欧州委員会は2026年4月27日、デジタル市場法(DMA)に基づくGoogle Androidの相互運用性手続きで、Alphabetに予備的見解と草案措置を送付し、第三者からの意見募集を始めた。対象はAndroid上でAIサービスを提供する事業者と、Google Androidを採用するスマートフォン・タブレットのOEMである。意見提出期限は2026年5月13日23時59分(CEST)、委員会の最終決定期限は2026年7月27日だ。
今回の争点は、第三者AIアシスタントをAndroidにインストールできるかどうかではない。Androidは従来から外部アプリを導入できるが、今回問われているのは、長押し起動、独自ホットワード、画面やマイクなどのambient data、AppSearch、App Actions/App Functions、Computer Control API、Google Calendar、Google Photos、YouTube、Google Mapsとの連携まで含め、GeminiなどAlphabet側サービスに近い「OS標準に準じた統合」を第三者AIにも認めるかである。
この手続きは、直ちに制裁金を科す違反認定手続きではない。DMA第6条7項の相互運用義務を具体化するため、委員会は第20条1項に基づく仕様化手続きを開始し、第8条の枠組みで実装条件を詰めている。後にDMA違反が認定されれば、一般論として世界売上高の最大10%に相当する制裁金が問題になり得るが、今回の草案措置そのものは、相互運用性をどう実装するかを定める段階にある。
「アプリ開放」ではなく、AIがOS内で働くための入口が焦点になる
欧州委員会は2026年1月27日にこの手続きを開始した。Alphabetは2023年9月5日にGoogle Androidについてゲートキーパーに指定されており、欧州ではモバイル利用者の約60%がGoogle Androidのスマートモバイル端末を所有している。対象となるGoogle Androidには、AOSPだけでなく、Alphabetがスマートフォンやタブレットの基本機能を支配する、またはアプリの動作を可能にするミドルウェアも含まれる。
草案措置が扱う領域は大きく4つに分かれる。AIサービスの起動、端末やアプリから得る文脈、アプリやOS上での操作、計算資源や機能へのアクセスである。これは、Androidがサードパーティアプリを入れられるという従来の「開放性」だけでは、AIアシスタント競争の条件を説明できなくなったことを示す。
AIアシスタントは、ユーザーが明示的にアプリを開いた後だけ働くサービスではない。画面の内容を理解し、音声で呼び出され、別アプリの予定や写真や動画を参照し、必要なら端末上の操作を代行する。そうした利用形態では、インストール可能なアプリであることと、OSの既定機能のように起動・認識・操作できることの差が、応答速度、手間、バッテリー消費、機能差として見える。
長押し起動とホットワードは、AIサービスの「見つけやすさ」を左右する
草案措置の第1の柱は起動である。Android端末では、ホームボタンやナビゲーションハンドルの長押しが、Circle to SearchなどAlphabet側機能に割り当てられる場合がある。委員会の案は、このアクセス点、画面上のオーバーレイ、起動時に必要な文脈データを第三者AIサービスにも開く方向で整理している。
音声起動も争点である。草案では、第三者アプリが開発者定義またはユーザー定義のホットワードを使い、端末のDSPを通じて起動できるようにする可能性が示されている。既存のGoogle側ホットワードと同時に動作することも想定されるが、端末の技術的制約の範囲内という条件が付く。
AIアシスタントは、ユーザーがアプリアイコンを探して起動する設計では、OS標準の入口を持つサービスと同じ利用頻度を得にくい。長押しやホットワードは単なるショートカットではなく、端末上で「標準的に呼び出せる存在」として見えるための配布面である。
画面、マイク、AppSearchの差が応答性と文脈理解の差になる
第2の柱は文脈へのアクセスである。草案では、マイク、カメラ、画面、スピーカーなどのambient dataが挙げられている。第三者AIサービスは現在、制限された公開APIに依存する場面があり、その結果として追加操作、遅延、バッテリー消費、認識品質の差が生じ得る。
AppSearchの一部権限は既定アシスタントに結び付いた役割固有の許可であり、インストール済みの全アシスタントが同時に得られるわけではない。Alphabetアプリ内データへのアクセスも、現状ではAlphabet側サービスに限られる部分がある。AIがユーザーの端末内文脈を理解するには、単にモデル性能が高いだけでなく、端末内データに安全に到達できる経路が必要になる。
PixelのMagic Cueのような先回り提案機能も、現在は主にAlphabetのファーストパーティアプリやサービス、Geminiを中心に組み込まれている。Android System Intelligenceも、主にOEMとAlphabetがアクセスできる領域である。草案措置が第三者AIサービスの参加を求める場合、競争条件は「AIモデルを持っているか」から「OSが持つ文脈の流れに参加できるか」へ移る。
