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ディズニーとユニバーサル、AI画像生成のMidjourneyを提訴:「底なしの盗作」と断罪、生成AIの野放図にハリウッドが鉄槌

Y Kobayashi

2025年6月12日

エンターテインメント界の巨人が、ついに生成AIの野放図に牙を剥いた。The Walt Disney CompanyNBCUniversalは2025年6月11日(現地時間)、人気のAI画像生成サービス「Midjourney」に対し、大規模な著作権侵害があったとしてカリフォルニア中央地区連邦地方裁判所に共同で訴訟を提起した。これは、ハリウッドのメジャースタジオが生成AI企業を直接訴える初の大型訴訟であり、テクノロジーとクリエイティブ産業の関係を根底から揺るがす歴史的な法廷闘争の幕開けとなる。

訴状は、Midjourneyを「原告の著作物を際限なく不正コピーする仮想の自動販売機」であり、「底なしの盗作の穴(a bottomless pit of plagiarism)」だと痛烈に非難。創造性の源泉を守ろうとするクリエイター側と、技術革新を盾に既存のルールを書き換えようとするテクノロジー企業との、思想と利益をかけた全面対決の様相を呈している。

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ハリウッド巨頭、異例の共闘。Midjourneyを「典型的なタダ乗り」と断罪

普段は興行収入やテーマパークの来場者数を巡り、熾烈な競争を繰り広げるDisneyとUniversalだが、その両社が「ありそうもない企業同盟」を組んでまで法廷に訴え出たという事実が、事態の深刻さを物語っている。

訴状には、Disney傘下のMarvel、Lucasfilm、20th Century、そしてUniversal 傘下のDreamWorks Animationも名を連ねており、まさにハリウッドを代表するクリエイティブ勢力が結集した形だ。

彼らの怒りの矛先は、Midjourneyが自社のAIモデルをトレーニングするために、インターネット上から著作物を無許可で収集し、さらにユーザーの指示(プロンプト)に応じて、彼らが莫大な時間と費用を投じて生み出してきた象徴的なキャラクターたちをいとも簡単に複製している点に向けられている。

訴状で挙げられた例は枚挙にいとまがない。

  • Disney/Lucasfilm: ダース・ベイダー、ヨーダ、ストームトルーパー、チューバッカ、R2-D2、C-3PO
  • Disney/Pixar: バズ・ライトイヤー、ウォーリー、ライトニング・マックィーン
  • Disney/Marvel: アイアンマン、スパイダーマン、デッドプール、グルート
  • Disney: エルサ(『アナと雪の女王』)、アラジン
  • Universal/DreamWorks: シュレック、ミニオン、トゥースレス(『ヒックとドラゴン』)

スタジオ側は、Midjourneyがこれらのキャラクターを無断で利用して利益を上げる行為を「典型的な著作権のただ乗り」であると断じ、損害賠償、陪審による裁判、そして将来的な著作権侵害行為の差し止めを求めている。

Disneyの法務責任者、Horacio Gutierrez氏は「海賊行為は海賊行為だ。それがAI企業によって行われたからといって、侵害の度合いが軽くなるわけではない」と強い声明を発表。NBCUniversalの法務担当上級副社長Kim Harris氏もまた、「これは、これらのツールの基盤となった実際のアーティストたちと、彼らの創造に資金を提供した企業を守るための戦いだ」と述べ、作り手の権利保護という大義を強調した。

争点は「意図的な侵害」。無視された警告と創業者の“爆弾発言”

この訴訟が特に注目されるのは、スタジオ側がMidjourneyの行為を「意図的」かつ「悪質」であると主張している点だ。彼らによれば、これは単なる技術的な過失ではなく、計算されたビジネスモデルなのだという。

繰り返された警告とMidjourneyの「無視」

訴状によると、DisneyとUniversalは訴訟に踏み切る前に、Midjourneyに対して著作権侵害に対する懸念を伝え、侵害を防止するための技術的な対策を講じるよう要求していた。他のAI画像・動画生成サービスの中には、特定のプロンプトを拒否したり、著作権侵害をスクリーニングする機能を導入したりする企業も存在する。

しかし、スタジオ側の主張によれば、Midjourneyはこれらの要求を「無視」した。それどころか、創業者David Holz氏が「さらに高品質な侵害画像」と表現したとされる、より高性能な新バージョンをリリースし続けたという。この態度は、Midjourneyが「自社の利益のみに厳格に焦点を当てている」証左だと、スタジオ側は厳しく批判している。

創業者David Holz氏の過去の発言

Midjourneyにとって、過去の発言がブーメランのように突き刺さる可能性も指摘されている。2022年、Holz氏は米誌『Forbes』のインタビューで、AIモデルのトレーニングデータをどのように収集したか問われ、インターネットからスクレイピング(自動収集)したことを認めた上で、こう語っている。

