SK hynixが、中国・大連のNAND第2工場への設備投資を再開する方向で動いている。IB Tomatoは2026年7月8日、同社が下期に生産装置の搬入を始め、2027年上期まで段階的に設備を整える計画だと報じた。別の韓国報道は、投資対象を月産3万〜5万枚規模のV8新ラインとしている。ただし、SK hynixは再開の可能性が高まったことを認めつつ、「具体的な日程はまだ確定していない」と回答した。
大連の再始動には二つの意味がある。既存建屋を使えば、2029年上期の稼働を目指す韓国・清州のNAND新工場M17より早く供給を増やせる。一方、米国が2026年に認めた年次輸出ライセンスは承認済み装置を対象とし、品目は公表されていない。月5万枚という数字が実際の供給へ変わるには、投資決定と装置搬入に加え、米国の許可範囲を通過する必要がある。
2027年上期までの段階導入、日程はなお未確定
IB Tomatoによると、SK hynixは2026年下期から大連第2工場へ生産装置を入れ、2027年上期まで順次ラインを構築する。韓国の協力会社は遊休NAND装置を大連へ移す作業に着手し、海外の装置メーカーにも事前の購入注文が届いたという。建屋を新設してから装置を入れる計画ではないため、用地や基礎インフラから整える新工場より立ち上げを早めやすい。
計画規模は月産3万〜5万枚と報じられた。これは完成品SSDの台数でも、出荷できる記憶容量でもなく、1カ月に処理できるウェハー枚数の目安である。実際のビット供給量は、採用するNANDの層数、1枚から取れる良品ダイの数、TLCとQLCの構成で変わる。歩留まりも数字を左右する。最大5万枚がそのまま市場へ追加されるわけではない。
既存の大連第1工場では、192層NANDへの転換と老朽装置の更新が進んでいると報じられている。第2工場のV8ラインが立ち上がれば、大連は既存ラインの効率改善と新しいウェハー能力の追加を並行して進めることになる。ただし、会社が認めたのは再開可能性の高まりまでだ。装置搬入の開始月、量産時期、投資額は決まっていない。
M17が動く2029年までを埋める候補
SK hynixは7月2日、清州のNAND新工場M17に80兆ウォンを投資すると発表した。着工は2027年、稼働目標は2029年上期である。土地、電力、用水が整った清州でも、前工程の新工場は現在の供給不足をすぐには埋められない。
大連第2工場は、この時間差を埋める候補になる。2022年5月に工場建設が始まったものの、NAND不況と対中輸出規制が重なり、装置投資は事実上止まっていた。完成済みの空間と既存拠点の人員・インフラを使えるなら、M17より前にウェハー投入へ進める。SK hynixが保有するNAND生産拠点のなかで、能力を早く増やせる場所だと評価される理由である。
需要側も変わった。SK hynixは2026年第1四半期、AI投資がHBMやサーバーDRAMからエンタープライズSSDへ広がり、NANDでも顧客需要が供給能力を上回ると説明した。同四半期のNAND市場では、IDC集計で売上高シェア18.5%を持ち、世界2位だった。正式な投資決定と装置許可がそろい、供給不足が続く間に大連を立ち上げられれば、出荷ビットを増やしてSolidigmの高容量SSD事業へ回せる。
ただし、橋渡し候補として使える期間には限りがある。大連の量産が遅れればM17との時間差が縮まり、先に入れた装置から回収できる期間も短くなる。2026年下期の搬入開始と2027年上期の設備構築という報道日程は、投資採算を左右する条件でもある。
192層とV8、二つの製品基盤
大連の価値はウェハー枚数だけで決まらない。SK hynixがIntelから取得したNAND事業は、現在のSolidigmにつながる。Solidigmの高容量QLC SSD「D5-P5336」は192層NANDを使い、最大122.88TBを1台に収める。読み出し中心のAIデータ基盤やデータレイクでは、記録密度を高めてSSD台数、ラック、電力を減らせる点が競争力になる。
一方、SK hynix本体は176層から238層、321層へ工程を進めてきた。238層4D NANDは2023年に量産を始め、会社発表では176層比で生産効率を34%改善し、データ転送速度を2.4Gbpsへ高めた。2026年には321層QLCを使うクライアントSSD「PQC21」の供給も始めている。現在の製品群には、Solidigmが強い192層QLCの大容量eSSDと、SK hynix側の高層化したNANDが並ぶ。
報じられた大連第2工場の「V8」が、どの製品へ割り当てられるかは公表されていない。238層工程を大連へ移すのか、TLCとQLCをどの比率で作るのか、クライアントSSDとeSSDのどちらを優先するのかによって、増設の経済効果は変わる。月3万〜5万枚は入口の数字にすぎず、収益を決めるのは良品ビット数と製品単価である。
年次許可で搬入は読みやすくなったが、増設の可否は別
大連計画の最大の制約は、米国の対中半導体輸出規制だ。米商務省産業安全保障局(BIS)は2025年8月、Intelの大連拠点、Samsungの中国拠点、SK hynixの中国拠点をValidated End User(VEU)制度から外した。VEUでは対象品目を個別申請せずに持ち込めたが、廃止後は輸出ライセンスが必要になる。
BISは同時に、旧VEU対象企業が中国の既存工場を操業するためのライセンスは認める意向を示した。その一方で、中国工場の生産能力増強や技術更新を目的とする申請には許可を出さない方針も明記した。保守用の交換部品を入れることと、空いている第2工場へ新ラインを作ることは、政策上の扱いが同じとは限らない。
その後、BISはSK hynixに2026年の年次ライセンスを付与した。同社が米証券取引委員会へ提出した最新資料には、承認済みの米国原産装置を2026年中に中国拠点へ出荷でき、案件ごとの申請負担がなくなったとある。だが、承認された装置の一覧も、大連第2工場のV8ラインが対象に含まれるかも開示されていない。年次許可は搬入計画の予見性を戻したが、増設まで認めた証拠にはならない。
時間の境界もある。IB Tomatoが伝えた計画では、設備構築が2027年上期まで続く。2026年の許可で年内に装置を入れられても、翌年に必要な追加装置や部品は2027年分の承認に左右される。したがって、大連計画の実行可能性を測るには、2026年下期の初回搬入とともに、2027年の年次ライセンスがどの範囲で更新されるかを見る必要がある。
月5万枚より先に確認すべき三つの条件
大連第2工場が動けば、SK hynixはM17の稼働を待たずにNAND供給を増やし、Intelから取得した生産資産とSolidigmのeSSD事業を結びやすくなる。AIデータセンター向け高容量QLC SSDの需要が供給能力を上回る局面で立ち上がれば、停止していた建屋を出荷増へつなげられる。
確認すべき条件は三つに絞られる。まず、SK hynixが投資額と装置搬入日程を正式に決めるかどうかだ。次に、2026年と2027年の米国ライセンスが新ラインに必要な装置を含むかである。最後に、V8ラインがどの層数とセル方式を採用し、TLC・QLCとクライアント・企業向けの比率をどう配分するかだ。
最初の確認時期は2026年下期の装置搬入になる。新規生産装置の種類、原産地、用途と、それらが年次ライセンスの対象であることまで確認できれば、米国の許可が大連の能力追加をどこまで認めたのかを判断できる。さらにウェハー投入と量産時期が示されれば、月3万〜5万枚が2027年の実供給へつながるかも見えてくる。