Metaは2026年9月2日、長時間のエージェント型作業とコーディングを強化した「Muse Spark 1.3」をMuse CodeとMeta Model APIで提供開始した。前世代の1.2を発表してから28日後の更新だ。長文脈検索とコード理解の評価ではGPT-5.6 SolやOpus 5を上回る値が並び、製品改善に使わない通常版のAPI単価も両モデルより低い。ただし、Metaが比較表の主列に据えたmax推論は追加の安全性試験中で、リリース日に使えるのは従来からある推論レベルまでだ。公表値をそのまま「現行モデルの総合首位」と受け取ると、導入時の実力を見誤る。
28日で変えた長時間作業の振る舞い
1.2はMuse Codeと共同訓練され、計画から実装、検証までを長く続けるモデルとして8月5日に登場した。1.3では訓練対象を長時間のコード作業へさらに広げた。Metaによると、矛盾を含む資料から必要な文脈を組み立て、途中で計画の穴を直しながら、一つの長い会話に複数の作業が混在しても依頼を正しい作業へ結び付ける。
利用者とのやり取りも訓練対象になった。指示が曖昧なら質問し、自力で進めなくなれば助けを求め、元に戻せない操作の前には確認する。これは長時間動くエージェントで、誤った前提のまま処理を重ねる危険を抑える方向の変更だ。ただし、発表資料は質問の適切さや重大操作の見落とし率を数値で示していない。
Meta技術者による1.2との比較では、1.3は道具の呼び出しを約20%、トークン消費を約25%減らしたという。APIはトークン量で課金されるため、再現すれば一件の作業費にも効く。とはいえ、課題集合、試行数、絶対値、ばらつきは公表されていない。Meta社内の旧版比較であり、GPT-5.6 SolやOpus 5より20〜25%効率が高いという意味ではない。
リリース時に使えるxhighはmaxの成績と同じではない
Metaの評価表は、1.3について未提供のmaxと、現在使えるxhighを分けている。比較対象は1.2 xhigh、GPT-5.6 Sol max、Opus 5 maxだ。数値は各評価の原指標で、高いほど良い。「―」は未掲載を表す。
| 評価 | 1.3 max | 1.3 xhigh | 1.2 xhigh | GPT-5.6 Sol max | Opus 5 max |
|---|---|---|---|---|---|
| GDPVal-AA v2 | 1,754 | 1,709 | 1,615 | 1,710 | 1,824 |
| JobBench | 64.9 | 61.2 | 61.6 | 45.4 | 65.7 |
| OSWorld 2.0 | 66.9 | 57.2 | 47.6 | 62.7 | 68.3 |
| DeepSearchQA | 89.4 | 89.4 | 85.9 | 93.0 | 90.4 |
| Agentic IF Index | 57.8 | 55.7 | 46.2 | 60.5 | 59.1 |
| AutomationBench | 49.4 | 43.8 | 38.2 | 46.7 | 50.3 |
| MRCR 256K–512K | 98.5 | 97.6 | 66.3 | 91.5 | ― |
| MRCR 512K–1M | 98.1 | 93.1 | 55.5 | 73.8 | ― |
| DeepSWE v1.1 | 75.4 | ― | 55.0 | 73.0 | 74.0 |
| SWEAtlas CodeBase QnA | 59.4 | 54.0 | 46.2 | 53.5 | 52.7 |
| Terminal-Bench 2.1 | 88.8 | 89.2 | 82.9 | 88.8 | 86.7 |
発表時点で利用できるMuse Spark 1.3 xhighは、maxと比べてOSWorld 2.0で9.7ポイント、AutomationBenchで5.6ポイント、SWEAtlas CodeBase QnAで5.4ポイント、MRCR 512K-1Mで5.0ポイント低い一方、Terminal-Bench 2.1は0.4ポイント高い。xhigh同士ではJobBenchが旧1.2の61.6に対して61.2であり、改善は全項目一様ではない。
現行のxhighでも、MRCRの2帯はGPT-5.6 Sol maxを上回る。SWEAtlasは54.0でGPTの53.5とOpus 5の52.7をわずかに超え、Terminal-Benchも89.2で両社より高い。反対に、知識労働のGDPVal-AA v2とコンピューター操作ではOpus 5が上に立つ。検索、指示追従、業務自動化ではGPTかOpus 5が上位だ。長文脈とコード周辺が明確な強みで、エージェント型作業全般の首位ではない。
なぜ一枚の表を総合順位にできないのか
11行は同じ物差しを使っていない。GDPVal-AA v2は220件、44職種、米国9産業の成果物を匿名の一対一比較で採点し、人間を1,000に固定したEloで表す。JobBenchは35職種の65課題を個別の基準で採点する。AutomationBenchは600件の模擬業務を終了状態で判定するため、64.9と49.4を足したり平均したりしても意味はない。
