データセンターの電力需要が急増する米国では、新規の送電線建設に5〜7年待ちの列ができている。だが電力不足の根源は、送電線建設の遅れだけにあるとは限らない。GridCAREのCEO、Amit Narayan氏によれば、突発的な二重故障に備えた保守的な設計のせいで、米送電網は年間のほとんどの期間で物理容量の3割程度しか使われていないという。この眠る容量にAIで目を付けたカリフォルニア拠点のスタートアップGridCAREは、National GridとPortland General Electricで650MW400MW超という具体的な接続容量をすでに引き出した一方、同じNarayan氏は3〜5年以内に300GWという桁違いの数字にも言及している。実績とこの見通しの間には、2桁以上の開きがある。

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送電網が年間ほとんど「3割稼働」にとどまる理由

送電網の設計は、最悪のシナリオを基準に決められている。米国の系統運用者は「N-2」と呼ばれる基準を採用し、送電線や変圧器のうち任意の2つが同時に故障しても停電を起こさないだけの予備容量を常に確保するよう計画する。平常時にどれだけ電力が流れるかは、この基準にほとんど関係がない。落雷と設備トラブルが重なるような稀な事態に備えて系統全体を余裕を持って作る発想が、長年の標準になってきた。

この設計思想の結果、送電網は年間のほとんどの期間で物理容量の30〜40%程度しか使われていないという。これはGridCAREのCEO、Amit Narayan氏自身の説明だ(Data Center Dynamics報道)。猛暑や厳寒でピーク需要が発生するのはわずか年間数十時間で、残りの期間、送電線や変圧器は本来の能力よりはるかに低い水準でしか稼働していない。この余白は台帳上の定格容量には表れない。気温や風向き、実際の潮流(電気がどの経路をどれだけ流れるか)によって刻々と変わるため、静的な容量表だけでは把握しきれず、系統運用者もこれまで新規接続の審査には保守的な数値をそのまま使ってきた。

データセンター開発ラッシュで新規の送電線建設に5〜7年待ちの列ができる中、この見えない余白をリアルタイムのシミュレーションで可視化しようとするスタートアップが登場した。2024年設立、カリフォルニア州拠点のGridCAREだ。CEOのAmit Narayan氏は「私たちはAIを使ってAIをより速く展開する。隠れた系統容量を高速レーンに変え、何年もの期間を数カ月に圧縮するのだ」と述べている(原文:"We use AI to deploy AI faster by turning hidden grid capacity into a fast lane, compressing years into months.")。同社はAIソフト「Energize」を使い、気象条件や需要変動を織り込んだ系統シナリオを計算することで、書類上は満杯に見える送電網から実際に接続可能な余力を見つけ出すと説明している。

National GridとPGEが示すGridCAREの実証実績

GridCAREの手法が机上の空論でないことを示す分かりやすい証拠が、東海岸のユーティリティ企業National Gridとの提携だ。同社はニューヨーク州の系統でGridCAREの技術を使い、大規模かつ柔軟な負荷向けに650MWの接続容量を新たに特定したと発表した。National GridのCEOであるZoe Yujnovich氏は「GridCAREは大規模かつ柔軟な負荷向けに、当社のニューヨークの系統で650MWの接続容量を特定した」と述べている(原文:"GridCARE identified 650 MW of connection capacity on our network in New York for large, flexible loads.")。

650MWがどれほどの規模かは、同じニューヨーク州で計画されている大型プロジェクトと比べるとわかりやすい。Micronはシラキュース近郊で投資額1000億ドル規模の半導体工場を計画しており、2043年までに年間最大16.17TWhを消費する見通しだ。これは平均で1850MW近い電力を継続的に使う計算になり、GridCAREが特定した650MWの3倍近い規模の需要家が同じ州にひかえていることになる。

西海岸ではPortland General Electric(PGE)がオレゴン州ヒルズボロで同様の取り組みを進めている。PGEは2029年までに400MW超の接続容量を確保する計画を立てており、そのうち80MWは2026年中に稼働する見通しだ。National Gridの650MWが特定済みの容量であるのに対し、PGEの計画は稼働時期まで段階的に示されている点が異なる。いずれのケースでも共通するのは、新しい送電線を1本も引かずに、既存系統の運用方法を変えるだけで数百MW規模の接続余地を生み出した点だ。

こうした実績はGridCAREの資金調達にも表れている。同社は2026年5月14日、Sutter Hill Venturesが主導し、Kleiner Perkins、National Grid Partners、Emerson Collectiveが参加したシリーズAで6400万ドル(約104億円、1ドル=162.4円、2026年7月9日時点)を調達したと発表した。これで累計調達額は7750万ドルに達した。National Grid自身がNational Grid Partnersを通じて出資者に名を連ねている事実が、この提携の本気度を裏付ける。同社はまた、これまでに100億ドル超(同レートで約1兆6240億円)の経済価値を生み出したとも説明しているが、この数字は自己申告であり、National Gridなど提携先や第三者機関による独立検証は確認できていない。

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「300GW」という主張はどこまで裏付けられているのか

300GW」という数字が独り歩きし始めている。GridCAREのCEO、Amit Narayan氏はエネルギー系ポッドキャスト「Energy Empire」(司会Jigar Shah氏)に出演し、米国の送電網全体で3〜5年以内に約300GWの容量を活用できるとの見通しを示したと報じられている。桁の大きさ自体が見出しになりやすい数字だ。

GridCAREが実際に特定済みと発表しているのは、National Gridの650MWとPGEの400MW超を合わせて1050MW超。CEOが語る300GW(30万MW)は、この実証済みの合計の285倍に相当する規模だ。同社は「quadrillions(数京)」規模の系統運用シナリオをシミュレーションして遊休容量を割り出していると自社で説明している。

Bank of America(以下BofA)は2026年から2030年にかけて、米国内で230GWの需要に対し供給が93GWにとどまり、約100GWの電力不足が生じる可能性があると試算している。一方、Duke大学のTyler Norris氏らの研究チームは、大口需要家が年間0.25%の需要抑制を受け入れれば既存の送電網だけで最大76GWの新規負荷を吸収でき、柔軟性をさらに高めれば100GW超まで拡大できると試算した。仮にGridCAREの300GWがそのまま実現するなら、BofAが懸念する不足分を3倍近く埋め合わせる計算になる。外部の試算と並べると、300GWという数字の異質さが際立つ。

だが、Duke大学の試算はカーテイルメント率という前提条件と計算手法を論文の形で公開しているのに対し、GridCAREが「quadrillions(数京)」規模のシミュレーションと説明する300GWは、算出根拠も前提条件も公開されておらず、CEOの発言以外に検証可能な材料がない。同じ「隠れた容量」を語る数字でも、透明性の水準はまるで違う。系統運用者や規制当局が300GWの実現性を判断するには、まずこの根拠開示が欠かせない。

GridCAREとGoogle系Tapestryが牽引する系統最適化の潮流

GridCAREの取り組みは、より広い潮流の一角にある。データセンター需要の急増で新規の発電設備や大口負荷の接続待ちが5〜7年に達する中、既存インフラを物理的に増強する代わりに、ソフトウェアで運用を最適化して接続を早めるアプローチが2025年から2026年にかけて急速に台頭している。目的は共通していて、申請から接続までの手続きを、数年単位から数カ月単位に圧縮することにある。

その代表例が、米国最大級の卸電力市場を運営するPJM Interconnectionの取り組みだ。PJMはGoogle系のTapestry社が開発したソフトウェア「HyperQ」を導入し、811件、220GW相当の発電設備の接続申請を1時間足らずで審査したと、Data Center Dynamicsが報じている。この811件、220GWという実績はTapestry社によるものであり、GridCAREとは開発元も対象も異なる。GridCAREが手がけるのはデータセンターなど大口負荷の接続容量の発掘、つまり電力を使う側の最適化だ。Tapestryの「HyperQ」は発電設備の接続審査を高速化する、電力を作る側の仕組みである。

それでも両者が目指す方向は同じだ。既存の系統を新たに作るより、あるがままを読み解くことで、申請から接続までの待ち時間を圧縮しようとしている。PJMの811件、220GW処理は供給側の審査を、GridCAREの650MWとPGEの400MW超は需要側の接続を、それぞれ具体的な数字で示した点で共通する。

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日本のデータセンター電力問題にも通じる次の焦点

GridCARE自身も明らかにしていない論点がいくつか残っている。N-2という保守的な想定のもとで確保されてきた予備マージンをソフトウェアで削り込んでいった場合、送電線や変圧器が同時に複数故障する稀な事態への耐性がどこまで維持されるのかは、公表資料からは読み取れない。料金体系や、FERC(連邦エネルギー規制委員会)などの規制当局がこうした手法をどう位置づけるかも、まだ明らかになっていない。

この動きが示す方向性は、日本の電力事情にも重なる。国内でも東京電力や関西電力などの大手電力各社が、生成AI向けデータセンターの新設ラッシュへの対応を迫られている。米国のケースが示すのは、系統増強の手段が新しい送電線を引くことに限らず、既存設備をどれだけ精密に使い切るかという運用面にも広がっている、という選択肢の存在だ。National GridやPGEが公表したような具体的な数字を、日本の電力各社が自社系統についてどれだけ示せるかが、この手法が国内でも通用するかを左右する。

PJMがTapestryの「HyperQ」で審査時間を1時間足らずに縮めた前例に、National Grid以外の大手ユーティリティも追随すれば、5〜7年に及ぶ接続待ちの列は数カ月単位に縮まっていく可能性がある。GridCAREにとっての次の関門は、National GridとPGE以外の系統運用者にもEnergizeの導入を広げ、300GWの算出根拠を検証可能な形で開示できるかどうかだ。