Microsoft Defender for Office 365の「Safe Links」が2026年9月2日、正当なGoogle検索リンクを悪意あるURLと誤判定し、一部の利用者によるアクセスを遮断した。Microsoftは翌3日までに問題を解消したと説明したが、同じ判定からDefenderポータルやMicrosoft Sentinelにもアラートが生じた。対象はWindowsに標準搭載されるウイルス対策機能ではなく、企業のメールやTeamsなどを守るクラウド型のリンク検査である。なぜGoogleの正規URLを疑う必要があり、一つの誤分類が複数の業務画面へ広がったのか。背景には、信頼されたサービスの転送機能まで攻撃に使われる現在のフィッシング事情がある。
Google検索リンクを止めた誤分類は解消済み
BleepingComputerが確認したMicrosoftのサービス通知によると、同社は9月2日10時30分(UTC)、問題を「MO1465962」として認知した。影響を受けた利用者がGoogle検索URLを開こうとすると、「このWebサイトを開くのは安全でない可能性がある」という警告が出た。リンクをコピーしてブラウザーへ貼り付けても、警告を回避できない状態だったという。
利用者が検索結果へ進めないことに加え、管理者側にも影響が出た。誤って脅威とされたURLの検出を受け、Microsoft DefenderポータルとMicrosoft Sentinelに関連するアラートやインシデントが作られる可能性があった。業務上はアクセス障害と、セキュリティ担当者が偽の警報を調べる負担が同時に発生する。
Microsoftは原因を「不正確なセキュリティ分類」と説明し、BleepingComputerは9月3日の更新で、問題が解消されたとの回答を追記した。ただし、対策がサービス基盤へ行き渡るまで、一部では影響が残る可能性があるともしている。影響した地域や組織に加え、利用者とURLの件数も公表されていない。9月5日時点では解消後として扱う必要がある。
Safe Linksはクリックの瞬間に判定し直す
Safe Linksは、受信メールに含まれるURLを配送時に調べ、既定ではMicrosoftの検査用URLへ書き換える。さらに利用者がメール、Teams、対応するOfficeアプリでリンクを選ぶと、その時点の最新評価を使って再検査する。メールが届いた時点では安全だったサイトが、後から乗っ取られたり攻撃用ページへ変わったりする事態に対応するためである。
判定材料は単一ではない。Microsoftの公開文書によると、Defender for Office 365はメッセージのヘッダー、本文、URLを機械学習で調べる。URLの評価には、隔離環境での動的解析とMicrosoft以外の評価源も使う。有効な評価がないURLは非同期で解析され、疑わしいリンクやダウンロード先はリアルタイム検査の対象になる。
転送先も無視できない。Microsoft Graphの仕様には、一つのURLの動的解析が複数の解析を呼び、メールに直接書かれていないURLまで「解析の連鎖」に入るとある。見えているURLが安全な大手サイトでも、その先で別のホストへ移るなら、最終到達先の挙動まで確認しなければならない。
この仕組みは、誤検知が広がる経路にもなる。Safe Linksが悪性と判断すれば利用者のクリックを止め、その検出結果から管理者向けの警報も生じる。今回、リンクの遮断、Defenderのアラート、Sentinelのインシデントが並んで現れたのは、別々の障害が偶然重なったからではない。同じURL判定を防御と監視に使う設計の帰結である。
GoogleのURLを一律許可できない理由
Googleのドメインが表示されていれば安全、と決めることもできない。Microsoftは今回より前から、Googleの正規機能を踏み台にした攻撃を記録している。正当な検索と攻撃用の転送が同じサービス群に同居するため、URLのホスト名だけを見た許可では足りない。
| Microsoftが確認した事例 | 表面上の信頼材料 | 実際の挙動 | 今回との関係 |
|---|---|---|---|
| 2019年のGoogle検索結果悪用 | 正規のgoogle.ru検索URL | 地域別に汚染された検索結果から攻撃者の転送サイトを経てフィッシングへ誘導 | Safe Linksが検索URLの先まで調べる必要性を示す過去例 |
| 2026年3月のOAuth転送悪用 | GoogleやMicrosoftの正規認証URL | 標準仕様のエラー転送を使って攻撃者管理のサイトへ誘導 | 信頼された認証ホストでも引数と転送先で危険になり得る例 |
| 2026年9月のMO1465962 | 正当なGoogle検索URL | Safe Linksが悪性と誤分類して遮断 | 過去の攻撃とは別の誤検知。具体的な誤分類箇所は未公表 |
2019年の攻撃では、メール本文に入っていたのは正規のGoogle検索URLだった。攻撃者は特定地域で細工したページが検索結果の先頭に出るようにし、そこからフィッシングページへ送った。2026年3月にMicrosoftが報告した別の活動は、OAuthの正規なエラー処理を利用した。認証が失敗した後の転送先へ攻撃者のサイトを指定し、Googleなどの信頼された認証用URLを入口にしていた。
どちらも、今回の誤検知を引き起こした証拠ではない。だが、Safe Linksが「Googleだから許可」という規則を採れない理由は分かる。防御側は完全なURL、引数、転送の連鎖、到達先の挙動を組み合わせて判定する。そのどこかで正当なURL群を悪性と分類すれば、広く使われるサービスほど影響も大きくなる。
直接原因は未公表、広い例外は別の穴を開ける
Microsoftは、今回どの判定材料が誤ったかを明らかにしていない。機械学習モデル、評価ルール、隔離環境での解析、外部の評価源はすべて公開文書に登場するが、MO1465962の原因をその一つへ絞る根拠はない。「AIがGoogleをマルウェアと学習した」といった説明は推測になる。公表済みの直接原因は、不正確なセキュリティ分類までである。
管理者が誤検知を見つけた場合、Microsoft Defenderポータルから正当なURLとして提出できる。Microsoftは提出された対象について、最新のURL評価と動的解析に加え、人による確認も行うとしている。警告画面と発生時刻を控え、元のメッセージにDefenderやSentinelの識別子を添えて提出すれば、広い例外を作るよりも誤った判定を特定しやすい。
テナントのURL許可項目には注意が要る。Microsoftの文書では、許可されたURLはクリック時点で、そのURLに関係する全フィルターを上書きする。管理者が作る許可には最大30日の期限を設定できるが、Googleのドメイン全体を通せば、2019年や2026年3月に確認された正規機能の悪用まで見逃す恐れがある。今回の障害はすでに解消済みであり、恒久的な広域許可を残す理由にはならない。
誤警報が続いたとき、利用者へ「Googleなら警告を無視してよい」と教えるのも危険だ。まずMO1465962に該当する時間帯とURLかを確かめ、個別の誤検知として処理する。Microsoftが再発防止を説明するなら、確認すべきなのは「分類を直した」という結論より、どの判定材料が誤り、どの範囲へ配る前に止める検証を加えたかである。