実行条件も行ごとに異なる。DeepSearchQAは900問を同じ検索基盤とブラウザ環境で測る。MRCRは各文脈帯100例に8本の検索対象を埋め、道具を使わず文字列の再現度を測った。これらは比較条件をそろえやすい。対してDeepSWE v1.1は、1.3をmini-swe-agentで実行し、他モデルの値をDatacurveの公式ランキングから取った。Terminal-Bench 2.1もモデルごとに名称付きのコーディングエージェントまたは固定環境を使い、GPT値はOpenAIのモデルカードから採用している。モデル単体を同じ器に入れた試験ではない。
さらにMetaは、各モデルについて自社実行、公式ランキング、開発元の自己申告から「比較可能な最高値」を選んだと説明する。第三者モデル向けの指示、道具、実行時間が各社の最適構成を再現しない可能性も明記した。OSWorld 2.0は1.2だけ版06.24、ほかは08.08であるため、47.6から66.9への増加を純粋な世代差とは断定できない。Agentic IF IndexはMeta内部の複合指標で、外部から同じ課題を再実行するための単一セットもない。
公表表は得意分野を探す地図として使える。総合順位表としては使えない。
安さは強いが、contributor版はデータ利用条件が違う
API単価ではMuse Spark 1.3が明確に低い。100万トークン級の文脈窓を持つ3社の公開価格を、新規入力、キャッシュ入力、出力に分けると次のようになる。単位は100万トークン当たりの米ドルだ。
| モデル/区分 | 文脈窓 | 入力 | キャッシュ入力 | 出力 | 公開ページ上の条件 |
|---|---|---|---|---|---|
| Muse Spark通常版(1.3) | 100万 | 1.25ドル | 0.15ドル | 4.25ドル | 製品改善に使わない |
| muse-spark-1.3-contributor | 100万 | 0.10ドル | 0.002ドル | 0.20ドル | 製品改善に使う |
| GPT-5.6 Sol | 105万 | 4ドル | 0.40ドル | 20ドル | 期間限定価格 |
| Opus 5 | 100万 | 5ドル | 0.50ドル | 25ドル | 標準API価格 |
製品改善に使わない通常版Muse Spark 1.3は100万トークン当たり入力1.25ドル、キャッシュ入力0.15ドル、出力4.25ドルで、GPT-5.6 Solの4ドル、0.40ドル、20ドルおよびOpus 5の5ドル、0.50ドル、25ドルより低い。contributor版は0.10ドル、0.002ドル、0.20ドルだが、Metaは『製品改善に使用』する区分としている。
Metaの約25%少ないトークンという旧版比較まで再現すれば、完了した作業一件の費用差はさらに広がり得る。ただし、実際の請求額は再試行、キャッシュ率、道具の料金、各社のトークナイザーで変わる。GPT-5.6 Solの価格は少なくとも11月21日までの期間限定で、27万2,000トークンを超える入力では要求全体の入力単価が2倍、出力単価が1.5倍になる。
contributor版は桁違いに安いが、通常版と同じ条件の廉価版ではない。Metaの表は「製品改善に使う」とだけ記し、コード、指示文、道具の履歴のどこまでを、どれだけ保存して利用するかは説明していない。機密リポジトリへ接続する企業は、価格より先に契約文書で対象データ、保存期間、除外方法を確かめる必要がある。
Muse Code側にも提供条件の空白が残る。発表は1.3をMuse Codeで利用可能とする一方、現行の月額プラン表は5ドルのEveryday Usageで1.2へのアクセスを明記し、15ドルのHigh Usageから「最新モデルへのアクセス」を掲げる。最低プランで1.3を選べるかは、この記載だけでは判別できない。
採用はmaxの公開日より、自社タスクで決める
長いリポジトリから情報を取り出す作業やコードベース理解では、現在のxhighでもMuse Spark 1.3を候補に入れる根拠がある。反対に、検索中心の調査ではGPT-5.6 Sol、知識労働の成果物やコンピューター操作ではOpus 5がMeta表の上位だ。しかも差が数ポイントの行には分散や信頼区間がなく、業務上の優劣へ直接置き換えられない。
安全性についてMetaは、敵対的入力とプロンプト注入への耐性を高め、元に戻せない操作の判断も改善したと説明する。発表資料は攻撃集合、試行数、成功率を公表していないため、企業は削除、送信、権限変更を含む自社課題で確認しなければならない。将来のオープンウェイト版も予告段階で、モデル規模、ライセンス、1.3との同一性、公開日は未定である。
maxが公開されれば、Metaの主列と利用できる製品の推論レベルはそろう。ただし、各評価で使う課題と道具は異なる。実行環境や値の出所も行ごとに違う問題が残る。採用時は自社環境で完遂率と総トークンを競合と比べ、修正回数も測る必要がある。重大操作の前に正しく止まる割合も確認し、通常版のデータ条件に見合う一件当たり費用を出せるかで判断すべきだ。



