米ロサンゼルス郡上級裁判所の陪審員が2026年3月25日、MetaとGoogle(YouTube)に対して総額600万ドル(約9億円)の損害賠償を命じる評決を下した。Instagram中毒になったと主張する原告・Kaley(現在20歳、法廷ではK.G.M.と表記)が、幼少期からソーシャルメディアを使い続けた結果、うつ病、身体醜形障害(BDD)、自傷念慮を発症したと訴えた本件は、SNS企業が長年頼ってきた法的免責の盾を「欠陥製品」論で迂回することに成功した史上初の陪審評決となった。前日にはニューメキシコ州の別陪審団がMetaに3億7,500万ドルの賠償を命じており、ビッグテックにとって過去最大級の法的逆風が2日連続で続いた。全米に約2,000件存在する類似訴訟の先行指標(ベルウェザー)として位置づけられた本件の結果は、業界全体の将来を左右しうるものだ。
Section 230を迂回した「欠陥製品」論:判決を生んだ法的構造
ソーシャルメディア企業が何十年も法的責任を回避し続けてきた根拠が、1996年通信品位法第230条(Section 230)だ。この連邦法はプラットフォームをユーザーが投稿したコンテンツへの責任から包括的に免除しており、数多くの訴訟がこの壁の前に砕けてきた。
今回の原告側弁護士チームが採用した戦略は、その壁の外側を攻めるものだった。訴訟の焦点をコンテンツではなく、プラットフォームの設計そのものに定めたのだ。無限スクロール、自動再生動画、アルゴリズムによるレコメンデーション、絶え間ない通知、美容フィルター——原告側はこれらの機能が意図的に中毒性を持つよう設計されており、その結果として原告が精神的損害を被ったと主張した。主任弁護士のMark Lanierはこれを「デジタルカジノ」と表現し、「子どもをスマートフォンから絶対に離せなくする。それが依存症の工学だ」と陪審員に訴えた。
Section 230はユーザーの発言への責任を免除するが、企業が自ら設計した製品構造への責任は免除しない。この解釈によって、原告側は法廷に持ち込む扉をこじ開けた。陪審員12人のうち10人がMetaとYouTubeの双方の責任を認め、「プラットフォームの設計が原告の精神的苦痛に実質的な要因として寄与した」との判断を下した。判断は補償的損害賠償300万ドルと懲罰的損害賠償300万ドルの計600万ドルに達し、Meta(70%)とYouTube(30%)に按分された。
「IG is a drug」:内部文書が陪審員を動かした
判決の行方を決定的に左右したのは、原告側が法廷に提出したMetaの内部文書群だ。「ティーンで大きく勝ちたければ、トゥイーン(10〜12歳)として取り込まなければならない」という幹部の言葉。Instagramのアカウント開設に必要な最低年齢(13歳)を下回る11歳のユーザーが、競合アプリと比べて4倍もアプリに戻ってくることを示した社内データ。社内チャットでは従業員が「IG is a drug(Instagramはドラッグだ)」と書き記し、「ティーンはたとえ望んでも、Instagramをやめられない」と率直に記していた。
これらの文書は、企業が若年ユーザーの依存を把握した上で積極的に活用していた証拠として機能した。Lanierは閉廷論告で35フィート幅のコラージュを掲げた。そこに並んだのは、Kaleyさんが13歳未満だった時期にInstagramに投稿した数百枚のセルフィーだ。多くが美容フィルターで加工されており、Kaleyさんが身体醜形障害に苦しんでいた時期と重なっていた。
Mark Zuckerberg CEOは証言台で若年ユーザーの安全を最優先にしてきたと主張し、「もしユーザーが良い体験をしていないと感じているなら、なぜ製品を使い続けるのか」と述べた。しかし内部文書との矛盾は陪審員の目には明白に映った。Instagram代表のAdam Mosseriは「依存症」という言葉を避け、Kaleyさんの状態を「問題のある使用」と言い換えた。YouTubeのエンジニアリング担当VP、Cristos Goodrow氏は「YouTubeは利用時間を最大化するよう設計されていない」と主張したが、自動再生機能の設計意図について陪審員が納得する説明を提供できなかった。Meta側の弁護人はKaleyさんの不安定な家庭環境や両親の離婚を精神的苦痛の主因として主張したが、こちらも採用されなかった。
