の月産能力が増えても、増産分が同じ月に市場へ届くわけではない。
月60万枚の計画でも、使えるDRAMは歩留まりで変わる
Reutersは6月、CXMTの既存3工場の生産能力を合計で月約30万枚と報じた。同社は上海でDRAM工場の建設を始めており、その他の増設分と合わせて月約60万枚へ倍増させる計画だという。この数値は関係者に基づく報道で、CXMTが公式に示した生産計画ではない。北京の新工場候補が月60万枚の内数か、その後の追加分かも判明していない。
さらに、ウェハー投入枚数を倍にすれば出荷容量も同じ比率で増えるとは限らない。微細化で1枚から取れる容量は増える一方、欠陥の少ないダイを得る歩留まりが低ければ販売可能な量は減る。Reutersは同じ6月の記事で、CXMTのDDR5歩留まりが2026年第1四半期に低かったと関係者の話として伝えた。これは一時点の報告で、現在の歩留まりを示す数字ではないが、建屋と装置が整っても供給力はまだ完成しないことを示す材料にはなる。
ここでいう月産能力は、通常は工場へ投入できるウェハー枚数で表す。1枚に形成するダイの大きさ、使う製造世代、良品率が異なれば、同じ月30万枚でも得られる記憶容量は変わる。さらにDDR5はサーバー用モジュールまで組み上げて顧客の検証を通す必要がある。月60万枚という見通しは工場規模を測る目安にはなるが、販売可能なサーバーDRAMの量を直接示す数字ではない。
製品の振り分けも重要である。2025年の主力事業売上高では、スマートフォン向けを中心とするLPDDRが66.43%、PCやサーバーで使うDDRが31.87%だった。新しいウェハー能力がLPDDR、DDR5、将来の高帯域メモリー関連へどう配分されるかで、PCやサーバー市場へ届く数量は変わる。工場の月産枚数から、どの顧客の不足が緩和されるかを判断することはできない。
北京計画が供給へ変わるまでに残る工程
CXMTがIPOで掲げた量産ライン改修とDRAM技術更新は、設備導入と検収を2028年上半期まで続ける計画である。既存工場を使う改修にも複数年を要する。まして新工場は、用地を決めて電力と水を確保した後にクリーンルームを建設する。そこへ製造装置を搬入して試作し、工程認定と歩留まり改善を経て、顧客認証へ進まなければならない。
海外大手の工程も時間軸の参考になる。Micronは7月9日、米アイダホ州の第1工場で最初のウェハーを生産する時期を2027年半ば、第2工場を2028年末と説明した。これに先立つ6月24日の決算説明では、DRAMとNANDの需給逼迫が2027年を越えて続き、世界の供給は2028年に徐々に改善すると見込んだ。これはCXMTの工程表ではないが、工場計画の公表と供給増の間に年単位の時間差があることを示している。
北京計画の意味を測るには、まず正式な建設承認と予算を確認する。その後は着工から主要装置の搬入へ進み、試作ウェハーが出たか、顧客認証を通って量産を始めたかを追う必要がある。現時点で確かな変化は、CXMTが北京の追加拠点を検討し、資金支援の協議に入ったことまでだ。579.2億元のIPOは選択肢を広げたが、DRAMの供給量を増やすのは資金額ではなく、装置を動かし、良品を安定して出荷できた時点である。



