Graphite Oneは2026年7月16日、米オハイオ州コノートに計画する負極活物質(AAM)工場について、Ohio Environmental Protection Agency(Ohio EPA)が大気許可申請を予備的・事務的に完備と認め、技術審査を始めたと発表した。これは許可の発行ではない。しかも2027年第4四半期に予定する初期生産は、購入した黒鉛化済み材料を仕上げて配合する年1万トンの工程である。前駆体から人工黒鉛をつくる高温工程と、アラスカ産天然黒鉛を使う一貫供給網は、その後に続く計画だ。

今回の審査入りで、工場計画は申請書の受理から技術評価へ進んだ。一方、正式な用地リースと建設資金はまだ揃っていない。5月19日時点では顧客6社が仕様試験中で、原料調達先は開示されていない。「米国内で工場を動かす段階」と「原料からAAMまで米国内でつなぐ段階」を分けて見る必要がある。

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「申請完備」は許可取得ではない

Ohio EPAが確認したのは、詳細な技術審査を始めるための資料が申請書に含まれていることだ。同庁が他の事業者へ出した標準的な完備通知では、この判断は申請を承認できるという意味ではないと明記されている。審査担当は追加情報や説明を求めることができ、技術審査後に許可条件または却下案を作り、中央部門の確認へ回す。

Graphite Oneは6月時点で、環境評価と許認可を2027年第1四半期までに終える目標を示していた。これは会社側の工程表であり、Ohio EPAが許可日を約束したものではない。7月16日の発表も、許認可と資金調達の成立を生産開始の条件に挙げている。

用地の状態も「工場確定」より一段手前だ。Graphite OneはCanadian National Railway傘下のBessemer and Lake Erie Railroadと、現地調査のための占有許可契約を結んだ。調査結果に満足すれば正式リースへ進む。コノートは五大湖の水運、鉄道、敷地内変電所を利用できる一方、以前予定していたオハイオ州ウォーレンは、必要な電力設備を計画期間内に整えることが難しく、同社はリースを終了した。

電力は工場の規模を決める条件でもある。電力会社FirstEnergyが確認したのは、年1万トンの仕上げ・配合工場に必要な供給能力である。高温の黒鉛化設備まで含む第2段階については、電力契約を含む開発条件が残る。

2027年の1万トン枠は仕上げ・配合から

人工黒鉛AAMの国内化は、三つの段階に分けられている。

段階 会社の目標時期・能力 工場で行うこと 残る条件
第1段階 2027年第4四半期、年約1万トン 購入した黒鉛化済み人工黒鉛を仕上げ、コーティング、配合する 許可、正式リース、資金、顧客認定
第2段階 2028年第4四半期、年2万5,000トン 高温の黒鉛化設備を導入し、購入した前駆体を処理する 大型設備、電力、資金、試運転
最終段階 時期未開示 米国内原料を使う前駆体工場を加える 原料契約、設備、顧客仕様

第1段階は早く売上を得るため、供給網の川下から着手する設計だ。Graphite Oneの2026年第1四半期の経営者説明資料は、黒鉛化済み人工黒鉛材料を購入し、顧客の仕様に合わせた完成AAMへ加工すると記す。購入材の供給者と原産国は開示されていないため、コノートで出荷した時点でも原料と黒鉛化工程の輸入依存が残り得る。

第2段階で加わる黒鉛化は、石油コークスなどの炭素材料を2,500℃を超える温度で処理し、結晶構造を整える工程だ。Argonne National Laboratoryの研究者が2025年に公表したライフサイクル評価では、人工黒鉛AAMの米国内製造で算定した環境影響全体のうち、黒鉛化工程が74%超を占めた。主因は電力と、処理に使うるつぼなどの材料である。コノートで高容量電源を確保できるかは、第2段階の実現性を左右する。

製造ノウハウにも海外との接点がある。Graphite Oneは2024年、中国・長沙のHunan Chenyu Fuji New Energy Technologyと北米向けAAM技術の独占ライセンス契約を結び、設計から試運転、操業まで助言を受ける。契約はロイヤルティと工程ごとの報酬を支払い、Chenyuに株式や経営権を与えない内容だ。米国内での立地計画があっても、初期段階の材料と製造技術の由来まで国内に閉じているわけではない。

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3,750万ドルの国防総省支援と14億ドルのLOI

Graphite Oneが米国防総省の支援を受けたのは事実だ。同省はDefense Production Act(DPA、国防生産法)Title IIIに基づき、Graphite Creekの事業化調査を加速するため3,750万ドルを支援した。会社の会計開示では国防総省の負担上限は3,730万ドルで、調査と最終許認可申請に必要な環境作業の75%を賄った。この資金はコノート工場の建設補助金ではない。

工場建設を対象にした政府側の資金検討は、米輸出入銀行(EXIM)が2025年12月に示した最大14億ドルのLetter of Interest(LOI)である。対象はオハイオ州北東部のAAM工場で、EXIMはこのLOIを承認したと公表している。ただしGraphite Oneは、拘束力のない潜在的な債務融資だと説明する。正式申請の後にデューデリジェンスと与信審査があり、最終コミットメントは別の判断になる。

資金の確定は生産日程を左右する。Graphite Oneは2026年3月末に約1,856万ドルの現金を持っていたが、営業収入はまだない。同社は今後12カ月の運営費と開発費を賄うため追加資金が必要で、継続企業の前提に重要な不確実性があると自ら開示した。政府支援の検討に加え、合弁、株式、負債による調達を並行している。

米国内立地と米国内サプライチェーンの距離

米国地質調査所(USGS)によると、米国では2025年も天然黒鉛の鉱山生産がなく、見掛け消費7万1,000トンに対する純輸入依存度は100%だった。天然黒鉛の輸入は7万9,000トンで、2021〜2024年の最大供給国は46%を占めた中国である。天然黒鉛の採掘が空白のままなら、川下工場が増えても原料輸入は残る。

完成したAAMでも輸入は増えた。天然黒鉛系と人工黒鉛系を合わせたAAM輸入量は、2025年1〜8月に4万3,400トンとなり、前年同期の2万8,100トンから54%増えた。供給元は中国55%、インドネシア31%、韓国14%である。購入済み黒鉛化材から始めるコノートの初期工程は、国内の加工能力を早く立ち上げられる反面、どの国の材料を使うかで供給網の実態が変わる。

天然黒鉛の川上を担うアラスカ州Graphite Creekは、年17万5,000トンの精鉱を20年間生産する事業化調査を終えた。だが、会社は2026年7月9日、連邦審査を環境アセスメントから、より包括的な環境影響評価書(EIS)の手続きへ進めると発表した。2029年の生産開始は会社の目標であり、EISと必要な許認可の完了を待つ。天然黒鉛AAMの工場建設も、鉱山の許可と販売契約が前提である。

したがって、今回の技術審査入りが前へ進めるのは、購入材を完成品へ変える最初の1万トンだ。米国内一貫供給網へ届くかは、まずOhio EPAの最終判断、正式リース、拘束力ある建設資金で決まる。その先に購入材の原産国と顧客認定、2028年の黒鉛化設備、2029年以降のアラスカ鉱山がある。すべて実現した時点で、会社が掲げる国内一貫供給網になる。