Intelの新CEO、Lip-Bu Tan氏が就任後初の四半期決算発表に合わせ、大規模な組織改革とコスト削減策を発表した。人員削減を示唆しつつ、エンジニアリング重視と官僚主義打破を掲げ、Intel再建への強い意志を示した。
新CEO Tan氏が描くIntel再建策:「エンジニアリング重視」と「官僚主義」打破
2025年3月18日にIntelのCEOに就任したLip-Bu Tan氏は、就任からわずか5週間で、Intelが直面する課題に対して抜本的な改革に乗り出す姿勢を明確にした。Tan氏は従業員向けのメモや決算説明会で、現在のIntelの企業文化を「遅すぎる、複雑すぎる、旧態依然としすぎている」と厳しく指摘。「我々は変わらなければならない」と変革の必要性を訴えた。
Tan氏が目指すのは、「エンジニアリング・フォーカスト・カンパニー(技術者中心の会社)」への回帰である。そのために、中核となるエンジニアリング部門を経営幹部チーム直属に格上げし、技術革新を妨げる「煩雑なワークフローやプロセス」を取り除くことを目指す。
さらに、組織構造の抜本的な見直しにも着手する。Tan氏は「多くのチームは8階層以上の深さがあり、不必要な官僚主義を生み出し、我々のスピードを鈍らせている」と述べ、経営幹部に対し、組織階層の削減、管理範囲の拡大、優秀な人材への権限委譲に焦点を当てた組織の見直しを指示した。かつてIntelでは、管理職の最重要KPI(重要業績評価指標)がチームの規模だったという驚きの事実にも触れ、「今後はそうではない。最高のリーダーは最小限の人員で最大の成果を上げるという哲学を信じている」と語り、少数精鋭で効率的な組織を目指す方針を示した。
また、社内の意思決定プロセスや業務効率化にもメスを入れる。「社内の管理業務に多くの時間とエネルギーが費やされ、ビジネスを前進させていない」とし、不要な会議の廃止、会議出席者の大幅削減、リアルタイムなデータに基づいた意思決定を可能にするためのプロセス近代化などを指示した。Intelの伝説的CEO Andy Grove氏が導入し、前CEOのPat Gelsinger氏が復活させた目標設定・管理手法であるOKR(Objectives and Key Results)や、フィードバック制度であるInsightsについても、形式的な要件を「任意」に変更するなど、柔軟性と効率性を重視する姿勢を打ち出している。
「人員削減は避けられない」:規模は未定もコスト削減目標は明確化
Tan氏の改革路線において、最も注目されるのが人員削減の可能性である。Bloombergは、Intelが最大で従業員の20%(2024年末時点で約108,900人、20%なら約21,780人)を削減する準備を進めていると報じた。しかし、Intelの広報担当者は「人員削減目標は設定していない」と公式に否定している。
一方で、Tan氏自身は従業員向けメモで「これらの重要な変更が我々の労働力の規模を縮小するという事実は避けられない」と明言。「将来に向けて会社を確固たる基盤の上に置くために、非常に困難な決断を下す必要がある。これは第2四半期(Q2)に始まり、今後数ヶ月で可能な限り迅速に進める」と述べ、人員削減が避けられないことを示唆した。
具体的な削減人数は明かされていないものの、コスト削減目標は明確に示された。Intelは、2025年の非GAAPベースの営業費用目標を、従来の175億ドルから170億ドルへと5億ドル引き下げ、さらに2026年には160億ドルへと10億ドル削減する計画を発表した。これは、今後2年間で合計15億ドルの営業費用削減を目指すことを意味する。Tan氏は投資家向け説明会で「バランスシートを健全にし、今年中に労働力の最適化のプロセスを開始する必要がある」と述べ、コスト構造の見直しが急務であるとの認識を示した。
削減は、研究開発(R&D)やマーケティング、一般管理費(MG&A)にも及ぶ見込みだ。Tan氏は、過去の削減から学んだ教訓として、重要な人材の維持・獲得とのバランスを取る必要性を強調し、各部門リーダーに優先順位に基づいた最善の意思決定を委ねると述べている。削減は慎重に行われるとしつつも、第2四半期から開始し、迅速に進められる見込みだ。
企業文化と働き方の変革:週4日出社義務化と「無駄」の排除
Tan氏は、企業文化の変革と並行して、働き方にも変更を加える。現在、ハイブリッド勤務の従業員には週3日程度のオフィス勤務が求められているが、Tan氏はこの方針の遵守が「良く言ってもまだら模様」であると指摘。「我々の拠点が、企業文化を実践する活気あるコラボレーションのハブとなる必要があると強く信じている」と述べた。
