DeepSeekは8月21日、テキスト専用だったV4-Flash系に画像入力を加えた実験版「DeepSeek-V4-Flash-Vision-Exp」をAPIで提供し始めた。画像1枚の入力は最大384トークンで、既定処理では大きな画像をおよそ800×800相当の画素数へ正規化する。視覚情報を扱うエージェントは、画面、グラフ、帳票を読む段階で入力量と料金が読みにくくなりがちだった。今回の設計は、その入口に上限を置くものだ。ただし、名称通り実験版であり、重み、アーキテクチャ、技術報告書は公開資料に見当たらない。性能表での僅差を、画像の細部まで正確に読める証拠にはできない。
視覚対応APIと、未公表のモデル詳細
DeepSeek-V4-Flash-Vision-Expは、V4-Flashのテキスト能力に視覚入力を加えるモデルとして案内されている。利用できるのはOpenAI互換のChat Completions/Responses APIと、Anthropic互換のMessages APIである。Chat Completionsでは画像をuserメッセージに置く。Responses APIでは、指定されたuser、developer、ツール出力の経路でも画像を渡せる。対応しないロールやモデルを指定するとHTTP 400になるため、既存の会話履歴をそのまま差し替えられるとは限らない。
入力できるのはJPEGとPNGに加え、GIFとWebPで、拡張子や宣言したMIMEタイプではなく、実際のファイル内容で形式を判定する。渡し方はBase64のインライン、公開URL、Files APIのfile_idの3通りだ。外部URLは8,192文字までで、画像は32MiB以下、ダウンロードには60秒の制限がある。Files API経由なら画像は64MiBまで受け付ける。画像を扱う処理系へ接続する際には、データをどこで取得し、どの失敗を再試行するかまで実装に含める必要がある。
同日にDeepSeekは無料のFiles APIと、同モデルを組み込み対応したDeepSeek Harness 0.1.1も公開した。Files APIは1ユーザー当たり25GiB、10,000ファイルまで保存でき、アップロード時に設定する有効期限は3,600秒から2,592,000秒、すなわち1時間から30日までである。省略すれば恒久保存となる。一方で、無料とされるのはファイルAPI自体であり、推論トークンは別に課金される。file_idの再利用はアップロード帯域を節約できるが、プロンプトキャッシュ料金まで減るとは資料からは言えない。
公開資料は、Vision Expのパラメータ数、学習方法、モデル構造を開示していない。オープンウェイトのリンクも示されていない。APIが利用可能になったことと、V4-Flash-0731の重みに視覚機能をそのまま足したこと、あるいは安定運用向けの保証があることは、別の話である。
11指標のうち3勝、視覚を含む4指標では2勝2敗
DeepSeekの公開チャートは、Vision Exp、V4-Flash-0731、AnthropicのOpus 4.8を11行で比べる。Vision ExpはOpus 4.8に対し、DeepSWEで59.3対58.0、Agents' Last Examで27.3対25.7、ZeroBench Pass@5で35.0対34.0となり、3行で上回った。差は順に1.3、1.6、1.0ポイントである。残る8行はOpus 4.8が高く、NL2Repoは57.7対69.7で12.0ポイント、DSBench-Hardは63.6対71.7で8.1ポイント離れた。11行のうち9行は差が3.0ポイント以内だが、全般的な同等性を示す比較ではない。
画像を含む4行に絞ると、ApexBench Pass@1は36.5対39.4でVision Expが2.9ポイント低い。Agents' Last ExamはVision Expが1.6ポイント高く、Chartographyは64.3対65.0で0.7ポイント低い。ZeroBench Pass@5は1.0ポイント高い。したがって、視覚を含む評価では2勝2敗となる。Chartographyは専門分野にまたがる100件のグラフを使い、視覚認識と推論を試すベンチマークである。Agents' Last Examは、検証可能な成果を持つ長期で経済的価値のある現実タスクを対象にする。両者が測る仕事は異なる。
| 指標 | Vision Exp | Opus 4.8 | Opus 4.8との差 |
|---|---|---|---|
| ApexBench Pass@1 | 36.5 | 39.4 | -2.9 |