「1億枚の画像を手に入れて、それらがどこから来たのかを知る方法など、実はないのです」

著作権者からの許可を得ていないことを事実上認めるこの発言は、法廷において極めて不利な証拠として扱われる可能性がある。「知らなかった」のではなく「知ろうとしなかった」という姿勢は、意図的な侵害というスタジオ側の主張を裏付ける格好となりかねない。

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「AIスロップ」を生むビジネスモデルへの警鐘

今回の訴状では「AI slop(AIの残飯、ヘドロ)」という痛烈な言葉が使われている。これは、オリジナルへの敬意を欠いた模倣品が、AIによって安易かつ大量に生成される現状への強い侮蔑と危機感の表れだろう。

Midjourneyは有料のサブスクリプションモデルで急成長を遂げ、2024年には推定3億ドルもの収益を上げたと報じられている。スタジオ側から見れば、自分たちの創造物が無断で収益化の道具にされている構図は到底容認できるものではない。

さらに、Midjourneyのプラットフォーム上にある「Explore」ページでは、ユーザーが生成した画像が公開されているが、そこにはスタジオのキャラクターによく似た画像が多数含まれている。訴状は、このページ自体が「Midjourneyが自社のプラットフォームで著作物が恒常的に複製されていることを認識している」動かぬ証拠だと指摘している。

迫る「動画生成」の脅威と、広がる法廷闘争の波

今回の訴訟は、静止画にとどまらない。スタジオ側が特に強い懸念を示しているのが、Midjourneyが近くリリースを予定している動画生成AIツールだ。

訴状は、「このビデオAIツールは、DisneyとUniversalの著作権で保護されたキャラクターをフィーチャーした動画を生成、公に表示、配布するだろう」と予測。トレーニングは既に開始されていると見られ、「ビデオサービスに関連して、すでに原告の著作物を侵害している可能性が非常に高い」と警鐘を鳴らす。キャラクターが動き、物語を語り始める動画での侵害は、静止画とは比較にならないほどのダメージをブランドに与えかねない。

この訴訟は、クリエイティブ業界全体で広がるAIへの反発の潮流と完全に一致している。

  • アーティスト: 2023年には、Sarah Andersen氏をはじめとするアーティスト集団が、MidjourneyやStability AIなどを相手取り集団訴訟を提起。
  • 報道機関: The New York Times紙やThe Chicago Tribune紙の発行元などが、OpenAIやCohereを著作権侵害で提訴。
  • 作家: George R.R. Martin氏ら著名作家がOpenAIを提訴。
  • 音楽業界: Universal MusicなどがAnthropicを提訴。

今回、アメリカレコード協会(RIAA)のMitch Glazier会長兼CEOが「DisneyとUniversalによるこの行動は、人間の創造性と責任あるイノベーションのための重要な抵抗を示すものだ」と支持を表明したことは、この戦いが特定の業界を超えた、すべてのクリエイターにとっての代理戦争となりつつあることを示唆している。

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生成AIの未来を占う「世紀の訴訟」- 待つのは共存か、断絶か

この訴訟の行方は、生成AIというテクノロジーの未来を大きく左右するだろう。

AI企業側はこれまで、インターネット上の公開データを使ったトレーニングは、米著作権法における「公正な利用(フェアユース)」に該当すると主張してきた。しかし、オリジナルの市場価値を著しく損なう可能性のある、酷似した商業的な模倣品を大量に生み出す行為が、果たして「公正」と認められるのか。多くの法律専門家は懐疑的な見方を示している。

興味深いのは、ハリウッド内部の力学の変化だ。つい最近まで、俳優や脚本家たちは、自らの肖像や仕事をAIに置き換えようとするスタジオ側と激しく対立してきた。だが今、そのスタジオが「知的財産」という自らの砦を守るため、今度はテクノロジー企業に戦いを挑んでいる。敵の敵は味方、というわけではないだろうが、AIという巨大な波を前に、業界の構造そのものが再編を迫られていることの表れだ。

技術革新は止められない。しかし、その革新が誰かの犠牲の上に成り立つものであってはならない。Midjourneyが主張するように、数億枚の画像のライセンスを個別に追跡するのは「困難」かもしれない。だが、その困難さを理由に、他者の権利を踏みにじることが許されるのか。裁判所が下す判断は、その問いに対する社会からの回答となるだろう。

この訴訟は、単にミッキーマウスやダース・ベイダーの絵をAIが描いていいか、という単純な話ではない。創造性への対価は誰が払うのか。イノベーションの果実は誰が手にするのか。そして、人間とAIはどのような関係を築くべきなのか。我々はその岐路に立たされている。法廷闘争の火蓋は、今まさに切って落とされたのだ。


Sources

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