対面でのコミュニケーションが、より魅力的で生産的な議論や討論を促進し、迅速な意思決定を促し、同僚とのつながりを強化するとの考えから、2025年9月1日より、オフィス勤務を週4日に増やす方針を発表した。従業員が日常生活を調整する時間を確保するため、早めに告知したとしている。
前述の通り、会議の削減やOKRの任意化など、社内の「無駄」を排除し、従業員が本来注力すべき業務、特に顧客へのフォーカスに時間を最大限使えるようにすることも目指している。
事業戦略の再構築:AI、ファウンドリ、そしてコスト効率
Tan氏は、Intelの事業戦略についても見直しを進めている。特にAI分野では、「ポートフォリオを最適化し、新たに出現するAIワークロードに対応するための全体的なアプローチ」や、「推論モデル、エージェント型AI、物理AIによって定義される次世代コンピューティングを実現する」ことを目標に、AI戦略を再定義する方針を示した。
半導体受託製造(ファウンドリ)事業においては、「顧客の信頼を築く必要がある」とし、「顧客が必要とする電力、性能、面積(PPA)を満たし、予定通りにウェハを構築することで顧客を喜ばせることを学ぶ」と述べ、顧客満足度の向上と納期の遵守を重視する姿勢を強調した。
一方で、財務状況の厳しさから、資本効率の改善も急務としている。「我々のビジネスは資本集約的であり、財務実績が必要なレベルにない時期に重要な投資を行う必要がある。これは資本に慎重でなければならないことを意味する」と述べ、資本支出の削減(Tan氏はチームに20億ドルの削減策を見つけるよう指示したとされる)を進める方針だ。ただし、投資部門であるIntel Capitalのスピンオフは行わないとしている。また、プログラマブルロジック部門であるAlteraの株式51%をSilver Lake Partnersに売却することで、相当額のキャッシュを確保する動きも見せている。
技術ロードマップに関しては、Intelがプロセスリーダーシップ奪還の鍵と位置づける「18A」プロセスは、予定通り2025年後半に「量産」に入る見込みだ。しかし、次世代CPU「Panther Lake」搭載ノートPCが一斉に登場するわけではなく、まず年末までにパワーユーザー向けチップを投入し、他のチップは2026年第1四半期に登場する予定だという。さらに、その次の「Nova Lake」もPanther Lake同様、自社製造だけでなく台湾のTSMCの協力も得ると明言。将来的には70%の内製化を目指すものの、外部委託も維持する方針へと転換したことが示唆されている。
財務状況と市場の反応:厳しい現実と将来への課題
Intelの2025年第1四半期決算は、売上高が127億ドル(前年同期比横ばい)、純損失が4億ドルとなった。売上高、粗利益率、EPS(1株あたり利益)はガイダンスを上回ったものの、Tan氏は「正しい方向への一歩だったが、市場シェアを取り戻し、持続可能な成長を推進する道に戻るには、簡単な解決策はない」と述べ、現状に満足していないことを示した。第2四半期の見通しは、不確実なマクロ経済環境を反映して厳しいものとなっている。
市場の反応も厳しく、決算発表後、Intelの株価は5%下落した。また、米中間の関税問題も懸念材料であり、コスト増につながる可能性があるほか、顧客の慎重姿勢を招き、結果的に市場規模(TAM)の縮小につながる可能性も考慮しているという。
Tan氏は、自らのモットーを「期待を抑えて実績で超える」ことだと述べ、顧客の信頼を取り戻すまで休むことはないと決意を語った。彼の掲げる改革は、「業界の象徴を根本的に再発明する機会」「ビジネススクールで何世代にもわたって研究されるようなカムバックを成し遂げる機会」であると、その壮大さと困難さを強調している。
「困難なことになるだろう。痛みを伴う決断が必要になるだろう。しかし、我々はそれを実行する。なぜなら、それが顧客により良く貢献し、未来のための新しいIntelを構築するために我々がなさねばならないことだからだ」とTan氏は締めくくった。Intelが直面する課題は大きいが、新CEOの下で始まった大改革が、この巨大テクノロジー企業を再び成長軌道に乗せることができるのか、業界の注目が集まっている。
Sources
- Intel: Lip-Bu Tan: Our Path Forward