台湾の電子材料サプライチェーンで、AIインフラ向け需要を背景にした価格転嫁が上流へ広がっている。TechNewsが確認した顧客向け通知によれば、ガラス繊維メーカーの富喬工業は2026年6月26日、E-glassガラスクロスを30%、FLD2ガラスクロスを15%引き上げると顧客に通知した。新価格は2026年7月1日以降の新規注文から適用される。理由として挙げられたのは、ガラス繊維糸のコスト上昇、エネルギー価格の上昇、輸送コストの変動である。

同じ記事は、III-V族化合物半導体のエピタキシャルウェハを手がける全新光電(VPEC)も2026年6月29日に取引先へ価格調整を通知したと伝えている。全新光電は、過去1年にわたり原材料コストが上がり社内で吸収してきたが、今後はエピウェハー価格を製品と仕様ごとに一定程度引き上げる方針だという。富喬と全新光電の通知そのものは公開IRとして確認できないため、正確な値上げ率と通知日はTechNewsの確認した通知に帰属する。ただし、両社が担う材料と、AIハードウェア側の需要増は公開資料からも追える。

AD

E-glass 30%が示す汎用材への圧力

富喬工業は、台湾店頭市場に上場するガラス繊維メーカーである。公式サイトとTaipei Exchangeの会社データでは、ガラス繊維糸とガラス繊維布を主要製品としている。資本金は58億5,479万4,870台湾ドル、上場日は2006年1月23日で、公式サイトはffg.com.twだ。今回の通知は、値上げ対象にE-glassを含む点が目を引く。

E-glassは、一般的な電子材料向けガラスクロスの基礎的なグレードである。AIサーバーや高速スイッチで話題になりやすいのは、低誘電のNE、NER、NEZ/Q系や、低熱膨張のT-glassだ。それでも、E-glassの30%引き上げは、特殊材の品薄を超えて広がるコスト圧力を示す。銅張積層板、PCB、一般電子基板を支える材料にも、価格転嫁が広がっている可能性がある。

TrendForce Insightsは、銅張積層板の材料費構成について目安を示している。銅箔が42%、樹脂が26%、ガラスクロスが19%を占め、残り13%をその他の材料が占めるという。この比率をそのまま全製品に当てはめることはできないが、ガラスクロスは基板材料費の中で小さくない比重を持つ。E-glassで30%、FLD2で15%という通知が下流に受け入れられれば、CCLメーカーやPCBメーカー、サーバー基板の調達担当者は、材料費の見直しを避けにくくなる。

なぜAIサーバーはガラスクロスを性能部材に変えたのか

ガラスクロス不足の背景には、AIサーバーと高速ネットワークの設計変化がある。日東紡が2025年8月に公表したガラスクロス増産計画では、生成AIの普及でAIサーバーの性能向上と市場拡大が進んだと説明している。2023年夏以降、AIサーバー内の高速チップ間通信を支えるスイッチ用マザーボードに低誘電ガラスクロスが採用され始めた。2024年からは先端パッケージの本格採用が進み、パッケージ基板の大型化、熱膨張、反りの課題が強まったため、T-glassクロスの採用も増えているという。

つまり、ガラスクロスは補強材から性能部材へ役割を移しつつある。AIアクセラレーター周辺で、HBM、高速スイッチASIC、光通信部品が高密度に接続されるほど、基板には低損失、低熱膨張、寸法安定性が求められる。信号が400G、800G、1.6Tへ進むほど、基板材料の誘電特性や加工精度はシステム性能に直結する。AIサーバーの台数が増え、1台あたりで基板に求められる性能も上がっているため、上流材料の逼迫が価格に出やすい。

日東紡は福島事業センターで約150億円を投じてガラスクロス生産設備を増強し、2026年度第4四半期に生産を開始する計画を示している。増設分をすべて先端ロジックIC向けT-glassクロスに振り向けた場合、現行比で約3倍の生産量に相当すると説明している。大手メーカーが能力増強に動いても、立ち上がりは2026年度末以降だ。2026年半ばに富喬が価格を引き上げる背景には、需要増に供給能力の追加が追いつくまでの時間差がある。

