電動化の波が世界を席巻する一方で、自動車産業は現実解としてのハイブリッド車(HEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)の重要性を再認識している。急進的な完全バッテリー電気自動車(BEV)への移行計画が一部で見直される中、既存の熱機関と電気モーターを組み合わせたパワートレインの効率化は、依然として業界の最重要課題だ。こうした潮流の中、Renault GroupGeely、そしてAramcoの合弁によって誕生したグローバル企業であるHorse Powertrainが、内燃機関と電動化技術の融合における技術的到達点とも言える新たな電動モーターテクノロジーを発表した。それが、ハイブリッドトランスミッション専用モーター「Amorphous Motor」である。このモーターは、業界最高水準となる98.2%という驚異的なエネルギー変換効率を達成し、システム全体のエネルギー消費量を劇的に改善する可能性を秘めている。

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モーター効率を阻む最大の強敵「鉄損」

電気モーターの効率を極限まで高める上で、エンジニアたちが長年にわたって直面してきた最大の障壁が「鉄損」である。一般的な駆動用モーターのステーター(固定子)には、電磁鋼板(ケイ素鋼板)と呼ばれる結晶構造を持つ鋼材が用いられている。モーターが回転し、ステーター内の磁界が高速で反転を繰り返す過程において、この磁気的変化に対するエネルギーの損失が必然的に発生する。この損失は主に、磁化の遅れによって生じるヒステリシス損と、電磁誘導によって鋼板内部に発生する渦電流による渦電流損の二つから構成される。これらは熱として放出され、モーターの効率を直接的に低下させる元凶となる。

これまで業界標準として用いられてきた電磁鋼板は、一般的に0.25mmから0.3mm程度の厚みを持つ積層構造となっている。渦電流損を低減するためには、この鋼板を可能な限り薄くして積層することが理論上の最適解であると認識されていた。しかし、従来の結晶質鋼板において厚みをこれ以上減少させることは、材料の強度低下や加工の困難さ、そしてコストの著しい増大を招くため、0.25mm付近が実用上の限界点として長らく立ちはだかっていた。既存のハイブリッドシステムがすでに極めて洗練された領域に達している現代において、この構造的な限界を突破しない限り、さらなる熱効率や電費の向上は見込めない状況が続いていたのである。

アモルファス合金:0.025mmのブレイクスルー

Horse Powertrainがこの限界を打ち破るために採用したアプローチは、設計の微細な調整ではなく、根本的な素材の変更であった。彼らはステーターのコア材料として、従来型の電磁鋼板ではなく「アモルファス合金(非晶質金属)」を導入した。アモルファス鋼は、溶融した金属を毎秒100万度という超高速で急冷することで、原子が規則正しく並ぶ結晶構造を形成する前に固体化させた特殊な材料である。この不規則な原子配列により、アモルファス鋼は一般的な鋼材とは全く異なる卓越した物理的・電磁気的特性を獲得している。

第一に、アモルファス鋼は極めて高い透磁率(磁力線の通しやすさ)を持ち、磁界の変化に対する抵抗であるヒステリシス損を劇的に低減させることができる。第二に、そして最も重要な点として、この材料を用いることで、Horse Powertrainはステーターの積層板の厚みをわずか0.025mmにまで極薄化することに成功した。これは従来のモーターに使用されていた鋼板の10分の1という驚異的な薄さである。積層板をここまで薄くすることで、層内を循環する渦電流は物理的に分断され、発生する熱損失は極限まで抑え込まれる。同社の発表によれば、このアモルファスアプローチにより、同等の出力を要する従来型モーターと比較して、ステーターにおける鉄損は正確に50%削減されるという。この材料科学の勝利が、結果として98.2%という驚異的な総合効率を実現するための基盤となっている。

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効率とパフォーマンスの困難な両立

アモルファス合金をモーターコアに適用するというアイデア自体は新しいものではなく、これまでも高効率が求められる産業用トランスや一部の特殊な電気機器には採用されてきた。しかし、これを激しい振動や温度変化、そして強大なトルクが連続的に発生する自動車の駆動用モーターに適用することは、極めて難易度の高いエンジニアリングの課題であった。0.025mmという箔のように薄い素材を、その優れた磁気特性をわずかでも損なうことなく精密に切断し、形状を保ったままステーターとして組み上げるためには、高度で特殊な製造技術が必要不可欠だ。