| 現在の制約 | 草案措置の方向性 | 利用者に見える効果 |
|---|---|---|
| 長押し起動やオーバーレイがAlphabet側機能に寄る | 第三者AIにも同等に有効な起動点を提供 | 既定AI以外も素早く呼び出せる |
| ホットワード利用が限定的 | 独自またはユーザー定義ホットワードをDSPで扱う | 音声起動の手間と遅延が減る可能性 |
| AppSearchや端末文脈への同時アクセスが制約される | 権限とAPIを整理し、同等アクセスを提供 | 回答が画面やアプリ状態を踏まえやすくなる |
| Googleサービス連携が自社AI中心 | Calendar、Photos、YouTube、Mapsなどを同意条件付きで開放 | 予定作成、写真検索、動画質問、ナビ支援が広がる |
表の各項目は、いずれも最終決定済みの仕様ではない。委員会は、無償APIやフレームワーク、完全な文書、同等または同等に有効なアクセス、技術支援、新機能の提供、実装状況の報告を一般措置として挙げているが、実装範囲は2026年7月27日までの最終決定に左右される。
アプリ操作の相互運用は、AIを「回答役」から「実行役」に近づける
第3の柱は、アプリやOS上での操作である。App ActionsやApp Functionsへのアクセスは、ユーザーがインストールした第三者アプリに対して限定的である。草案措置が求める構造化連携が実現すれば、第三者AIサービスはインストール済みアプリ内で利用可能な操作を発見し、実行できるようになる可能性がある。
Computer Control APIも焦点に含まれる。Gemini向けの画面自動操作に関わるこのAPIは、ユーザーがインストールした第三者アプリには提供されていない。AIアシスタントが画面上の要素を読み取り、ユーザーに代わって操作を進める機能は、端末上の自動化体験を左右する。ここが閉じていれば、第三者AIは同じモデル能力を持っていても、端末上で実行できる作業範囲が狭くなる。
Googleのファーストパーティサービスとの連携も、実用差を作る。草案では、第三者アシスタントがGoogle Calendarで予定を作成し、Google Photosから写真を探し、YouTube動画に関する質問へ答え、Google Mapsのナビゲーションを支援する例が示されている。該当する場合はユーザーの同意が前提になるが、こうした連携はAIアシスタントを単なる会話アプリではなく、日常的な端末操作の仲介役にする。
Googleは開放性、OEM裁量、安全性の低下を警戒する
草案措置は開放を求める一方で、OEMの差別化を保ち、端末やサービスの完全性を守るために厳密に必要かつ比例的なセーフガードを認める。GoogleはArs TechnicaやThe Registerに対し、Androidは開かれたエコシステムであり、OEMが端末の差別化を行えること、委員会案が機微なハードウェアや端末権限へのアクセスを義務付け得ること、実装コストやプライバシー・セキュリティ上の負担を生むことを懸念として示している。
この制約は形式的な留保ではない。ホットワードを常時待ち受ける設計、画面やマイクのambient data、端末内検索、写真や予定や地図への接続は、利便性と同時に濫用リスクを伴う。委員会が求めるのは、Alphabet側サービスと第三者AIサービスの競争条件をそろえることであり、あらゆるデータを無条件に開くことではない。
実装地域も限定される可能性がある。今回の手続きはEUのDMAに基づくため、仮に最終措置が採択されても、世界中のAndroid端末で同じ変更が直ちに展開されるとは限らない。開発者とOEMにとっては、EU向け実装、権限設計、ユーザー同意画面、Googleサービスとの接続仕様が、今後の確認点になる。
最終決定までに見るべきは、APIの有無ではなく同等性の基準だ
2026年7月27日までの最終決定で焦点になるのは、単にAPIが用意されるかではなく、第三者AIサービスがAlphabet側AIと同等または同等に有効なアクセスを得られるかである。文書だけが公開されても、起動が遅い、文脈が取れない、操作が限定される、Googleサービス連携に追加摩擦があるなら、利用者に見える競争条件はそろわない。
一方で、同等性は完全な同一実装を意味しない。OEMの独自機能、端末性能、セキュリティ上の制約、ユーザー同意の有無によって、実際の体験は変わる。草案措置が実装報告や技術支援を含めているのは、文書上の開放だけではAIアシスタントの実用差を検証しにくいためである。
欧州委員会は別途、Google Searchのデータ共有に関するDMA手続きでも2026年4月16日に措置案を公表し、2026年5月1日を期限に意見を募っている。これはDMA第6条11項に基づき、第三者検索事業者がGoogle Searchのランキング、検索クエリ、クリック、閲覧データへアクセスできるようにする別個の手続きである。AndroidのAI相互運用性手続きとは別件だが、いずれもゲートキーパーが支配する入口、データ、サービス連携を第三者にどう開くかを問うものである。Android上のAI競争では、モデル単体の性能だけでなく、端末内でどこまで深く、速く、安全に働けるかが制度上の争点になった。