600万ドルより重い、2,000件の訴訟への時限爆弾
今回の評決額がMeta(時価総額約1.9兆ドル)とGoogle(約2.3兆ドル)の財務を直撃することはない。600万ドルは両社が四半期ごとに稼ぐ数十億ドルの利益に対して誤差の範囲だ。Lanier氏が陪審員に向けてM&Mキャンディを示し「1粒が10億ドル相当だ」と述べたのは、この不均衡を視覚的に伝えるための演出だった。陪審員の1人、Victoria氏は評決後に「私たちは会社に痛みを感じてほしかった」と述べたが、主任弁護士自身も「より大きな金額が出ると思っていた」と認めている。
判決の本質は金額ではなく、法的先例としての効力にある。今回のケースはカリフォルニア州裁判所内で連結されている数千件の類似訴訟の判断に直接影響するベルウェザーとして機能する。2026年夏にはカリフォルニア州オークランドの連邦裁判所で複数の州・学校区が原告となる連邦裁判が予定されている。同年7月にはロサンゼルスでInstagram、YouTube、TikTok、Snapchatを被告とした別の州裁判も開廷予定だ。
今回の裁判ではTikTokとSnapが開廷直前に原告と和解し、金額非公開で訴訟から離脱した。残ったMetaとYouTubeが敗訴するという展開は、他の被告企業の和解交渉を加速させる可能性が高い。投資会社D.A. DavidsonのアナリストGil Luria氏は「このプロセスは将来の訴訟と控訴を通じて長引くだろうが、最終的にはこれらの企業が成長を損なうような消費者保護策の導入を余儀なくされる可能性がある」と述べた。
議会が動けない中、陪審員が業界を変える圧力源になる
1990年代のたばこ訴訟は、数十年かけて蓄積された科学的証拠と内部文書の開示、そして各州検察官の連携によって初めて業界を揺さぶった。フィリップ・モリスやR.J.レイノルズなどのたばこ会社は1998年に40以上の州と2,060億ドルのマスター和解を結び、未成年者向けマーケティングの禁止と厳格な規制の受け入れを余儀なくされた。SNS訴訟の関係者の多くが「ビッグタバコ訴訟」との類似を指摘するが、法律専門家はその構造的な相違点についても慎重だ。アメリカン・エンタープライズ研究所の非常勤上級研究員、Clay Calvert氏は「前途は長いが、この決定は非常に重要だ。原告勝訴の評決が続けば、被告は未成年者へのコンテンツ配信方法と設計の見直しを迫られる」と述べた。
今回の評決を受け、米上院のMarsha Blackburn議員(共和党)とRichard Blumenthal議員(民主党)は超党派でSNSの安全設計を義務付ける法制化を求める声明を出した。米国では少なくとも20の州が2025年までにSNSと子どもに関する法律を制定しており、オーストラリアは2025年12月に16歳未満のSNS利用を禁止した。マレーシア、スペイン、デンマークも類似規制を検討している。一方、米連邦議会での包括的なSNS規制法案はこれまで繰り返し挫折してきた。
MetaもGoogleも控訴を表明している。しかし控訴審の結論が出るまでの間、夏には連邦裁判、7月には州裁判という訴訟のカレンダーが淡々と進む。法廷で次々と「欠陥製品」と認定されれば、プラットフォームの設計変更は避けられなくなる。議会の立法機能が機能不全に陥っている中、陪審員が業界規制の実質的な担い手になりつつある——2026年3月に起きたことの核心はそこにある。
Sources
- CNBC: Jury in Los Angeles finds Meta, YouTube negligent in social media addiction trial
- Reuters: Meta, Google lose US case over social media harm to kids
- NPR: Jury finds Meta and Google negligent in social media harms trial
- The New York Times: Meta and YouTube Found Negligent in Landmark Social Media Addiction Case