Horse Powertrainは、これらの製造上の課題を克服し、Amorphous Motorを量産可能な自動車用コンポーネントとして結実させた。さらに特筆すべきは、単に効率を追求したエコモーターに留まらず、自動車に求められる高い動力性能を完全に維持している点にある。このモーターは最高出力140kW(約188馬力)、最大トルク360Nmという、現代のパワフルなハイブリッド車やレンジエクステンダー車両の主機として十分に通用する強力なパフォーマンスを発揮する。効率と出力のトレードオフを乗り越え、実用的なパッケージングの中でこの数値を達成したことこそが、この技術の最大の真価だ。

システム効率「わずか1%」が持つ圧倒的なアドバンテージ

モーター単体で98.2%の効率を達成したという事実は、車両システム全体にどのような影響を及ぼすのか。Horse Powertrainの試算によると、このAmorphous Motorをハイブリッド車のパワートレインに組み込んだ場合、既存の最先端モーターを搭載した同型車両と比較して、燃料および電気エネルギーの総消費量を1%削減できるとされている。

一見すると「わずか1%」という数字は控えめに響くかもしれない。しかし、複雑に入り組んだ最新のハイブリッドシステムにおいて、システム全体の効率を1%向上させることがいかに困難であるかは、自動車エンジニアであれば誰もが知る事実だ。内燃機関の熱効率改善、インバーターの電力変換効率の最適化、バッテリーの内部抵抗の低減など、あらゆる要素がすでに限界近くまで絞り込まれている中で得られる1%は、極めて価値の高い物理的なアドバンテージを意味する。欧州のユーロ7や米国の新しい燃費基準など、グローバルで排ガス規制が年々厳格化する中において、OEM(自動車メーカー)にとってこの1%の余裕は、車両重量の増加をカバーしたり、空力設計の自由度を広げたりするための決定的な切り札となる。

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テクノロジー・ニュートラル戦略の加速

このAmorphous Motorの登場は、開発元であるHorse Powertrainの市場における立ち位置と、彼らが描く未来の戦略を鮮明に映し出している。Renault GroupとGeelyがそれぞれ45%、サウジアラビアの国営石油会社Aramcoが10%を出資して設立された同社は、世界中に17の製造拠点と5つの研究開発センターを擁し、19,000人の従業員を抱える巨大なパワートレインサプライヤーである。彼らの基本戦略は、特定の動力源に依存しない「テクノロジー・ニュートラル」な脱炭素アプローチの追求である。

先日、スペインのエネルギー企業Repsolと共同で発表された、最大熱効率44.2%を目標とし、WLTPテストサイクルにて3.3 L/100 km以下の燃料消費(約71 mpg)を目指す1.2リッター3気筒ターボエンジン「H12」の開発も、その戦略の重要なピースである。Horse Powertrainは、完全電動化への移行が不可避であると認識しつつも、その移行期間において数千万台規模で生産され続けるハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、そしてレンジエクステンダーEV(REEV)の存在を現実的に捉え、それらすべてのプラットフォームを底上げするためのコア技術を提供しようとしている。高効率な内燃機関と、Amorphous Motorのような極限までロスを削ぎ落とした電動モーターの組み合わせは、OEMが既存の車体プラットフォームを大規模に変更することなく、次世代の環境規制をクリアするための最適解を提供する。

Ingo Scholten副CTO(Deputy Chief Technology Officer)が「Amorphous Motorは、燃費と排出ガス性能のハードルを上げるための理想的なツールである」と述べているように、この技術はエコシステムの基盤技術として幅広いプラットフォームに波及していくことが予想される。IAA Summit 2025での技術展示を経て、ついに全貌が明らかになったこのモーターは、Renaultの次世代ハイブリッドモデルだけでなく、Geelyグループが展開する多様なブランド、さらには同社からパワートレインの供給を受ける世界中の自動車メーカーの製品に搭載される可能性が高い。

材料科学が切り拓くハイブリッドの未来

自動車の電動化技術は、バッテリーのエネルギー密度競争という化学領域から、モーターのコア素材という材料科学へとその主戦場を広げつつある。0.025mmのアモルファス鋼が切り拓いた98.2%という未知の効率領域は、内燃機関と電気モーターのハイブリッドという過渡期の技術が、いまだ劇的な進化の余地を残していることを明確に示している。テクノロジーの進化は常に、目立たないコンポーネントの内部で起こる微小な物理的変化から始まり、やがて巨大な産業構造の転換を引き起こす。Amorphous Motorは、まさにそのテクノロジーの深層で起きている物理的洗練の極致と言える。


Sources

  • Horse Power Train: