長らくiPhoneの独壇場であった磁気ワイヤレス充電の世界に、ついにAndroid勢が本格参入の兆しだ。Wireless Power Consortium(WPC)は2025年7月23日、新たなワイヤレス充電規格「Qi2 25W」を正式に発表。充電速度を向上させるだけでなく、これまで沈黙を続けてきた「主要なAndroidスマートフォン」が初めてQi2エコシステムに参加することを明らかにした。

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長い沈黙を破るWPCの発表、「Qi2 25W」とは何か?

まず、今回の発表の核心である「Qi2 25W」について整理しよう。これは、WPCが定めるワイヤレス充電規格Qiの最新バージョン(正式名称:Qi v2.2.1)のブランド名である。

その最大の特徴は、その名が示す通り、最大25Wの電力供給に対応したことだ。2023年11月に発表された既存のQi2規格は最大15Wであったため、実に67%近い出力向上となる。WPCの調査によれば、ワイヤレス充電の満足度を向上させるために消費者が最も望んでいた機能は「より高速な充電」であり、今回のアップデートはまさにその声に応えるものだ。

WPCのExecutive DirectorであるPaul Struhsaker氏は、「Qi2 25Wの驚くほど高速で効率的なワイヤレス充電は、ワイヤレス充電の利用浸透を促進し、新規格の採用を加速させるだろう」と、その期待を語る。

しかし、Qi2 25Wの真の重要性は、速度向上だけではない。それは、これまでメーカー各社が独自に開発してきた高速ワイヤレス充電プロトコルが乱立し、ユーザーが互換性の問題に悩まされてきた状況に終止符を打つ可能性を秘めている点にある。WPCは、この新規格が「真に高速なQi認証ワイヤレス充電を可能にする最初の規格」であると強調しており、業界全体の標準化と相互運用性の向上という大きな目標を掲げている。

なぜ「今」なのか? Android陣営の長い停滞とその背景

今回の発表で最も注目すべき一文は、「Apple iPhoneに加え、主要なAndroidスマートフォンがこのローンチで初めてQi2エコシステムに参加する」という宣言だろう。この背景を理解するためには、2023年のQi2発表以降のAndroid陣営の不可解なまでの「停滞」を振り返る必要がある。

Qi2は、Appleが開発したMagSafe技術をベースにした「Magnetic Power Profile (MPP)」を導入し、磁石で充電器とデバイスを正確に位置合わせすることで、充電効率と安定性を劇的に向上させることを目的としていた。これは、AndroidとAppleがワイヤレス充電で足並みを揃える画期的な機会になるはずだった。

しかし、現実は違った。Samsung、Google、OnePlusといった主要Androidメーカーは、Qi2の核心であるマグネットの本体内蔵にことごとく消極的な姿勢を示したのだ。その結果、WPCは「Qi2 Ready」という妥協案とも言える認証を設けざるを得なくなった。これは、デバイス本体にマグネットを内蔵せず、対応ケースを装着することでQi2の機能を利用できるというものだ。SamsungのGalaxy Z Fold 7/Flip 7などがこの「Qi2 Ready」認証を取得したが、これはユーザーに追加のコストと手間を強いるものであり、Qi2が目指したシームレスな体験とは程遠いものだった。

なぜAndroidメーカーはマグネット内蔵をためらったのか。コスト増加、本体の厚みが増すことへの懸念、そして自社独自の高速充電規格への固執など、様々な理由が考えられる。しかし、その結果としてAndroidエコシステムは分断され、ユーザーはAppleのMagSafeが提供するような統一された便利なアクセサリー体験を享受できずにいた。この状況こそが、今回の「主要Androidの参加」という発表に大きな意味を持たせている。

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ゲームチェンジャーはGoogleか? Pixel 10が握る逆転の鍵

では、WPCが言う「主要なAndroidスマートフォン」とは、具体的にどのデバイスを指すのか。最有力候補として考えられるのが、Googleの次期フラッグシップモデル「Pixel 10」だ。

実際、GoogleはQi2の高速化開発に貢献していた実績がある。さらに、Pixel 10向けに「Pixelsnap」と呼ばれる磁気アクセサリーシステムを開発中であるとの噂が、この推測を強く裏付けている。8月20日に発表が予定されているPixel 10が、Android陣営で初めて「真のQi2 25W」を搭載するデバイスとなる可能性は極めて高いと言えるだろう。

もしこれが実現すれば、その意味は大きい。Googleが自ら旗振り役となり、AppleのMagSafeエコシステムに対抗する、オープンで強力な「Android版MagSafeエコシステム」を構築しようとする戦略的な一手と見ることができる。標準化された規格の上で、多くのサードパーティメーカーがPixelに対応した磁気アクセサリーを開発・販売するようになれば、Android全体のプラットフォームとしての魅力は飛躍的に高まるだろう。

「真のQi2」は実現するのか?

楽観的な見通しが広がる一方で、冷静に課題も指摘しなければならない。最大の懸念点は、依然として「Androidメーカーが本当にマグネットを本体に内蔵するのか」という点に尽きる。\

The VergeがWPCに対し、「今後のAndroidサポートは、マグネットを内蔵した『完全なQi2』なのか、それとも従来のような『Qi2 Ready』なのか」と問い合わせているが、この問いに対する明確な答えはまだない。これが、今後のQi2普及の行方を占う上で最大の分水嶺となる。

これまで唯一、HMD Skylineがマグネット内蔵のQi2を完全サポートしていたが、メジャープレイヤーの参入がなければエコシステムの拡大は望めない。たとえGoogleがPixel 10で先陣を切ったとしても、SamsungやOnePlusといった他の巨大メーカーが追随しなければ、その影響力は限定的なものに終わってしまうだろう。Samsungがユーザーに対し「薄いスマホとQi2マグネットのどちらを好むか」という調査を行っていたという事実は、メーカー側の葛藤が未だに続いていることを示唆している。

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ユーザーと業界にもたらす変化と未来

WPCによれば、すでに14のデバイス、受信機、送信機がQi2 25Wの認証を完了しており、さらに「数百のデバイス」が認証待ちの列に並んでいるという。この勢いが本物であれば、ワイヤレス充電市場は新たな時代を迎えることになる。

もし「真のQi2」がAndroidに広く普及すれば、ユーザーはより高速で安定した充電体験に加え、メーカーの垣根を越えた豊富な磁気アクセサリーの選択肢を手に入れることができる。一方、アクセサリーメーカーにとっては巨大な新市場が生まれ、業界全体の活性化につながるだろう。

今回のWPCによるQi2 25Wの発表は、スマートフォンの利便性を大きく左右するワイヤレス充電の世界で、Apple一強時代に終止符を打ち、新たな競争と協調の時代を切り開く可能性を秘めた大きな変化の始まりを告げる物と言えるだろう。その成否の鍵を握るGoogle Pixel 10の発表である8月21日が待ち望まれるところだ。


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