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EU、AppleとMetaに7億ユーロの巨額制裁金—DMA初の違反認定で米欧テック摩擦激化

Y Kobayashi

2025年4月24日

欧州委員会(EC)は、米IT大手のAppleとMetaに対し、デジタル市場法(DMA)に違反したとして、それぞれ5億ユーロ(約890億円)、2億ユーロ(約356億円)の制裁金を科すと発表した。これはDMA施行後、初の不遵守認定に基づく制裁金であり、巨大プラットフォーマーに対するEUの規制強化姿勢を明確に示すものとなる。AppleはApp Storeにおける「アンチステアリング」規則、Metaはユーザーデータの取り扱いに関する「同意モデル」が問題視された。

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DMAに基づく初の鉄槌:AppleとMetaへの制裁金

デジタル市場法(DMA)は、欧州連合(EU)が巨大デジタルプラットフォーム(ゲートキーパー)の市場支配力を抑制し、より公正で開かれたデジタル市場を確保するために導入した包括的な規制である。2024年3月から本格的に適用が開始され、ゲートキーパーに指定された企業は、自社サービスの優遇禁止、第三者サービスとの相互運用性の確保、ユーザーデータの取り扱いに関する透明性の向上など、多くの義務を負うことになった。

今回、欧州委員会はDMAに基づく初の不遵守決定として、AppleとMetaに制裁金を科した。ECによると、制裁金の額は「違反の重大性と期間」を考慮して決定されたという。

  • Apple: 5億ユーロ
  • Meta: 2億ユーロ

両社は、ECの決定から60日以内に指摘された問題点を是正する必要がある。もし期限内に遵守しない場合、世界年間売上高の最大5%に相当する可能性のある「定期的履行遅滞金」が科されるリスクがある。

今回の決定は、DMAが単なる努力目標ではなく、具体的な執行力を伴う規制であることを示す象徴的な出来事といえるだろう。ECは、「AppleおよびMetaとの対話を継続し、今回の決定およびDMA全般の遵守を確保していく」としており、今後もゲートキーパーに対する監視を強めていく姿勢を示している。

Apple App Storeの「壁」にDMAが切り込む:アンチステアリング規則違反

Appleに科された5億ユーロの制裁金の根拠は、DMAが定める「アンチステアリング」義務への違反である。アンチステアリングとは、アプリ開発者が自社のアプリ内で、App Store外のより安価な購入方法やサブスクリプションなどの代替オファーについて、ユーザーに無料で情報を伝え、そちらへ誘導(ステアリング)することを妨げてはならない、というルールだ。これは、Appleが課す最大30%の手数料を回避したい開発者や、より安価な選択肢を求める消費者にとって重要な権利となる。

しかしECは、Appleが課している様々な「技術的および商業的制限」により、開発者がApp Store外の代替流通チャネルの利点を十分に享受できず、結果として消費者もより安価なオファーを知ることが妨げられていると結論付けた。具体的には、アプリ内から外部Webサイトへ誘導することは許可されていても、その外部サイトで提供されるコンテンツの価格を表示することなどが制限されていた。

ECは、Appleがこれらの制限が「客観的に必要かつ比例的である」ことを証明できなかったと指摘。今回の決定に基づき、Appleに対してこれらの制限を撤廃し、将来にわたって同様の目的や効果を持つ行為を行わないよう命じた。

Apple側はこの決定に対し、「我々は欧州の顧客のために、控訴し、欧州委員会と対話を続ける」と表明。「今日の発表は、欧州委員会が不当にAppleを標的にしている一連の決定のまた新たな例であり、ユーザーのプライバシーとセキュリティ、製品にとって悪いものであり、我々の技術を無料で提供するよう強制するものだ」と強く反発している。

なお、ECは同時に進めていたAppleの「ユーザー選択義務」に関する調査については、Apple側が「早期かつ積極的な」対応を見せたとして、調査を終了したことも発表している。

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Metaの選択肢は「不十分」:「同意か支払いか」モデルの問題点

一方、Metaに科された2億ユーロの制裁金は、ユーザーデータの取り扱いに関するDMAの義務違反に起因する。DMAでは、Metaのようなゲートキーパーが、FacebookやInstagramといった複数のサービス間でユーザーの個人データを結合してターゲティング広告などに利用する場合、ユーザーから明確な同意を得ることを義務付けている。さらに重要な点として、同意しないユーザーに対しても、「パーソナライズの度合いは低いが、それ以外の点では同等な代替サービス」へのアクセスを提供しなければならないと定めている。

問題視されたのは、Metaが2023年11月にEU域内で導入した「同意か支払いか」モデルである。このモデルでは、ユーザーは個人データの結合とそれに基づくパーソナライズ広告の表示に同意するか、あるいは月額料金を支払って広告非表示サービスを利用するかの二者択一を迫られた。