| Agents' Last Exam | 27.3 | 25.7 | +1.6 |
| Chartography | 64.3 | 65.0 | -0.7 |
| ZeroBench Pass@5 | 35.0 | 34.0 | +1.0 |
V4-Flash-0731との9つの共通行では、Vision Expは8行で改善し、Cybergymだけが76.7から75.3へ1.4ポイント下がった。表示上の最大差はApexBenchの10.3ポイントだが、DeepSeekの注記では基準のテキストモデルがApexBenchとAgents' Last Examのマルチモーダル要素を無視するとされる。この差を視覚モジュール単独の効果として計算することはできない。
さらに、表はDeepSeekが公表した結果である。DeepSeek系の公開コードエージェント課題はHarnessのminimal mode、最大トークン設定、top_p=0.95、temperature=1.0で実行された。モデルとハーネスに加え、ツールや設定が一体になった値であり、モデル単体の測定ではない。ZeroBenchの35.0はツール使用時のpass@5で、同サイトが実行した公式評価ではなくベンダー報告に由来する。完全な実行ログや標本数、信頼区間は開示されていない。遅延とスループットも不明だ。
384トークンの画像入力は、いくらになるのか
Vision Expの料金と同時実行数は、現行のV4-Flashと同じである。コンテキスト長は100万トークン、出力上限は384,000トークン、同時実行数は2,500とされる。入力はキャッシュヒットかミスかで単価が変わる。100万トークン当たりのオフピーク料金は、キャッシュヒットが0.007ドル、キャッシュミスが0.22ドル、出力が0.66ドルである。ピーク時はそれぞれ0.014ドル、0.44ドル、1.32ドルとなる。ピーク時間帯はUTCの01:00〜04:00と06:00〜10:00だ。
最大384トークンをすべて使う画像を、キャッシュミスの入力として計算すると、1枚の入力はオフピークで0.00008448ドル、ピークで0.00016896ドルになる。画像を600枚まで入れた場合、画像トークンだけなら230,400トークンで、同じ前提の料金はオフピーク0.050688ドル、ピーク0.101376ドルだ。いずれもテキスト入力と出力の料金を含まず、実際には画像のバイト数や寸法の制限も満たさなければならない。
この上限は、画像を無制限の長さへ展開しないための設計でもある。detail=lowを選ぶと512×512へ縮小する。既定またはoriginalでは縦横比を保ちながら、より大きな画像を約800×800の画素数へ正規化する。入力費用を抑えやすくなる反面、細い文字、複雑な表、密なグラフの微細部分が残るとは保証されない。384トークンという請求上限は、OCR精度、グラフ読解精度、応答速度の証明ではない。
600枚までの入力制限が実装を分ける
1リクエストには最大600枚の画像を入れられるが、画像の一辺は8,192ピクセルまでである。15枚以上を含むリクエストでは一辺の上限が4,096ピクセルへ下がる。file_idを使わない画像の合計は64MiBまでで、file_idを含める場合は200MiBまで拡大する。Base64などのインライン要求本文は48MiBまでだ。600枚という数だけを基準にバッチを組めば、先にバイト数、本文サイズ、解像度のいずれかで失敗する可能性がある。
そのため、少数の画面や図表を即時に渡す処理ではURLまたはBase64、多数の再利用画像を扱う処理ではFiles APIという使い分けが考えられる。ただし、公開URLは取得先の応答が60秒を超えれば読めない。Base64は本文上限を消費する。Files APIも保管上限と有効期限を管理しなければならない。入力経路ごとに、料金ではなく失敗の種類が変わる。
Vision ExpはFIMをサポートしない。モデル表にはthinking/non-thinkingとJSON、ツール呼び出しが載る。Responses APIとAnthropic互換にも対応するが、既存のコード補完経路へ同じ機能を足せるとは限らない。画像を判断材料に入れたエージェントを評価するなら、モデルの回答に加えて、画像の縮小後に情報が残るか、APIロールが実装に合うか、ツール設定を固定して再実行できるかを分けて確かめる必要がある。
独立した再実行が、同じハーネスとツール条件で公表値をどこまで再現するか。さらに、遅延、スループット、実運用での視覚精度が示されて初めて、384トークンという設計を本番の画像判断へ広げられるかを判断できる。