AD

全新光電が動かす化合物半導体側の価格

全新光電(VPEC)は、公式サイトで1996年11月設立のVisual Photonics Epitaxy Co., Ltd.と紹介され、MOCVDによるIII-V族化合物半導体エピタキシャルウェハを主力技術としている。マイクロエレクトロニクス分野では、GaAs HBTやInP HBTから、GaAs PHEMT、InP HEMT、GaNエピウェハーまで幅広い製品群を持つ。光電子分野では、InGaAsフォトダイオード、F-P/DFBレーザー、VCSELなどを扱う。

エピウェハーは、シリコンのロジック基板とは別の場所でAIインフラを支える。GaAsやInP、GaNなどのIII-V族材料は、高周波・高速動作に強く、光電変換も担う。用途は基地局や無線LANの高周波部品に加え、光ファイバー通信や衛星通信、レーダー向け部品にも広がる。AIデータセンターの拡張はGPUやメモリだけで完結しない。高速ネットワーク、光トランシーバー、高周波部品も同時に増える。

そのため、全新光電の価格調整は、ガラスクロスとは別の材料系統で起きている価格圧力として見るべきだ。AIインフラ拡張は、複数の上流材料に並行して負荷をかけている。TechNewsが伝えた通知では、全新光電は過去1年の原材料コスト上昇を社内で吸収してきたが、今後は製品と仕様に応じて営業担当者が顧客と協議する。エピウェハー価格の上昇は、用途や仕様、顧客契約ごとの交渉で進む。

5月売上高が語る需要の強さ

価格転嫁が成立するには、コスト上昇に加えて需要側の強さも要る。需要側が弱ければ、サプライヤーが値上げを打ち出しても受け入れられにくい。富喬と全新光電の直近月次売上は、少なくとも2026年5月時点で需要が強いことを示している。

Taipei Exchangeの公開データによると、富喬の2026年5月売上高は7億843万3,000台湾ドルで、前年同月比49.901%増だった。2026年1月から5月までの累計売上高は33億2,365万5,000台湾ドルで、前年同期比42.385%増である。前月比では3.455%減だったが、前年との比較では高い伸びが続いている。

台湾証券取引所(TWSE)の公開データでは、全新光電の2026年5月売上高は3億2,078万5,000台湾ドルで、前年同月比46.512%増、前月比0.687%増だった。1月から5月までの累計売上高は15億9,869万台湾ドルで、前年同期比28.522%増である。両社とも、値上げ通知が出た6月末の直前まで、前年を大きく上回る売上を維持していたことになる。

もちろん、月次売上の伸びだけで利益率の改善や値上げ成功を判断することはできない。利益は材料費や稼働率に左右され、製品ミックス、為替、顧客別契約の影響も受ける。それでも、今回の価格改定は需要の弱い局面での苦しまぎれの値上げとは性格が異なる。

AD

下流の見積もりに出る時間差

今回の動きは、単発の値上げ通知として見るより、AIハードウェアの材料調達が複数の上流で詰まり始めた事例として読む方が分かりやすい。ガラスクロスはCCL、PCB、IC基板へつながり、エピウェハーは高周波部品や光通信デバイスへつながる。どちらもAIサーバー本体、サーバー間接続、データセンター内外の通信を支える部材だ。

ただし、影響は一気に同じ形では現れない。富喬の通知は2026年7月1日以降の新規注文が対象とされるため、既存契約や在庫、顧客別の価格改定タイミングによって下流への反映はずれる。全新光電のエピウェハーも、製品と仕様ごとに営業担当者が協議する形であり、顧客ごとに条件は変わる。

確認すべきは、CCLメーカーやPCBメーカーが2026年第3四半期に出す見積もり、AIサーバー向け基板や高速スイッチ基板のリードタイム、そしてエピウェハーを使う光通信・RF部品の価格改定である。富喬と全新光電の通知は、AIインフラ投資の波が上流の材料価格から下流へ移る、その手前の段階を示している。