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Huaweiの最新AIチップ「Ascend 910C」はTSMC製?米輸出規制下の「抜け穴」疑惑

Y Kobayashi

2025年4月18日

Huaweiの最新AIアクセラレータ「Ascend 910C」を巡り、その心臓部である半導体が台湾のTSMCによって製造されている可能性が濃厚になっている。米国の厳格な輸出規制下にもかかわらず、どのようにしてHuaweiは最先端チップへのアクセスを維持しているのだろうか。

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Ascend 910Cの核心:TSMC 7nmプロセスへの依存

HuaweiのAscend 910Cは、中国国内のAI開発能力を示す試金石として注目されている。しかし、SemiAnalysysの分析によれば、このチップは純粋な中国製とは言い難い状況にあるようだ。

「AscendチップはSMIC(中芯国際集成電路製造)で製造可能だが、我々が注目しているのは、これが韓国製のHBM(High Bandwidth Memory)、台湾TSMCによる主要なウェハー生産、そして米国、オランダ、日本の数十億ドル規模のウェハー製造装置によって作られているグローバルなチップであるという点だ」とSemiAnalysysは指摘する。「一般的な誤解の一つは、Huaweiの910Cが中国製であるというものだ。設計は完全に中国で行われているが、生産においては依然として海外に大きく依存している」。

具体的には、Ascend 910Cの大部分はTSMCの7nmプロセスで製造されているという。これは、中国最大のファウンドリであるSMICも7nmプロセス技術を持つものの、歩留まりや生産能力の点でまだ成熟していないため、Huaweiがより安定したTSMCを選択した可能性を示唆している。

SemiAnalysysはさらに踏み込み、「SMICは7nmを有しているが、Ascend 910Bおよび910Cの大部分はTSMCの7nmで作られている。事実、米国政府、TechInsightsなどがAscend 910Bおよび910Cを入手し、調査した結果、すべてTSMC製のダイが使用されていた」と報告している。TechInsightsのような第三者機関による解析結果は、この主張の信憑性を高めるものだ。

輸出規制を回避する「迂回ルート」の存在

では、なぜ米国の制裁対象であるHuaweiが、TSMCの先端チップを入手できるのか。SemiAnalysysは、巧妙な迂回ルートの存在を指摘する。

「Huaweiは、Sophgoという別会社を通じて約5億ドル相当の7nmウェハーを購入することで、TSMCに対する制裁を回避できた」というのだ。Sophgoは中国のAIチップ設計企業であり、この取引が事実であれば、制裁の抜け穴を利用した形となる。

この件に関連してか、TSMCは過去に制裁違反で10億ドルの罰金を科されたと報じられている。これは、Huaweiの旧世代AIプロセッサAscend 910BにTSMC製チップが使用されていたことが発覚した際の措置と見られる。SemiAnalysysは、「TSMCはこの露骨な制裁違反により10億ドルの罰金を科されたが、これは彼らが利益を得た額のわずか2倍だ。Huaweiが別の第三者企業を通じてTSMCからウェハーを受け取り続けているという噂があるが、我々はこの噂を確認することはできない」と付け加えている。

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HBM調達にも海外依存と「抜け穴」か

問題はロジックチップだけではない。AIアクセラレータの性能を左右するHBM(広帯域メモリ)についても、中国は海外、特に韓国のSamsungに大きく依存している。

SemiAnalysysによれば、HuaweiはHBMの輸出禁止措置が発動される前に、Samsungから大量のHBMを確保していた可能性がある。「幸いなことに、Samsungが救いの手を差し伸べ、中国へのHBMのナンバーワンサプライヤーとなり、HuaweiはHBM禁止前に合計1300万個のHBMスタックを備蓄することができた。これは160万個のAscend 910Cパッケージに使用できる量だ」という。

さらに、禁止後もHBMが中国に流入している可能性も示唆されている。「禁止されたHBMが依然として中国に再輸出されている。HBMの輸出禁止は、特に生のHBMパッケージに対するものだ。HBMを搭載したチップは、FLOPS規制を超えない限り出荷可能である」とSemiAnalysysは解説する。

その具体的な手口として、「CoAsia Electronicsは、Samsungの大中華圏におけるHBMの唯一の販売代理店であり、ASIC設計サービス会社であるFaradayにHBM2Eを出荷している。FaradayはSPILに依頼して、安価な16nmロジックダイと共にそれを『パッケージ化』させている」という。そして、「Faradayはこのシステム・イン・パッケージを中国に出荷する。これは技術的には許可されているが、中国企業はその後、はんだを溶かしてHBMを回収できる。我々は、彼らがパッケージからHBMを非常に簡単に抽出できるようにする技術、例えば非常に弱い低温はんだバンプを使用していると考えている。したがって、『パッケージ化』と言う場合、可能な限り緩い意味で使っている」と、巧妙な迂回スキームの存在を推測している。この推測を裏付けるかのように、CoAsiaの収益は輸出規制が施行された2025年以降に急増しているという。

中国国内製造の現状と将来性

一方で、中国国内の半導体製造能力、特にSMICの動向も無視できない。SMICは現在7nmプロセス(N+2と呼ばれる改良版を含む)での製造能力を着実に向上させている。

SemiAnalysysは、「SMICとCXMT(長鑫存儲技術)の製造能力に関する警鐘を一貫して鳴らしてきた。歩留まりとスループットは依然として課題だが、問題は中国のGPU生産ランプアップが長期的にどうなるかだ」と指摘する。SMICは上海、深圳、北京で先端ノードの生産能力を増強しており、今年中には月産5万枚近くの生産能力に達すると見られている。

「TSMCは2024年と2025年にかけて80万個のAscend 910Bと105万個のAscend 910Cに十分な290万個のダイを提供したが、HBM、ウェハー製造装置、装置サービス、フォトレジストなどの化学物質が効果的に管理されなければ、SMICの生産能力は大幅に増大する可能性がある」とSemiAnalysysは警告する。つまり、長期的にはSMICがAscendチップの主要な供給源となる可能性も残されているが、それには依然として海外からの技術や部材へのアクセスが鍵となる。

輸出規制の有効性と今後の課題

Huawei Ascend 910Cを巡る一連の報道は、米国の対中半導体輸出規制の有効性に大きな疑問符を投げかけている。規制にもかかわらず、Huaweiが最先端プロセスや重要部品であるHBMへのアクセスを維持している可能性があることは、規制に「抜け穴」が存在し、それを巧みに利用されている実態を示唆している。

SemiAnalysysは、米政府に対し、チップそのものだけでなく、HBM、製造装置、そのサービス、さらにはフォトレジストのような重要化学物質に至るまで、より包括的かつ効果的な規制と執行体制の強化が必要だと訴えている。

Huawei Ascend 910Cの事例は、米中間の技術覇権争いが、単なるチップ設計能力の競争ではなく、複雑なサプライチェーン、国際的な規制、そしてその「抜け穴」を巡る攻防であることを浮き彫りにしている。今後、米国がどのように規制を修正・強化していくのか、そして中国企業がどのように対応していくのか、その動向が世界のハイテク産業の勢力図を左右することになるだろう。


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