ECは、このモデルがDMAに準拠していないと判断した。主な理由は以下の2点である。

  1. 「より少ない個人データを使用する同等の代替サービス」の欠如: 料金を支払わない限り、データ結合を拒否する選択肢がなく、DMAが要求する「パーソナライズ度は低いが同等の代替サービス」が提供されていなかった。
  2. 自由な同意の阻害: 実質的に「支払うか、データ提供に同意するか」という二択を迫る形となり、ユーザーが個人データの結合に対して自由な意思で同意する権利を行使できる状況ではなかった。

今回の制裁金は、DMAの義務が法的に拘束力を持った2024年3月から、Metaが新たな広告モデルを導入した2024年11月までの期間における違反行為に対して科されたものである。

Metaは2024年11月、ECとの協議を経て、新たな広告モデルを導入した。これは、広告表示に使用される個人データの量を大幅に削減するとされる無料のオプションを提供するものだ。ECは現在、この新モデルがDMAの要件を満たすかどうかを評価中であり、Metaに対して新モデルが実際にどのような影響をもたらすかの証拠提出を求めている。もし新モデルも不十分と判断されれば、さらなる措置が取られる可能性もある。

Metaはこの決定に対し、「欧州委員会は、成功したアメリカ企業にハンディキャップを与えようとしている一方で、中国やヨーロッパの企業には異なる基準での運営を許している」と反発。「これは単なる罰金ではない。委員会が我々にビジネスモデルの変更を強制することは、実質的にMetaに数十億ドル規模の関税を課すものであり、同時に我々により劣ったサービスの提供を要求するものだ」と主張している

なお、ECは同日、Metaからの要請を受け、Facebook MarketplaceについてはDMAのゲートキーパー指定を解除することも決定した。これは、2024年における同サービスのビジネスユーザー数が1万人未満となり、DMAが定める「ビジネスユーザーがエンドユーザーにリーチするための重要なゲートウェイ」としての基準を満たさなくなったためである。

両社の反発と国際的な波紋

今回のECによる初のDMA制裁金決定は、対象となったApple、Meta両社から強い反発を招いている。

Appleは、多大なエンジニアリング時間を費やしてDMAに対応してきたにも関わらず、「ECは絶えずゴールポストを動かしている」と不満を表明し、控訴する意向を示した。

Metaは、ECの措置を「不当なパーソナライズ広告の制限」であり、「アメリカ企業へのハンディキャップ」「数十億ドルの関税」に等しいと非難。さらに、「中国や欧州企業には異なる基準が適用されている」と、規制の公平性に疑問を呈した。

制裁金の額自体は、両社の巨大な収益規模(直近四半期純利益:Apple約363億ドル、Meta約208億ドル)から見れば比較的小さいとも言える。Reutersが報じたように、これには違反期間が比較的短かったこと、ECが制裁そのものよりもコンプライアンス(法令遵守)の確保を重視していること、そしてTrump米大統領の政権からの報復措置を避けたいという政治的な配慮があった可能性も囁かれている。

しかし、今回の決定が持つ意味合いは金額の多寡にとどまらない。特に、米国の有力テック企業がEUの規制によってビジネスモデルの変更を迫られることに対し、米国内からは強い警戒感と反発の声が上がっている。

ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)の報道官は、DMAを「差別的」と批判し、今回の決定を米国が容認しない「経済的恐喝」であると断じた。「アメリカ企業を具体的に標的にし、その基盤を揺るがし、イノベーションを阻害し、検閲を可能にするような域外規制は、貿易障壁であり、自由な市民社会への直接的な脅威として認識されるだろう」「EUによるアメリカ企業および消費者への悪意ある標的化は止めなければならない」と強い口調で非難している。

国際法経済センター(ICLE)の専門家も、「欧州が法的理由ではなく政治的理由でアメリカのテックチャンピオンを標的にしているという主張に根拠を与え、デジタル領域をはるかに超えた影響をもたらす関税のエスカレーションサイクルを引き起こす可能性がある」と警鐘を鳴らす。コンピューター・通信産業協会(CCIA)ヨーロッパも、今回の決定を「不透明で、裁量的で、予測不可能」であり、「DMAは非常に政治化されている」と批判している。

DMAの施行と今回の初の制裁金決定は、デジタル市場における公正な競争環境の実現を目指すEUの強い意志を示す一方で、米欧間の新たな経済的・政治的な緊張の火種となる可能性もはらんでいる。今後、AppleとMetaがECの決定にどう対応するのか、ECがMetaの新広告モデルをどう評価するのか、そしてこの動きが米欧関係や世界のデジタル規制の潮流にどのような影響を与えていくのか、注意深く見守る必要があるだろう。


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